予告

これを持ってきたら、あなたと結婚してあげる。

ほんとうに、持ってこられるものならね。



ねえ、それってさ。

遠まわしに、お断りされてんじゃね?

「これを持ってくることが、結婚の条件だって言われたんですぅ……」

青年は、泣きそうな表情でそう言うと、はあぁぁぁぁぁ……と深いため息をついた。
その暗いため息だけで、柔らかな日差しが降り注ぐオシャレなカフェのテラス席が、今にも雨が降り出しそうなくらい薄暗くなったような気がする。

「確かに、出会いは、お見合いだったんですけどぉ……僕、一目ぼれだったんですぅ……」

微妙にイラッとくる話し方で言い、はにかんで頬を染める彼。
年のころは17歳程度といったところだろうか。赤茶けた髪の毛を無造作に伸ばし、前髪だけは邪魔なのか括っているのが何とも珍妙な印象を与える。大きな赤い瞳を分厚い眼鏡で隠し、目元に散らばるそばかすがさらに幼く見せていた。
男性とは思えぬほど華奢な体に青い民族衣装を纏い、きちんと立てば背は高いのだろうが何やら必要以上に猫背でもじもじしている。

依頼主である少年は、マーロウ・スタイン、と名乗った。

「どうしても、彼女に振り向いて欲しくてぇ……でも、僕、ずっと村で暮らしてたし、外のことはあまりよくわからなくてぇ……
だから、そのぉ……手伝って、欲しいんです」

タレ目を精一杯真剣に釣り上げて、少年……マルは冒険者に詰め寄った。

「お願いしますっ。彼女と結婚するために、僕の宝物探し、手伝ってくださいっ!」

無謀な要求をする姫を振り向かせるために。

無謀な求婚者の、無謀な挑戦が、始まる。

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