Happy New Year!!


中央公園の出店は大盛況だった。
向こうの方でバザーもやっているが、名物の大きな噴水の周りには、まさに祭りといった風情の屋台が所狭しと並んでいる。
カステラ、クレープなどのお菓子から、フライドポテト、ベーグルなどの軽食、持ち歩きながら遊べる玩具。ダーツや射的などもある。
コンドルとジルはたくさんの店と、それに群がるたくさんの人々に、多少辟易しているようであった。
「た、たくさん人が、い、いるんですね…」
「…そうだね」
感心したようなコンドルの言葉に、淡々と答えるジル。真昼の前で出会ってここに来るまでの間、ずっとそんな構図が続いていた。ジルが喋るのが苦手なのか、それともあまり人と関わりたくないのかは判らないが…コンドルもそんなに、人間と喋るのは得意な方ではない。
「あ、あの、ボク、兄さまの誕生日プレゼントを、買おうと思って……」
「…そうなんだ。見ておいでよ」
何か話題を提供しようと口を開いても、軽くかわされてしまう。コンドルは若干さびしそうな表情で、じゃあ、と言って向こうの雑貨の方に行ってしまった。
ジルは一瞬申し訳なさそうな顔になるが、すぐに嘆息してきびすを返す。
せっかく来たのだから、いろいろ見て回るのも良い。本当にたくさんの屋台がある。
ジルは食べ物から工芸品、アクセサリー、旅用品など、いろいろな屋台があるのをじっくりと見ていった。もっとも、大して物は買っていないが。こういうものは、雰囲気が大事なのだ…と思っている。
「よっ!そこのお嬢ちゃん!」
声をかけられ、おおよそ「お嬢ちゃん」の自覚がないので自分の後ろに誰かいるのかと振り向いてみる。
「あんただよ、あんた!そこのでっかい猫耳のお嬢ちゃん!」
大きな猫耳と言われれば、この中には自分しかいないようだ。ジルは少し驚いて、声をかけてきた屋台の主人の方を向いた。
「どう?今夜のおかずに。安くしとくよ!」
「………魚…?」
その屋台は、魚を簡単に調理して売っているらしい。所狭しと、焼いたり揚げたりした魚が並んでいる。が、他の食べ物のように、歩きながら食べられるといった類の品物ではないようだ。
ジルは少し眉をひそめた。
「…いや、私は……」
「そんなこと言わないでさあ!ほら!このカニ!美味しいよー、今なら銀貨1枚で大奉仕!買って損はないから、絶対美味しいから!ね!」
「…あの………」
いらないと言えないでいるうちに、ジルは無理やりカニを押し付けられ、銀貨1枚を取られていた。

「どんなのにしようかな…兄さまへのプレゼント……」
一人、楽しそうに屋台をめぐるコンドル。
「あれっ…コンドルじゃない?」
と、声をかけられ、振り向く。
「あっ……れ、レティシアさん」
以前共に依頼を受けたレティシアの姿に、コンドルは笑顔を浮かべた。
「コンドルも新年祭に来てるの?」
「あ、は、はい…あ、あの、に、兄さまの、誕生日プレゼントを……」
「へぇ、コンドルもお兄さんいるんだ」
「は、はい……あ、ああっ、えっと、あの…それもあるんですけど、あの、探し物を、してるんです…」
「探し物?」
きょとんとするレティシア。
コンドルはこくりと頷いた。
「えっと、さっき、あの、怖い人から助けてくれた人が…あの、その怖い人に、剣を持っていかれてしまったんです…それで、その人を探してて……」
「ホントに?!悪いことをするヤツがいるのね!ちょうど私も人を探してるところだし、一緒に探してあげる。どんな人?」
「え、あぁあの……」
男の特徴を、と聞かれても、とっさのことであまりよく覚えていない。かといって、ジルの持っていた剣の特徴はもっと覚えていない。今更ながらに、手がかりがないことをコンドルは痛感した。
言いよどむコンドルを根気強く待っていたレティシア、だったが。
「あっちで魔王ゲーミフィギュアが大特価ですって!」
「ぬわんですってぇぇっ?!」
どこからか聞こえてきた声に激烈に反応する。
「ごめんコンドル!私行かなきゃ!また後でね!」
どこにいるのか、どこで待ち合わせるのかも、相手の返事すら待たずに、レティシアは走り去っていってしまった。
「あ……れ……レティシアさん…?」
コンドルは呆然と、それを見送っていた。

