Happy New Year!!


「あ、あれ…変な所に出ちゃったな」
考え事をしながら歩いていたら、あたりの景色がだんだん見覚えのないものになってきた。
クルムは慌ててきょろきょろと辺りを見回す。そこで、彼はようやく、自分のいる場所が少し変わった雰囲気であることに気がついた。
派手なのか地味なのか微妙な姿の少女たち。服はやたら凝っていて綺麗なのに、体型に合っていなかったり、雰囲気にそぐわなかったり、化粧をしていないせいで妙にちぐはぐに見える。
男性は身軽そうな服装ではあるが、大きなリュックをしょっていたり、可愛らしい少女の絵が描かれた大きなバッグを持っていたり、こちらも微妙にちぐはぐな感じだ。
薄い本を開いて読んでいる者、大声で意味の解らない単語を叫んでいる者、きらきらとした衣装をまとって歩いている者、さまざまではあるが、それらが一体となってここ一帯に奇妙な空気を展開させていた。
「な……何だろう?この人たち…」
呟きながら、少しこわごわとあたりを歩くクルム。
「ひゃー待った待った。ジュース買うのに2時間って何それ。トイレはこりゃーどっか外行った方がいいなー…っと。あれ」
前の方から、そんなことを言いながら一人の少年が歩いてくる。
少年はクルムのほうを見ると、ぱあっと顔を輝かせた。
「おにーさんおにーさんおにーさん!」
「えっ…?!」
駆け寄ってきた少年に、そのことだけでなく驚くクルム。
褐色肌、赤に近いオレンジ色の瞳、短い黒髪、モノクル…ではないが、大きなメガネ。リュウアン風の装束。
(キル…?!いや、違う……)
テンションが高い様子のこの少年とキルはあまり共通点はないように見えるが、彼の持っている独特の雰囲気のようなものが、何故かキルを連想させた。
少年ははしゃいだ様子でクルムの腕を取った。
「おにーさん、マジ正統派勇者萌え!ねねね、ちょっとこっち来てよ!スケッチさせてスケッチ!」
「え、ちょ、ちょっと?!」
クルムの返事を待たずに、少年はクルムの腕をぐいぐいと引っ張り、向こうの建物の中へと誘導する。
自分とさして変わらぬ年の少年に強く言うことも出来ず、それに少年の力が思ったより強く、あれよあれよという間に建物の中へ連れて行かれてしまうクルム。
「……って、な、なんだ、ここ…?!」
そこには、クルムの見たことのない世界が広がっていた。

人でごった返す、という表現は生ぬるい。
広い会場に、よくこれだけ人を詰め込んだ、というほど、そこは人で溢れかえっていた。
先ほど外にいた人々のような格好をした男女が、瞳をぎらつかせて早足で歩いている。
持っている派手な紙袋…描かれているのは少し淫靡な姿の少女(クルムさんはこんなもの見ちゃいけません)…な紙袋には、取っ手が壊れるのではと思えるほどぎっしりと紙束(多分先ほど皆が読んでいた薄い本)が詰まっている。
「え…な、なんだここ、バザー……?」
辺りをきょろきょろ見回しながら、クルムはうわごとのように呟いた。
確かに、長机が並んで人々がその間を行き来し、机の向こう側の人間と話をしながら何かを買っている様子からバザーのようにも見えたが…長机の上に並んでいるのは、やはり皆が持っている薄い本や、色のついた小さな像、人形に綺麗な服を着せているところや、アクセサリーなどもある。しかしやはりメインはあの薄い本のようだった。
もちろん、クルムにその本の表紙に派手に描かれたキャラクターを理解できようはずもなく。冬だというのに真夏かと思えるほどの熱気に当てられながら、クルムは少年に手を引かれて歩いていた。
「ここ、ここ!ちょっと待っててね、道具取ってくるから!」
少年はブースの前にクルムを立たせると、自分は机の向こうへと消えていった。
何かまじないでもかけられたかのように、呆然とそこに佇むクルム。
「えすたる亭、最後尾はこちらでーす!」
微妙に聞き覚えのある名前に、ぎくりとしてそちらを向く。
看板を持ってそう叫んでいるのは、可愛らしい姿をした女性だった。そこが最後尾だという列は、先ほど少年が消えていったブースへと続いている。えすたる亭、という名前の店なのだろうか。
脇から覗き見た限りでは、「えすたる亭」とやらでは、先ほど見たような色のついた像を売っているらしかった。精巧な造りで見栄えもいい。どこかで見たような姿だが…
列に並ぶ人々の興奮した様子の会話が聞こえてくる。
「えすたる亭のかるろ氏のキューティ☆クルンの新作は、 着衣版と脱着版、同時発売だそうでござるよ」
「良かったであります。それなら魔改造は必要ないでありまするな。 自分はまだ未熟者ですから…そこまでのスキルが無いのであります。」
「かるろ氏が拙者たちのニーズを理解してくれたってことでござるな!」
「勿論両方、即ゲト〜であります!」
彼らの言っていることが全く理解できないクルム。
「走らないでくださーーい!階段は飛ばさないで、一歩ずつゆっくりと進んでくださーい!」
「4人で1列を作って、順番に並んでください!あっ、そこの人走らないでー!」
注意というか、もうすでに怒号になっている声で会場を整理しているスタッフ。
「あの、コスプレの方ですか?」
後ろから声をかけられ振り向くと、腕章をつけた女性がクルムの下げている剣を指差している。
「こす……ぷ?」
「30センチ以上の長物は持ち込み禁止となっています。こちらでお預かりします」
女性は言って、クルムが下げている剣を取ろうとした。
「あ、あのっ!オレ、その、違うんです!す、すぐ出ますから、すみません!」
クルムは慌てて女性から離れると、出口に向かって走った。
「あっ、走らないでください!」
後ろから叫ぶ女性。しかし、早くここから離れたいという衝動の方が強かった。
必死に人込みの中を出口に向かって早足で歩いていく。
やっと会場の出口をくぐれた、と思ったその時。
「……?!」
クルムはすれ違った人影に驚いて、慌てて後ろを向いた。
が、目当ての人影はもうすでに人込みにまぎれてしまって見当たらない。
「あれは……あれ、見間違いかな?」
白いフリルのついた、少女少女した服。瑠璃色の巻き毛。
しかし、クルムが見つけた少女は、少なくともこの中から探し出すのは困難であろう。
「気のせい……じゃないにしても、これじゃあ会うのは無理だな……」
入り口から垣間見えるカオスの世界に、クルムはぶるっと身を震わせて、再びくるりときびすを返した。




レプスの刻−王宮へ

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