予告

「契約の日が来た。姫を頂こう」

「ラヴィ。ラヴィ。起きなさい。今日はあなたの15歳の誕生日。王様に謁見する日ですよ」
母親がやさしくラヴィを揺り起こす。
「ママ…?」
ラヴィは目をこすりながら体を起こした。朝日の差し込む窓。簡素な机。衣装ダンス。見慣れた、いつもの光景。母親はやさしくラヴィに微笑みかけると、言葉の続きを紡いだ。
「この日のために、女の子であるあなたを立派な勇者になるように育ててきました。さぁ、王様に謁見して、旅立ちの許しをもらいなさい。国中を困らせている、あの黒百合の塔の魔女を倒すために」
「黒百合の塔…魔女…?」
ラヴィはまだ寝ぼけた様子で、母親の言葉を繰り返す。
「あたしが…勇者…?」

「アタシが、力を与えてあげる」

「おお、勇者ラヴィよ。亡き父のあとを継ぎ、勇者として黒百合の塔の魔女を倒したいというそなたの願い、しかと聞き届けた。わしからのささやかな贈り物だ。受け取るがよい」
銅の剣、皮の鎧、50G。
王から賜った宝箱は、仮にも一国の王の贈り物とは思えないささやかすぎる内容。
とにかく、ラヴィはそれを持って王の間を退いた。
帰りがけに、大臣が声をかける。
「一人旅は何かと心細いもの。酒場で仲間を見つけていくとよいでしょう」
ラヴィは曖昧に頷いて、階段を下りた。
「酒場…仲間、ねぇ…」

「ヒトはありたいと思うように生きる権利を持っているのよ。
何も怖れることはないわ。
アナタにはその力があるんだから」

「ダイールの酒場へようこそ!御用は何ですか?」
無意味に明るい看板娘に少し気後れした様子で、ラヴィは用を言った。
御用も何も、酒場なのだから酒を飲むだろうという気はするのだが。
酒を飲むという選択肢が見当たらないのが不思議なところだ。もっとも、ラヴィは未成年だが。
「ええと…仲間を、探してるんですけど」
「お仲間ですね?只今登録されている冒険者様はこちらになっております。2階でお好きな方を登録することも出来ますけど」
仲間を登録するってどういうことだろう。ラヴィは首を傾げる。酒場に登録された冒険者でないと仲間にしてはいけないということだろうか。しかも好きな仲間とは??謎は増えるばかりだ。
「あ…じゃあ、登録してきます。頼りに、なりそうな仲間…」

「あなた方をそれほどまでに恐れさせたのは、
わたくしではなく、あなた方自身であると知りなさい」

勇者と呼ぶには、あまりに頼りない少女。
自覚もなく、誇りもなく、ただ他人の言われるままに、武器を手に取り、旅立とうとする。
彼女の行く手には、一体何が待ち構えているのか。
…そして、彼女は一体、何者なのか…?
「お仲間の登録ですね?こちらにお願いします」
ラヴィはペンを取り、不思議な色の帳面と向き合う。
唇をペンでつつきながら、彼女は気のない様子で唸った。
「うーん、とぉ…まず、名前は…」

「わたくしはあなた方を許しません。
どんなに時が過ぎようと、どんなに人が変わろうと。
この命ある限り、わたくしはあなた方を許しません」

勇者ラヴィと仲間たちの珍妙な冒険が…今、始まる。

第1話へ