Happy New Year!!
「こんばんは、パフィさん」
青いテントのカーテンをめくって覗いた顔に、パフィはぱっと笑顔になった。
「オルーカ。お久しぶりなのー」
オルーカはテントの中に入り、中央の椅子に座った。
「お久しぶり…というのもおかしな感じですけど。お元気そうで何よりです」
パフィの、穏やかな紅い瞳を見て、ほっと安堵の息を漏らすオルーカ。
そして、さっと表情を引き締めると、身を乗り出してパフィに言った。
「あの、年末のお忙しいところすいません。占って欲しいことがあるんですが。依頼を受けたんです。子守りの。…実はその子とはぐはれてしまって。あちこち探したんですが見つからないんです。今どこにいるか…見てもらっていいでしょうか」
「それは大変なのー。ちょっと待ってるのねー」
パフィは目を閉じると、テーブルの上のカードに手をかざした。
ふわ、と浮き上がり、3枚のカードが抜き出て着地する。
パフィはそれを一枚一枚めくっていった。
1枚目。「FALSE」風の神のカード。正位置。
2枚目。「MUHLA」月の女神のカード。正位置。
3枚目。「STRAMIA」星の女神のカード。正位置。
そのカードを見て、パフィがきょとんとする。占いの結果が良いとか悪いとかと言う次元の様子ではないようだ。
「…ど、どうかしたんですか?」
「オルーカ」
パフィはオルーカのほうを向くと、首をかしげた。
「オルーカの探してる子って、ふわふわの金髪に、青いコートを着てる子ー?」
「そ、そんなことまでわかるんですか?!」
驚いて問うオルーカ。
パフィはにこりと笑った。
「その子は、夕方のミケの新年会に行くことになってるのー。そこに行けば会えるのねー」
「ミケさんの新年会…そこにあの子が…ありがとうございます。ばたばたしてすみません、私、行きますね」
「気をつけて行くのー」
「ありがとうございます。では、お代はこちらの方に。
よいお年を。いずれまた、ゆっくり」
オルーカは少し慌てた様子で、それでもきっちりと頭を下げると、テントを後にした。
「…ふむふむ、今、お兄ちゃんは『南天三連邦』って所で騎士団の団長さんみたいなお仕事をやってるわけだね」
ショウの話を聞いて、リィナは感心しながら頷いた。
ショウも重々しく頷く。威厳はあまりないが。
「そうそう。一応ね。偉い人なわけよ」
「で、その偉い人は、今日はそのお仕事は?」
リィナが問うと、ショウは一瞬固まって…それから、てへ、と笑って見せた。
「…ん、抜け出してきました」
絶句するリィナ。笑うショウ。
「はははははっ」
「……あは、あはははは。……いいのそれ?」
「大丈夫大丈夫。…多分」
無責任な様子でひらひらと手を振るショウ。
「でも、なんでいきなりこっちの世界に?ここって、リィナたちがいた世界とは別の世界でしょ?」
リィナの問いに、ショウはどう答えたものかと眉を寄せた。
「んー……ええと。リィナをこっちの世界に飛ばしたアイテムの研究が進んでな。俺が使えば、こっちとあっちを自由に行き来できるようになったんだ」
「ホント?!すごい、お兄ちゃん!」
リィナはぱっと表情を輝かせた。
「それじゃ、またお兄ちゃんと一緒に……」
と、リィナが言おうとした、その時。
「見つけたぞ!ショウ!」
背後から鋭い声がかかり、ショウとリィナは驚いて振り返った。
「あれ?むったんだ。あちゃー、見つかっちゃったか」
少し苦い顔で、ショウ。
向かい合って対峙する女性は、セミロングのグレーの髪の毛に、きつめの形をした暗茶の瞳、ナノクニの格闘かがまとうような風変わりな装束をまとった、18歳ほどの少女であった。
彼女は怒りをまったく隠そうとしない表情でつかつかとショウに歩み寄ると、ぎろりと彼を睨んだ。
「また定期巡回サボりやがって…公務を何だと思っている!」
乱暴な口調でそう叫ぶが、ショウはまったく堪えた様子はない。苦笑して手をひらひらさせる。
「大丈夫、だーいじょーうぶ。最近は、治安も安定してるでしょう〜ここみたいに平和なんだから、兵隊が武器ぶら下げて、巡回なんてしないほうがいいって。その方がみんなの神経逆なでしちゃうでしょ〜?」
「だからと言って、公務をサボって、しかもこんな異世界まで来て、ナンパしていることが正当化される…訳はないと言うことはわかるよな?」
もっともである。
「ちょ、ちょっと待って、あなた誰?!」
リィナが二人の間に割って入ると、女性は居住まいを正し、浅く礼をした。
「…失礼。自分は『南天三連邦』の筑山睦と申します」
「つくやま…むつ」
不思議な発音の名前を繰り返すリィナ。
睦は続けた。
「そこの男の関係者で、彼を迎えに来た者です。ご迷惑をおかけしたようで…」
