予告

アタシの大好きなにいさま。
誰よりも強かったにいさま。
自分の誇りのためなら死をも厭わない。
そんな生き方がとても素敵だった。

けど、アタシは今も悔しくてたまらない。

「チャカ叔母様」
「……………」
「チャカ叔母様」
「……………」
「……………チャカお姉様」
「なぁにぃ?キルくぅんv」
「(嘆息)……お姉様に、手伝っていただきたいことがあるのですが」
「なになに、面白いこと?」
「ええ、きっとおばさ…お姉様にもご満足いただけると思いますよ。
それに、嫌だと仰っても、手伝っていただきます」
「…それは、嫡子としての命令っていうこと?」
「ええ、その通りです」
「…っていうことは、あのコがらみのハナシね…?」
「はい。ほら、気に入っていただけたでしょう?」
「ええ、この上なくね。
ずっと逢いたいと思ってたの…キルくんが独り占めするから、つまらなかったわ」
「面白い事になりそうですよ。
ええ、きっとご満足いただけると思います…」

どうして行ってしまったの?
どうして、ちいにいさまなんかにやられてしまったの?
あんなくだらない女のために。

にいさまを一番愛しているのは、このアタシなのに。

「守ってもらいたい子がいるの」

その少女は、見かけの年齢とはかけ離れた理知的な輝きを放つ瞳を、まっすぐに冒険者達に向けていた。
年のころは14、5歳といったところだろうか。ストレートの銀髪を後ろで纏め、淡い紫色の瞳は優しい形をしていたが、今は真剣そのものである。長くもなく短くもない中途半端な剣は今は外され脇に置かれているが、身を守る防具は一切つけていない。白系の身軽そうな旅装束に身を包んでいる。年の割に落ち着いた、という言葉だけでは表現しきれない、どこか超然とした雰囲気を持つ少女だ。
彼女は少しイライラした様子であたりをきょろきょろと見回し、目的のものが見つからない事にため息をついて、もう一度冒険者達に向き直る。

「今はあたしと一緒に旅をしているんだけど、厄介なものに追われてるの。とりあえずあたしと、もうひとり連れがいたから何とか持ってたんだけど…」

まだ幼さの残る顔を困ったようにしかめて、うーん、と唸る。

「…あたしが、ちょっと訳有りで離れなくちゃならなくなって。その間、彼女は一人になっちゃうの。だから、あたしが帰ってくるまでの間、彼女を守って欲しいの」

再び真剣な眼差しを、冒険者達に向けて。

「…あなたたちだからこそ、お願いしたいの。多分、あなたたちにも浅からぬ因縁のある相手だと思うから」

そこで、カランと軽い音を立てて、風花亭のドアが開く。

「やーっはー!ゴメンゴメン、遅くなっちゃった」

軽い調子で入ってきた少女は、まっすぐに銀髪の少女の方へと歩いてくる。
銀髪の少女は、厳しい視線を彼女の方に向けた。

「遅くなっちゃった、じゃないでしょ。誰の事だと思ってるの、もうちょっと自覚持ってよね」
「だからゴメンって言ってるじゃないか~。んもう、そんなにピリピリしてると、ハゲるよ」

入ってきた少女は、あまり反省はしていない様子で銀髪の少女の隣に座る。
そうして並ぶと、二人は本当に対照的に見えた。
年齢は銀髪の少女とほぼ同じくらいだろうか。褐色の肌と対照的な金髪は前髪だけ赤いメッシュになっていて、大きなオレンジ色の瞳とともに目が痛くなるほど派手な色彩を展開している。黒いノースリーブのシャツに白いホットパンツ、マントとともに背にかけられていた弓は同様に外されて脇に置かれている。にこにこと屈託のない笑みは彼女に見かけの年齢相応の雰囲気を与えていたが、見るものが見れば彼女のその笑顔の奥に潜む異質な雰囲気に気付く事だろう。

「紹介するわ」

銀髪の少女は、となりに座った少女を手で指し示して、冒険者達に視線を戻した。

「彼女の名前は、チバ・ロッテ・マリーンズ」
「ロッテでいいよ、よろしくねっ♪」

軽く受け答えをする少女…ロッテとは対照的に、真剣な眼差しのままで、紹介を続ける。

「…もうひとつの名前が、エリシエルロッテ・フェル・エスタルティ」

その名前を出された瞬間に、ロッテは非難するような視線を銀髪の少女に向けた。

「…魔界の名門貴族、エスタルティ家の元嫡男、ティーヴェルダハト・ディ・エスタルティが、人間との間に作った、娘よ」

ねえ、今でもそう思うのよ。
あの時、ちいにいさまより先にたどり着けていれば。
ちいにいさまよりさきに、にいさまの元へ行けていたら。


にいさまを誰より愛してる、このアタシが。






アタシの手で、アナタを殺してあげられたのに。

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