よそのおうちにいくには、じゅんびがひつようよ。

「手紙?」
「そうそう」

出先から定宿に帰ってきたミケは、宿の女将にひょいと渡された封筒を受け取り、ひっくり返して差出人を見た。
そして。
「……うっ」
そこに書かれていたのは、できればあまり目にしたくない名前ではあった。
ミルフィール・ヴァストフォレスト。
細かい冠詞をつけて語ろうとすると後方から謎の衝撃が来そうなので割愛するが、彼の魔道の師匠である。
「……嫌な予感しかしませんね……」
彼女がこうして便りをよこしてくることはめったにないが、その時は大概ロクでもないことになっていることは今までの経験で身にしみてわかっている。
だが、開けないで無視すれば更にロクでもない事態になることは容易に想像がつくため、ミケは嫌な顔をしつつ手紙の封を開けた。
かさり。
中の便箋を開くと、彼女らしい簡潔な文章で指令……もとい、命令……いやもうなんでもいいが、とにかくミケへのメッセージが書かれていた。

「うっ……!!」

先ほどより1オクターブ高いうめき声をあげるミケ。
その様子に、女将が心配そうに顔を覗き込んだ。
「ど、どうしたの、何かあったの?」
「あ、いえ。な ん で も ……」
どう見てもなんでもないとは言えないほど顔が真っ青だったが、本人がそう言うのだからと口をつぐむ女将。
ミケは手紙を持ったまま、フラフラと2階の部屋へ上がっていった。
ぱたん。
にゃー。
部屋にいた使い魔のポチが、心配そうに駆け寄ってくる。
しかし、そちらに返事を返す余裕すら今のミケにはなかった。
もう一度、師から送られた手紙を見返す。

『友人と、ウェルドにある幽霊屋敷が本物かどうか賭けをしている。
なので、ちょっと見てきて。
1週間後にそっちに行くけれど……もしも本当に出るなら、それまでに完全消滅な』

簡潔すぎる命令文に頭痛を覚える。
もちろん、彼が幽霊のたぐいが死ぬほど苦手であることを知っていての命令だろう。彼女にとって弟子のトラウマは驚くほど瑣末な事項だ。
はあ、とため息をつくミケ。
「……そういえば、ウェルドの幽霊屋敷が、って依頼書を見た気がする……あれかな……」
ちらりと見て即座に視線を移動したためあまり良く覚えていないが、あの依頼に書かれていた屋敷と同一のものだろう。そんな賭けになるほど有名な幽霊屋敷が2つも3つもあってはたまったものではない。
幽霊や心霊現象は、できれば避けて通りたい類のものだ。だが。

「先生は、他の何より怖いです……」

ミケは遠い目をして、そう呟くのだった。

「手紙?俺宛に?」

同じ頃。
別の宿に戻ってきたグレンは、宿の主人から渡された手紙に首をひねる。
自分宛に手紙を送ってくるものなどいないはずだが……と、封書をひっくり返してみると。
「うわ」
『ラズリー・カラック』という署名に思い切り眉を顰めるグレン。
「なんで俺の居場所知ってるんだ……ったく」
それを今詮索しても仕方のないことであり、そしてこれを開けたら面倒なことになることもわかりきってはいたが、グレンはため息をついて封を破る。
「なになに……」

『そろそろ君に姉の形見を渡そうと思ったんだけどねぇ……ウェルドで噂の幽霊屋敷に行った時に落としちゃったみたい。
んでさぁ、探しに行きたいんだけど今月は愛しのシェリーちゃんと』

ぼっ。
最後まで読み終える前に、グレンは怒りに任せて手紙を燃やした。
「ったく……!本当にロクなことしないなあのオッサンは…!」
怒りの表情で毒づくと、帰ってきたばかりなのに即座に宿を飛び出すのだった。

