予告

いつとは知れぬ いつか

どことは知れぬ どこかに

そのホテルは あるのです

「ナイトメア・ホテル?」
「なんでもね、いい夢が見られるんだって」
「ナイトメアって、ヤな夢見せる悪魔のことでしょ?」
「その名前とは正反対で、泊まると会いたい人の夢を見られるらしいよ」
「えーなにそれ。どこにあるの?」
「わかんない」
「はぁ?」
「道に迷って偶然見つけたとか、行き倒れて死にそうになってるところにあったとか」
「…それって、この世のものじゃないってこと?」
「そういうことなんじゃない?」
「なんだ、都市伝説じゃん。真面目に聞いて損した」
「でぇー、ホテルの支配人は執事風の超イケメンなんだって!」
「それを早く言ってよ。どこ!どこにあるのそのホテルは!」

学生街のカフェで、少女たちが楽しげに囁く話の中に、不意に紛れる噂がある。

「ナイトメア・ホテル」。

その所在も、姿も、何一つ明らかになっていないそのホテルは、
美丈夫の支配人が最高のもてなしを施し、
そして、眠ると必ず会いたい人の夢を見ることができるのだという。

どこにあるのかもわからない。

そもそも、存在しているのかすらわからない。

それでも、その噂だけがまことしやかに囁かれる、謎のホテル。

ぎぎ、ぎ。

豪奢なデザインの古めかしい扉を開けると、中には古めかしいランプで照らされた品の良いアンティーク家具が並んでいる。
一見して古いことがわかるその家具は、しかし丁寧に手入れを施されたのだろう、時間による退化ではなく、むしろその時間の重みを無二の輝きに変貌させていることを覗わせた。

扉の正面には、執事服を身に纏った青年がきっちりと直角に腰を折って客を出迎えている。
顔を上げて穏やかに微笑む様子は、なるほどなかなかの美丈夫だ。
年の頃は二十代後半ほどだろうか。きっちりと揃えた黒髪と、きりりとした黒い瞳、丁寧にプレスのきいた執事服をきっちり着こなすさまが、少し神経質なまでの几帳面さをうかがわせる。
彼はもう一度にこりと目を細めると、落ち着いた低い声音で来客を迎え入れた。

「いらっしゃいませ。ようこそ、ナイトメア・ホテルへ」

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