予告

私は幽女
 彷徨える哀れな魂
 淋しさゆえに人を求め
 生気を喰らい尽くして
 次の獲物を求め彷徨う

「あたしの故郷…まあ、正確にはあたしの、っていう訳じゃないんだけど…
とにかくその街に、幽霊が出る、っていう噂を聞いたの」

きつめの赤い瞳をあからさまに不機嫌の色に染めて、その少女は語った。
瞳と同じ、明るめの赤い髪をさっぱりとショートにし、同系色の身軽そうな服に身を包んでいる。
何より目を引いたのは、両耳の後ろから突き出た3対の赤い角。
彼女が、「力」を司るレッドドラゴンの眷属であることを主張していた。

「リュウアン、って知ってる?
ナノクニの近くにある変な国。
その首都から少し離れた山あいに、チンロンっていう街があるの。
その山の奥深くに、あたしたちの集落があって…ごくたまにだけど、人間と交流があったの」

竜族が従属人種と交流を持つことは、あまりない。
力と寿命が違いすぎる存在との交流は、えてして悲劇を生むからだ。
こうして、レッドドラゴンである彼女が人間の前に姿を現すことも、本当は珍しい事である。
…本当は。どんなにあちこちに竜がいようとも。誰が何と言おうと珍しい事なのだ。

「その街は、あたしが子供の頃にも同じような騒ぎを起こしてて…
…ったって、それだって街のやつらの勝手な思い込みだったんだけど…
でもどうやら、その騒ぎを伝え聞いているやつらが、今回も同じ人の仕業なんじゃないかって言い出してるみたいで…」

彼女はイライラした様子で、指先をトントンと机に打ちつけた。

「絶対、そんなことありえないのよ!今回だって、勝手な思い込みで先走ってるに決まってるわ!あの人が、そんなことをするはずがない…だって…」

そこで視線を横に逸らし、わずかに辛そうな表情を見せる。

「あの人はもう…死んだんだから…」

彼女は何かを振り切るようにして、冒険者達に向き直った。

「あの人のような人は、絶対作っちゃいけない。
あたしと一緒に、幽霊騒ぎの真相を突き止めて欲しいの。
彼女の汚名を、晴らして欲しいの」

赤い瞳に、思いつめたような真剣な輝きを宿して。

「あたしの名前は、カイ・ジャスティー。
御礼はできるわ。あたしと一緒に、リュウアンに来て!」

私は幽女
 本当にそうであるかどうかなんて関係無いの
 私は幽女
 だってあなたたちがそう望んだのだから
 私は幽女
 お望み通りに、あなたたちの魂を喰らい尽くしてあげる…

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