Happy New Year!!


「みんな盛り上がっていたなぁ…久しぶりに話せた人もいたし、楽しかったな」
一足早く真昼の月亭から出て家路についていたクルムは、まだ人で賑わう大通りをのんびりと歩いていた。
本当はもう少し早く帰るつもりだったがついつい長居をしてしまった。今からではネルソン家に新年の鐘までに戻るのは無理だろう。それなら、新年祭の幸せな雰囲気をもう少し堪能したい。
どん、どどん。
王宮の方から花火が上がる。人々は感嘆のため息と共にそれを見上げる。
花火職人たちがこの日のためにと作ったであろう、豪華絢爛な花火たち。
クルムは目を細めてそれを見やる。
来年もいい年になるのだろう。
そんな気持ちが素直にわいてくる。
と。
「………!!」
不意に、大きな力の波動を感じ、クルムは振り返った。
「…この、気配は……」
まさか。そんなはずはない。
彼女は今頃……
しかし、そんなクルムの気持ちを打ち破るかのように、クルムの後ろ、通りと店との間にぽかりと空いたスペースに、ぽうっと小さな光がともる。
光は瞬く間にいくつもいくつも現れ、集まって人の形を取った。
「……!」
どん、という、ひときわ大きな花火の音を合図にしたように。
音もなく、小さな光が空に散る。
そしてそこには、ほのかに光をたたえた、旅装束のテアが立っていた。
声も無く、それを見守るクルム。
いつの間にかちらちらと降り出した雪が、彼女の妖精のような神秘的な美しさをより一層のものにしていて。
「……クルム!よかった、会えて」
テアはクルムを見つけると、顔をほころばせた。
「ヴィーダで新年を迎えたくて戻ってきたの」
彼女の笑顔も、彼女の声も、彼女の言葉も。花火の光も、降り始めた雪も、鳴り響く新年の鐘も。
何もかもが完璧に美しく調和していて、自分が何か声を発したら、それが全て壊れてしまいそうで。
クルムは金縛りにかかったように、動くことも、声を上げることも出来ずにいた。
「ちょうど年が明けたのね」
王宮の大きな鐘を見上げながら言うテア。
周りの人々も、口々に新年の言葉を交わしあい、巡り来る新しい年を祝っている。
「転移術を掛けて貰うとき、前みたいに、到着地が違わないようにみんなのところに帰れるようにって一生懸命イメージしてきたのよ。
…本当はお店の前に着く予定だったんだけど」
テアが再びクルムのほうを向いて言い、にこりと微笑んだ。
「クルムが居るところに着いたのね。
新年の挨拶を、一番最初にクルムに言えてよかった。
あけましておめでとう、クルム」

『新年を迎えて、一番最初にことばを交わした方と、その年一年幸せに過ごせる、というそうですわ』

エータが言った言葉が、胸の中によみがえる。
クルムは、そこで始めて、笑顔をテアに向けた。


「……新年おめでとう、テア。今年も、幸せな一年を過ごせるといいね」



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