ジルはなんとなく釈然としない気持ちでカニを持って歩いていた。すると、向こうの方からコンドルが歩いてくる。
「あ、じ、ジルさん」
「………プレゼントは、買えた?」
「あ、は、はい。いいものが見つかりました」
コンドルは嬉しそうに笑って、手の中にある包み紙を大事そうに撫でた。
「…じ、ジルさんは…そのカニは……お、お好きなんですか…?」
ジルとカニという取り合わせが意外だったのか、コンドルが目を丸くして問う。
「いや…なんか知らないけど……買うことになっちゃって…」
「…た、食べるんですか?」
「いや、食べ方わからないし……どうしよう」
困った顔のジルにつられて困った顔になるコンドル。
と、ふいに何かに思い当たったらしく、ぽんと手を叩いた。
「あ、あの、じ、ジルさん、あの、さ、さっきのお店…真昼の月亭っていうんですけど、あそこで、今日、し、新年会があるんですよ」
「新年会?」
きょとんとして、ジル。
「は、はい。あの、ぼ、ボクの知り合いの方が幹事なんですけど、銀貨2枚と、持ち寄り一品で、だ、誰でも参加できるんです。じ、ジルさんもよろしければ、そのカニを持ち寄り品にして、みんなでパーティーしませんか?」
うきうきした様子で、一生懸命話すコンドル。
ジルは少し考えて、頷いた。
「……そうだね。このまま腐らせるのももったいないし。そうするよ」
コンドルは嬉しそうに微笑んだ。
「は、はい、じゃあ、夕方からですから、それまでにジルさんの探し物を見つけましょうね」
「…そうだね」
ジルはそこで、わずかに微笑んだ。
「じゃ、じゃあ、早くパフィさんのところに…」
と、コンドルが歩き出そうとしたところで。
どんっ。
「うわぁっ?!」
「きゃあっ」
今日はぶつかる人が多い。ぶつかりデーだ。
やはりドンとぶつかって始まるロマンスは王道中の王道であろう。
この場合あまり関係ないが。
「ご、ごめんなさい、よ、よそ見してて…だ、大丈夫ですか?」
「……大丈夫?コンドル…この辺りは人が多いんだから、ちゃんと気をつけてないと」
「す、すみません……」
コンドルが慌てて助け起こしたのは、肩までのウェーブのかかった金髪に、青いコートを着た少女だった。
彼女は助け起こしたコンドルをまじまじと見ると、やおらその小さな体に抱きついた。
「ママ!!」
「ま、ままままママ?!」
激しくうろたえるコンドル。
いくら髪が長いからとはいえ、自分とさして変わらないか、ともすると自分より下の年齢にも見えるコンドルをママ呼ばわりはいかがなものだろう。
ジルは冷静にそんなことを考えたが、とりあえず落ち着いた表情で言う。
「……コンドルの子供?」
「ちちちちがいます!あの、ええっ?!」
面白いほどうろたえるコンドル。
少女は声をかけてきたジルの方を見ると、首をかしげた。
「……ママ?」
コンドルに抱きついたまま。
ジルは怪訝そうに眉を寄せた。
「…ママを探しているの?」
その言葉に、少女はむっとして顔を背ける。
「あ、あの、ええっと、お、お名前は…」
コンドルが問うと、少女はうつむいたまま、小さく答えた。
「……レオナ」
「レオナさん、ですね」
「お父さんかお母さんと、一緒に来たの?」
ジルの質問には、相変わらずむっとしたように黙りこくる。
ジルが気に食わないのか、それとも…
「あ、あの、ジルさん。この子の保護者さんを探してもいいですか?」
「……それは、構わないよ。迷子だったら、きっと探してる人がいるだろうし…」
ジルは無表情で、それでも肯定の意を示した。
コンドルは嬉しそうに表情を緩めると、レオナの手を取って立ち上がらせた。
「じゃ、じゃあ、行きましょう……あの、ボクたちも今、探し物してるところなんです。
今から、すごくよく当たる占い師さんのところに行きますから…そこで、レオナさんのことも一緒に占いましょうね」
レオナは優しく言うコンドルの顔をじっと見て…ややあって、こくりと頷いた。
「…じゃあ、行く先々で、このこの保護者らしき人を見なかったか、ざっと訊いてみよう」
ジルが言い、コンドルはそちらに向かって頷く。
「そ、そうですね。み、見つかると良いですけど…」