「…あれ」

いざ、依頼を受けて約束の風花亭にやってきたミケは、そこに見知った顔があったことに驚いた。
「アフィアさん、ユキさん。お久しぶり……でも、ないですかね」
最近ちょくちょく顔を合わせるので、世間は狭いなと苦笑するミケ。
ユキはにっこり笑って、アフィアは無表情でそれに応えた。
「うん、こないだのマルさんの依頼ぶりだね。またミケさんと一緒に仕事できるなら、頼もしいな」
「よろしく、です」
軽く挨拶を交わして席に着くと、すでにアフィアとユキの向こうに座っていた依頼人らしき人物が元気のいい声を出した。
「皆さん、お知り合いなんですね!なら仕事もしやすいかな?頼りにしてます!」
「は、はは、頼りになるといいんですけどね……」
乾いた笑いを浮かべるミケはスルーして、依頼人は姿勢を改めた。
「じゃあ、改めて。依頼を受けてくださって、ありがとうございます。私、『ミッシング』っていう雑誌の編集をしてます、リタ・ユナーギっていいます。リタ、って呼んでくださいね!」
気合が入っているのかカラ元気なのか、それともこれが素なのか、やたらとハキハキした様子でそう言う彼女は、雑誌の編集をしています、という自己紹介と身にまとっているかちっとしたスーツがなければ学生と言っても通るほどにあどけない顔立ちをしていた。
ハニーブロンドの短い巻き毛に、大きな緑色の瞳。可愛らしい顔立ちをしているが、紺色の大人っぽいスーツが妙にアンバランスだ。
「えっと、じゃあ、皆さんもお一人ずつ、自己紹介をしてもらっていいですか?」
リタの問いに、最初にすっと会釈したのはアフィアだった。
「アフィア、いいます」
青みがかった白髪と金の瞳をした、15歳ほどの少年である。旅装束にも目立った特徴はなく、本人の淡々とした態度からも、どこか超然とした雰囲気を感じさせた。
「冒険者、仕事、いくつか、受けてます。仕事、きっちり、やる、約束します」
「頼もしいですねえ!ありがとうございます!」
元気に返し、次を促すリタ。
アフィアの向かいにいたユキが、にこりと微笑んだ。
「えっと、ユキレート・クロノイアです。ユキでいいです。よろしくお願いします」
丁寧に言って、軽く礼をする。
リタと同じくらいの、あどけなさの残る美少女である。襟足だけ伸ばした茶色の髪に、大きな黒い瞳、身に纏っているのは黒一色の装束で、服だけ見ると冒険者というよりは後ろ暗い職業を思い起こさせる。
「えっと、この依頼は…僕の目的地と一緒だったから受けたんだ」
「目的地、ですか?」
目を瞬かせてきょとんとするリタ。
ユキは真面目な表情で頷いた。
「うん。結界を使った戦い方を考えて訓練してたら、
様子を見に来てくれたお兄さんが腕試しにどうかって教えてくれたのが、ウェルドの郊外にある幽霊屋敷なんだ。
何事も経験と実践が上達の礎だ、でも危なくなる可能性もあるから腕利きを探して一緒に行ってもらえって」
「そ、そうなんですか……」
「でね、行こうと思って準備してたら、この依頼を見つけたんだ。
それで受けようって思ったんだ」
沈黙が落ちる。
一同の反応がないことにユキがきょとんとして首を傾げると、アフィアが小さく息をついた。
「それ、依頼人に言う、ユキ、ある意味、すごい、思います」
「え、えっ?」
「ユキさん……」
苦笑してミケも続く。
「今の言い方だと、この依頼を修行の片手間に受けているように聞こえますよ。
当然、それに対して対価を出している依頼人に印象のいい話ではないでしょう」
「あっ……!」
思いもよらなかった様子で、ユキが口を手で覆う。
そこに、リタが慌てて手と首をぶんぶん振った。
「そ、そんな!滅相もないです!あの!修行のついででも!身を守ってもらえれば全然いいんで!むしろボコスカ幽霊退治してもらえれば私は嬉しいですし!」
「ご、ごめんなさい……あの、そういうつもりじゃなくて、鍛錬の一環でもあるけど、依頼はきちんとこなすから!安心して!」
思わず前のめりになるユキに、リタもほっとした様子で息をつく。
「あっ、はい!安心します!あ、いえ、安心しました!」
「それも何か違うような…」
苦笑しながら、ミケがそれに続いた。
「僕はミーケン・デ=ピースといいます。ミケと呼んでください」
彼もまた、落ち着いた語り口とかなりギャップのある幼い見かけをしていた。栗色の長い髪を三つ編みにし、大きな青い瞳は少女っぽい印象をさらに強めている。黒のローブを身にまとい、黒猫を肩に載せた、いかにも魔道士ですという出で立ちだ。
「ユキさんにああ言っておいてアレなんですけど、実は僕も似たようないきさつで依頼を受けているんですよ」
