Happy New Year!!
はあ、はあ、はあ……
日も昇りきり、そろそろ人々も外で活動を始めようか、という頃。
オルーカは、必死にあたりをきょろきょろしながら、あちらへ行ったりこちらへ来たりを繰り返していた。
顔には困惑の表情が張り付き、手も足も思い通りに動かないというようにもどかしげに体を動かす。
「もう……どこに行ってしまったんでしょう…!」
困惑と、狼狽と、少しの苛立ちと。焦りを表情に出しながら、大通りを行き来して。
あれよあれよという間に、一体どこからこんなに沸いて出たのか、というほど、大通りは人であふれ始めた。
「きゃっ」
遠くばかりを見ながら歩いていたせいだろう。不意に、壮年の女性とぶつかるオルーカ。
「あ、すいません!急いでいたもので……」
「いいえ、いいんですよ、気にしないで」
必死に謝るオルーカに、女性は優しく微笑みかける。
オルーカは、困惑の表情のまま女性に訊いた。
「あの、すいません。この辺りで10歳くらいの子どもを見ませんでした?青い服を着た金髪の女のコなんですけど…」
「青い服の…金髪の女の子?」
女性は首をかしげて、それから首を振った。
「これだけ人が多いと……ちょっと、心当たりがないわねえ。
「そうですか…どうもすみません、ありがとうございました」
オルーカは丁寧に頭を下げて、また駆け出す。
ある者は慌しそうに、ある物は楽しそうに、大勢の人間が通りを行き交う。
ただでさえ人の多い首都が年末のため更に混み合っている今日、よりによってどうして。
「レオナ……」
オルーカは、依頼を受けて面倒を頼まれた少女の名をぽつりと呟いた。
おとなしそうな子だった。だから少し目を離しても大丈夫だと思った。
まさか、その間に逃げられてしまうとは。
「……っ、悔やんでいても、始まりません…」
もし、悪いことを企む者たちにでも見つかったら。男爵の令嬢だ、使い道はいくらでもある。
否、そこまで最悪の事態に陥らずとも、これだけの人出だ。小さな女の子は大人の視界には入りにくい。もみくちゃにされ、怪我でもしていたら…
「……そうならないように、早く見つけなければ、でしょう!」
オルーカは頭を振って、表情を引き締めた。
胸の辺りをぎゅっと押さえ、高鳴る鼓動を沈める。
もう一度はぐれた場所から探してみよう。
そうだ、役所にも顔を出して迷子の届けが出ていないか確認しなければ…。
あとは…あとは?
……とにかく隅々まで捜すしかない!
オルーカは疲れを振り払い、再び走り出した。
「ひ……酷い目にあったわ……」
結局、本物のモデルが来て、やっと人違いだと理解してもらい、異様な熱気と人の波が渦巻く「ラージサイト・ヴィーダ」を出ることが出来た頃には、もう日はすっかり昇りきっていた。
へろへろになりながら、大通りへと足を運ぶレティシア。
「ええと、真昼の月亭は……っと……」
辺りをきょろきょろと見回した、その時。
どん。
「きゃ」
「す、すみません、よそ見してて…って、あれ」
突如人にぶつかられ、驚いてそちらを見ると。
「あれ、オルーカ!久しぶり!」
「レティシアさん!お久しぶりです」
先日依頼を共に受けた懐かしい顔に、レティシアは思わず顔をほころばせた。
それはオルーカも同じようで、嬉しそうに表情を崩す。
「お元気そうで。年末もヴィーダで過ごされるんですか?」
「うん。本当は実家で過ごすつもりだったんだけどね、ミケが新年会やるって言うから、急遽ヴィーダに戻ってきちゃった」
「え、ご実家って…?」
「マヒンダのほうなの」
「マヒンダですか?!そんな遠くからヴィーダに…お、お疲れ様です」
レティシアのミケへの強烈なアピールを知っているオルーカとしては、そこまでしてしまう気持ちも理解出来て。本当に、この少女の一途さには頭が下がる想いだ。
「オルーカも、ミケの新年会、来るの?」
「ええ、もちろんそのつもりです。出し物のために、夜なべして色々準備してたんですよ」
にっこりと微笑むオルーカ。
「わ、楽しみ。私、急に出てきちゃったから…何にも準備してないや」
「よろしければ、レティシアさんも一緒にやりませんか?」
「え、私も?急に飛び入りで出来るものなの?」
「大丈夫です、宴会芸は技術よりもノリと勢いですよ!大丈夫です、レティシアさんならきっと輝きます!」
「そ、そう……?」
オルーカってこんな一面もあったのね…と、ちょっとたじろぐレティシア。
と、オルーカが不意に何かを思い出したように、そわそわと辺りを見回した。
「そ、そうでした、それはそれとして、こんなところにいる場合じゃなかったのでした…」
「え、どうしたの、オルーカ?」
きょとんとしてレティシアが問うと、オルーカは困ったような表情を彼女に向けた。
「あの、レティシアさん、金髪で青い服を着た、10歳くらいの女の子を見かけませんでしたか?」
「金髪で、青い服?」
レティシアはうーんと唸って、首を振った。
「うーん、ちょっと心当たりないなあ。その子、どうしたの?…はっ、まさかオルーカの…?!」
「ち、違います!」
オルーカは慌てて首を振った。
「ええと、ちょっと依頼を受けて預かってる子で、はぐれてしまったんです」
「えっ、それ、大変じゃない!」
レティシアは驚いて言った。
「金髪で、青い服を着た女の子ね。名前は?」
「レオナです」
「レオナちゃん。わかったわ、私も手伝う!」
「え、いいんですか?」
驚いてオルーカが言うと、レティシアはにっこりと笑った。
「1人より2人の方が、効率がいいでしょ?じゃあ、私は中央公園のほうを探すね」
「はい、ありがとうございます、レティシアさん」
「じゃあ、見つかったら…」
「そうですね、西にあるガルダスの僧院に連絡をお願いします」
「わかったわ。それじゃあ、オルーカもがんばって!」
「はい、本当にありがとうございます、レティシアさん」
二人は慌しく挨拶を交わして、それぞれの方に駆けていった。
「……あら、あれって……」
人通りの向こうに見えた金の影に、リリィは立ち止まってそちらを見た。
「どうかしたのですか、リリィ」
メイが立ち止まって問うが、生返事を返してぶつぶつと何事かを言っている。
「今日は確か…………ふふ、面白くなりそうだわ」
リリィはにやりと笑うと、前の方で同じく立ち止まったチャカの方を向いた。
「チャカ様。私、所用が出来ましたから、少し失礼してもよろしいでしょうか?」
「リリィ?」
メイが驚いて問うが、チャカは艶然と微笑んだ。
「構わないわよ。アタシ達は適当にやっているから、お楽しみが終わったら合流なさいな」
「ふふ、ありがとうございます。じゃあ、失礼致しますね」
リリィは言うと、ふっと姿を消した。
メイが心配そうに、チャカのほうに目をやる。
「………よろしかったんですか?」
「いいんじゃない?お楽しみを邪魔するのも野暮でしょう?あぁ、どんな楽しいことが起きるのか、この目で見られないのは残念だけど」
チャカはにこりと微笑んで、再び歩き出す。
メイは釈然としない表情で、それでもその後について歩き出した。
ミドルの刻−中央公園へ
ミドルの刻−真昼の月亭へ
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