リィナに丁寧に事情を説明してから、ぎろり、とまたショウを睨む。
「とりあえず、あの人に『連れて帰って来い』と言われてる。帰るぞ」
「やだ、って言ったら?」
からかうように、ショウ。
睦はさらに眉を吊り上げた。
「もちろん、力づくだ。ナンパまでしてる時点で貴様に拒否権はない」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
是が非でもショウを連れて行く様子の睦に、リィナは慌てて間に入った。
睦は煩わしげに眉を寄せる。
「貴方には、関係ありません。そこを退いていただきましょう」
「いや!関係あるもん!退かない!」
かたくなな様子のリィナに、睦は理解できないというように眉を寄せた。
「そこの男は、貴方をナンパしてきただけの男でしょう。何故、そこまで…」
「ナンパしただけの男じゃないもん!リィナのお兄ちゃんです!」
ぐい、とショウの腕を引き寄せて、リィナ。
睦の顔が、とたんに引きつった。
「………お兄ちゃん?また、そういう悪趣味なことをやってるのか…」
完全に変態を見る目つきで。無理もないが。
「ちょ、何考えてんのむったん。いやいや、そうじゃなくて、義理の妹だけど…マジで妹」
慌ててショウが言い、睦は複雑な表情で答えた。
「…まぁ、お前の妹ということは理解しよう。だが、だからと言って、はいそうですか、とはいかないぞ?」
「リィナだって、はいそうですか、って言えるわけないよ!
やっと会えたんだから!お兄ちゃんはもうずーっと、こっちの世界でリィナと一緒にいるんだから!」
「リィナ…」
少し驚いたように、ショウはリィナを見た。
リィナはグローブをはめた右手をぎゅっと握り締め、睦に向かって身構えた。
「そんなに連れて帰りたいんだったら、リィナを倒してから行ってよね!」
ふぅ、と仕方なさそうに息をつく睦。
「…怪我をしても、責任は取りませんよ?」
「はああっ!」
睦の言葉には答えず、リィナは声を上げて睦に飛びかかった。
がっ、と音を立てて、リィナの拳を腕で受ける睦。
リィナはそれを気に留めた様子はなく、次々と拳を繰り出していく。
睦は体勢を低く構えて、その拳を次々と受け流した。
「えへへ、防御ばっかりじゃ、勝てないよ!」
余裕げに言うリィナ。睦は冷静な表情で、低く言った。
「…多少は、手ごたえがありますね…ですが!」
ばっ。
睦は受け流したリィナの腕を、体をひねって捕らえると、そのまま流れるように彼女の体を投げた。
「きゃあっ!」
体勢を崩し、地面に背中をつくリィナ。
「とどめだ!!」
リィナの腹めがけて、睦が拳を振り上げたその時。
じゃらっ!
硬い金属音がして、何かが睦の腕に絡まり、その動きを止めた。
「…っ…!」
睦は驚いて、自分の拳をからめ取った鎖の繋がる先を見る。
「そーこーまーでー。はいはい。もういいでしょー」
余裕の表情のショウ。睦は苦い顔をした。
「そんなに妹が大事か…?」
「んーどうだろうねー。あと、イフ。お前もストップ」
ショウが苦笑して睦の背後に向かって話しかけたので、睦は驚いて振り向いた。
「……流石に、あんたにはバレるか…」
ふ、と姿を現すイフリート。睦は目を見張った。
「精霊…だと。いつの間に…」
「むったんが大人気なくリィナにとどめさそうとするからさ。リィナがこっそり出したんでしょ」
「…ったぁ…イフちゃん、戻っていいよ」
何とか体を起こすリィナ。睦は憮然とした。
「つーわけでむったん、この勝負は引き分けってことで、今日の深夜まで…ね。ちゃんと帰ったら、お仕事やるからさー」
「引き分けって、お前なあ!」
食って掛かろうとする睦に、ショウはさっと耳元で囁いた。
「手抜いて油断してたってことは、わかってるから…な。ここは…」
ぎゅう、と渋い顔をして、睦は嘆息した。
「ちっ、まったく…わかったよ!深夜までだからな!」
リィナは立ち上がって、心配そうにショウの方を見た。
「お兄ちゃん…」
ショウはリィナの方を見て、にこりと微笑んだ。
「さて、お許しが出たところで、リィナの知り合いのパーティに行くとしますか!」
「……うん。…あの、お兄ちゃん、お借りしていきます…」
リィナは少し申し訳なさそうに、睦に向かって言った。
彼女自身も、睦との実力の差は感じているようで。
睦もそれを感じ、素直に頷いた。
「………はい、よろしくお願いします」
そして、リィナとショウは一路、真昼の月亭へと向かうことになった。
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ストゥルーの刻−真昼の月亭へ
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