「というと?」
「実は…訳あって、その幽霊屋敷の幽霊を殲滅させなければならなくて」
「殲滅?!そ、それはいったい、どういうわけで……?」
「それは…話すと長くなるので追い追い……ともかく、そういう目的があるので、同じ目的の方と手を組むのがお互いのためだと思って、依頼をお受けしました。もちろん、仕事はきっちりさせていただきますので。よろしくお願いいたします」
「こ、こちらこそ!よろしくお願いします!」
勢いよく礼をしてから、では、と話を始めるリタ。
「えっと、お願いしたいのは、依頼書にも書いた通り、幽霊屋敷の取材のお手伝いです」
ぱさ。
テーブルに広げられたのは、「企画書」と銘打たれた書類だった。
「ええっと……『財宝が隠された幽霊屋敷!近づくものを滅ぼす呪いの館』……?」
三文ゴシップ誌の見出しのような文章を読み上げるユキ。
リタは深い溜息を付いた。
「この記事を、私が担当することになってしまって……」
「担当することになってしまった、という言い方からすると、当初はその予定ではなかったということですか?」
ミケが言うと、リタは力強く拳を握り締めた。
「そうなんです!」
どん、とテーブルを叩いて力説する。
「この記事、本当はシュウ先輩の担当だったんです!2週間前に調査に行くって言って編集部を出て…帰ってこないな、と思ってたら、1週間前に近くの森で倒れてるのを発見されて!」
「た、倒れてたんですか」
「はい!もうすっごいガリガリになっちゃって、かろうじて生きてはいるんですけど、未だに目を覚まさないんです!」
「そ、それは……」
絶句するミケ。
アフィアもユキも無言でリタの話を聞いている。
「それで、ほかに手が空いてる人もいなくて、新人の私が担当することになっちゃったんです。でも!編集長が、冒険者さんを雇っていいって言ってくれて!それで、みなさんにお願いすることになったんです!」
若干興奮した様子のリタに、アフィアが冷静に質問する。
「それで、うちたち、何する、ですか」
「あっ、すみません。あの、基本は、私のボディーガードをして欲しいんです。ただ、何があるかわからない場所なので、探索的なお手伝いもお願いしたいです」
「探索、っていうと?」
ユキが問い、そちらを向くリタ。
「誰も住んでいない廃墟だっていう話なので、お屋敷のあちこちが崩れていたり、真っ暗だったりすることもあると思うんです。洞窟とかの探索に長けた冒険者さんなら、そういうところもスイスイ進んでくれるんじゃないかと思って!」
「了解、しました。探索用の道具、調達、しておきます」
「よろしくお願いします!みなさんの活躍も、しっかり記事にしますからね!」
「えっ」
記事にする、という言葉に驚くミケ。
「僕たちのことも書くんですか?」
「もちろんですよ!冒険者さんがバッタバッタと鮮やかに幽霊を倒していくところをがっつり書かせてもらいます!」
「あ、あの……名前は出さないでもらえると嬉しいんですが……」
「うちも、あまり」
「僕も、名前を出すのはちょっと…」
「そ、そうなんですかぁ?じゃあ、お名前は出さない方向で……」
ダメ出しをくらってしょんぼりした様子のリタ。
だが、すぐに気を取り直した様子で続けた。
「でもっ、こんな依頼を受けてくださるくらいなんですから、皆さんは幽霊とか平気なんですよね?ていうかむしろゴーストバスターズ風味なんですよね?!どんとこい超常現象ですよね?!」
「古い、です」
アフィアはぼそりとつっこんでから、首をかしげた。
「うち、幽霊、戦ったことない、です。怖い、怖くない、わからない。でも、きっと、勝てます」
根拠もなく言い切るアフィアの横で、笑顔で頷くユキ。
「幽霊は前に別の依頼で見たことあるし、平気だよ。
あの時は何もできないまま助けてもらったから、今度は何か役に立てるように頑張るよ!」
やる気がみなぎっている様子の二人の隣で、一人顔を青ざめさせるミケ。
「幽霊……。
できる限り、人生上見たくないです。ていうか、出ないでほしいです」
何やら言葉がおかしくなっている。
「死んだ人の声を、聞いたことはありますが、身内でしたので怖くはありませんでしたけれど……なるべくなら、心配でこっちに来るようなことにはならないでほしいかな。
それ以外は、できる限り、会わない様な依頼を受けていたつもりですが……一度、幽霊が取りついた人形と対峙したことはありますね。
あれは、一般の方だったようですが……うん、あまり楽しい思い出じゃあなかったです」
遠い目をして言って、はあ、とため息をつく。