しかし、結局レオナの保護者を見たという人も見つからないまま、パフィの占いのブースにたどり着いた。
「わ、わぁ……や、やっぱり、大人気なんですねえ…」
予想通りというか、パフィの青いテントにはすでに長蛇の列ができていて。
コンドルたちは、その後ろに並ぶことにした。
レオナは先ほどコンドルに買ってもらったフライドポテトをおとなしく食べている。
「……こんなに列が出来るなんて…その占い師、よっぽど当たるんだ?」
ジルが自分の知らない世界を語る調子で言うと、コンドルは頷いた。
「は、はい…それはもう本当に、よく当たるんです」
「占いとかって、そんなに信じてないんだけど…どんな占いをするの?」
「た、タロットカードを使った占いです」
「タロット……あの、神々を模したカード?」
「は、はい。あの、手を触れずにカードを動かすんです。と、とってもよく当たるんですよ」
「…とってもって…どのくらい?」
「と、とってもです。外れることがないですよ」
「そう……?」
コンドルの口調もあいまってか、当たる当たると言われるほど胡散臭い。
が、当たると信じている人間の前でそれを口にするのも気が引ける。ジルはそれについては特にコメントせず、質問の矛先を変えた。
「…コンドルは、前に占ってもらったことがあるの?それとも、コンドルの個人的な知り合い?」
「あ、あの、い、以前に受けた依頼で知り合って……」
「…そう。結構、依頼を受けることって、あるの?」
「あ、あの、はい……じ、自分で、お金稼がなきゃいけないし…」
「そうなんだ…偉いね。若いのに」
自分も相当若いのだが、まあコンドルの方がずっと若いのでそういう言い方をする。
もっとも、どこからどう見ても子供の彼を雇う者はそうそういないと思うのだが…自分も似たようなものなのだし。
と、そんなことを言っている間に、列は短くなり、コンドルたちの番になった。
コンドルはテントの入り口にかけられたカーテンをめくると、中の人物に声をかけた。
「こ、こんにちは、パフィさん。お元気ですか?」
中にいた人物は、コンドルの顔を見ると嬉しそうに微笑んだ。
「あ、コンドルー。お久しぶりなのー」
その少々間延びした声に、ジルは意外そうな顔でコンドルに続いてテントの中に入る。
テントの中に座っていたのは、青い占い装束を着たまだ若い少女だった。顔の両脇から伸びるふさふさした白い耳、床に横たわる大きな尻尾から、白竜族なのではないかと思う。
パフィ、と呼ばれた占い師は、上機嫌でニコニコ笑いながら、コンドルに椅子を勧めた。
「よく来てくれたのー。今日は、何か占うことがあるのー?」
「あ、あの、三つあるんですけど…あの、まずは、この人なんですけど…」
コンドルはそう言って、ちらりとジルのほうを見る。
「ジルさんというんですけど、あの、た、大切なものを取られてしまったんです。ど、どこに行けば取り返すことが出来るでしょうか?」
「わかったのー」
パフィはにこりとジルの方に微笑みかけると、目を閉じて、机の上にまとめて置かれたカードに手をかざした。
すると、カードがふわりと浮き上がり、す、とその中から3枚が飛び出て、ふわりとテーブルに着地する。
「!………」
手を触れずにカードを動かす、と言うコンドルの言葉の意味がよくわからなかったが、まさしくそのままの意味だった。思いがけない光景に目を見開くジル。レオナも黙ったままだが、その光景に釘付けになっている。
