サザミ・ストリート。
大通りからは少し離れているが、下町商店街といった雰囲気のその通りは、平日でもなかなかの賑わいを見せる。
その一角に、小洒落た造りの小さな喫茶店があった。
この界隈にそこそこ長く籍を置いている者なら、そこにかつて『アサシンギルド』という物騒な名前の薬屋があったことを記憶にとどめているかもしれないが、いつの間にか綺麗に改装され、喫茶店になっていた。
『ハーフムーン』
ドアに掲げられた凝った造りの看板には、そんな屋号が書かれている。
木目の鮮やかな、どちらかというと可愛らしいタイプの内装。
店内は決して広くはないが、カウンターもテーブルも店内の内装に合わせたデザインで作られていて、店主のこだわりを感じさせる。
シンプルなレースカーテンに彩られたはめ殺しの出窓には、何故か美少女フィギュアが飾られていて、そこだけ異質な空間が展開されていたが、それ以外はおおむね、普通の可愛らしいカフェ、といって差し支えのない店だった。
「~♪~~♪」
鼻歌を歌いながらカウンターで皿を磨いているのは、おそらくこの店のマスターだろう。
20台半ばほどの、綺麗な顔立ちをした青年である。ディセスなのだろう、褐色の肌に尖った耳、切れ長の瞳は濃いオレンジ色で、銀縁の大きなレンズのメガネをかけている。無造作に伸ばした感のある黒髪が腰まであり、少し飲食店の店主としては異質な風貌かもしれない。が、ぴしっとアイロンのかけられた白いシャツに黒いベスト、同色の長いエプロンというウェイターのいでたちは、美丈夫な彼に不思議に似合って見えた。
からん。
店のドアが開き、マスターが笑顔をそちらに向ける。
「いらっしゃい、ハーフムーンへようこそ!空いてる席にかけてね!」
人懐こい笑顔で言うマスター。
喫茶『ハーフムーン』の一日が、ひっそりと幕を開けようとしていた。