パフィは目を開けると、カードを一枚めくった。
「FALSE」風の神のカード。パフィから見て、正立の向きにある。正位置、といったか。
2枚目。「DIESH」大地の女神のカード。逆位置。
3枚目。「GANNA」殺戮の神のカード。逆位置。
パフィは少し眉を寄せると、先ほどの間延びした口調とは違った様子で、占いの結果を語り始めた。
「……人がたくさんいる…大きな通り。ここから遠くない。困難が待ってる。困難は味方をつけている。大きくて、強い…けど、もろい。必ず打ち勝てる。打ち勝ったとき、心の迷いも晴れる」
「!……」
ジルはドキッとして身を竦めた。
心に迷いがあることを言い当てたのは、偶然だろうか。占いなど信じていなかったが…
パフィは顔を上げると、にこりと微笑んだ。
「たぶん、ここを出てまっすぐのところにある、大通りなのねー。でもー、それを取り戻すまでに、ちょっと大変なことがあるみたいなのー。ジルの大切なもの、持って行っちゃった人はー、それを返したくなくてー、仲間を連れてきてるのー。でも大丈夫なのー、ジルの大切なものは、必ず戻ってくるのー」
「………わかった。ありがとう」
ジルは素直に頷いて、礼を言った。パフィはにこりと微笑んで、コンドルの方を向く。
「あと2つ、言うのー」
「あ、は、はい、こ、今度は、こっちの子なんですけど……」
コンドルは、言ってレオナの方を向いた。
「こ、この子の保護者さんはどこで探したら見つけられるでしょうか」
「わかったのー」
パフィはまた目を閉じると、同じようにカードに手をかざした。
同じように、3枚のカードがひとりでに抜き出て並び、パフィがそれをめくっていく。
1枚目。「FALSE」風の神のカード。正位置。
2枚目。「MUHLA」月の女神のカード。正位置。
3枚目。「STRAMIA」星の女神のカード。正位置。
「…親しい人がたくさんいるところ…パーティー。楽しそうな人たちの姿。大切な人に会える」
やはり、神妙な口調で言ってから、パフィはコンドルの方を向いた。
「ミケが新年会やるって言ってたのねー。そこに行けば、いるのー」
「そ、そんなことまで判るんだ…」
感心と、少しの驚愕が混じった感想を漏らすジル。コンドルはわかりました、と頷いた。
「さ、最後なんですけど…ぼ、ボクの兄さまが今、危ない事してないかどうか占ってもらえますか?」
「わかったのー」
三度占いをはじめるパフィ。
1枚目。「RUHITESS」太陽神のカード。正位置。
2枚目。「DIESH」大地の女神のカード。正位置。
3枚目。「MIDDLEVERS」絶対神のカード。正位置。
「…安定…穏やかな生活…幸せ。秩序」
パフィは呟いてから、コンドルの方を向いた。
「危ないことはしてないのー。何事もなく、平和に暮らしてるのねー」
「そ、そうですか…よかった」
コンドルはほっとしたように頷いた。
「じゃ、じゃあ、レオナさんのほうは、夕方の新年会に行けばいいみたいですから…さ、先にジルさんのほうに行きましょうか」
「…大通り、って言ってたね。レオナ、もう少し付き合ってくれる?」
ジルが問うと、レオナは黙ってこくりと頷いた。
「じゃ、じゃあ、パフィさん、ありがとうございました」
「ありがとう…お仕事、がんばってね」
コンドルとジルは礼を言い、パフィのテントを後にした。



レプスの刻−王宮へ

レプスの刻−大通りへ

全体マップに戻る