「そもそも死んだんだったら、帰ってこないでもらえないかな!死にたくないとか、伝えたいことがとか、心残りがとか色々あるのは理解してもいい。
でも、無関係の人を巻き込んで脅かすのはなしでお願いしますよ、本当に」
「そ、そうですねぇ……」
どう返していいか分からずに適当に相槌を打つリタの方を見て、ぐいっと詰め寄って。
「そこまで強い思いなら、生きているうちに何とかしてってほしいんです、切実に。そう思いません!?」
「ミケさん落ち着いて!」
もはやかぶりつき状態になったところを慌ててユキにひきもどされ、ぜえぜえと息をしながらそれでも椅子に戻るミケ。
アフィアが不思議そうに首をかしげた。
「ミケ、そこまで、幽霊怖い、なぜ、依頼、受けましたか」
「うっ……」
尤もなことを聞かれて固まるミケ。
ややあって、つっと視線を逸らす。
「……幽霊よりもずっと怖いものが、来るからです」
「幽霊より、怖い?」
「そこはあまりつっこまないでやってください…言霊は存在します」
「わかり、ました」
本人の言う通り、あまりほじくり返さないほうがよさそうだ。
アフィアはそちらの追求はあっさり取りやめ、リタの方を向く。
「もう少し、詳しい話、いいですか」
「あっ、はい!」
淡々としたアフィアの言葉に、リタは勢いよく頷いた。
「さっき、先輩、被害にあった、聞きました。
他に、どんな被害、出てる、わかりますか」
「あっ、はい。えっとー」
ぱらぱらと取材メモをめくるリタ。
「最初は、屋敷のご主人だったって聞いてます。20年くらい前だとか」
ペンの軸で頭をコリコリ掻きながら、書かれていることを読み上げていく。
「何もいないところに何かが出たって騒いで、暴れまわるようになったんだそうです。
使用人に暴力を振るうようになって、どんどん使用人が辞めていって、ある日、お屋敷の中庭で血まみれになってうずくまっているのを発見されたとか」
「うう……」
半泣きになりながら聞いているミケ。
リタは続けた。
「ご主人が亡くなって、奥様が遺産を継いだそうですが、今度は奥様がご主人と同じように、突然叫びだして逃げ回るようになったんだそうです。
奥様は悲鳴を上げながら走り回って、三階の窓を破り、そのまま中庭に転落してしまったとか」
「なんだか……不気味な話だね」
僅かに眉を顰めるユキ。
「子供はいなかったの?」
「いたそうです。当時7歳の娘さんが一人。遺産は最終的にはその娘さんが継ぐはずだったんですけど、お屋敷の管理をしていた執事が全部持って逃げようとしたらしいんですね」
「ありがち、です」
「でも、1週間くらいして、執事がお屋敷の近くの森で死んでいるのが見つかったんだそうです」
「死んで、た?」
「……全身の血が抜かれて、ミイラみたいに干からびていたそうです。どう考えても、死後一週間の死体じゃなかったって」
「……っ」
沈黙が落ちる。
リタは取材メモをさらに読み上げた。
「ご主人の親族が屋敷を訪れた時には、もう娘さんもいなくなっていて、屋敷は見る影もなく荒れ果てていたそうです。
だから、親族がその屋敷を取り壊して、残っているだろう遺産を回収しようと人を派遣したんですが」
「……そこで言葉を止めないでくださいよ」
「…派遣した人はことごとく、正気を失って帰ってきてその後口もきけないとか、バラバラになって近くの川に流れてたとか……かなりの人たちが犠牲になったようですね。当時の新聞も残っていますが、それでご主人の親族も、お屋敷に近づくのを諦めて放り出しちゃったそうです」
「…そこまで、人、死ぬ、国、教会、自警団、動かない、ですか」
不思議そうに首をかしげるアフィア。
リタは目を閉じて首を振った。
「そのお屋敷以外での被害は無かったので、近づかなければ被害も出ないっていうことで、結局動かなかったんだそうです」
「……で、娘さんの方は……」
「見つかったという記録は残っていません。20年前なんて、そんなに昔でもないしね。私が子供の頃ではあるんだろうけど」
さらりと言うリタに、再び黙り込む一同。
リタは更に続けた。
「娘さんと一緒に、結局娘さんに残された遺産も見つかっていないから、そのお屋敷にはまだ、ご主人の遺した莫大な遺産が眠ってるってまことしやかに囁かれていて、たまに冒険者や、興味本位の人間が入ったりしたらしいんだけど、もれなくシュウ先輩みたいな目にあってるそうなんです…」
「…その興味本位の人間っていうのには、僕たちも含まれるってことですよね……」
はあ、とため息をつくミケ。
「概ね、僕が下調べした情報と差異はないですね。リタさんがさっき仰っていた、当時の新聞、というのも見ました」
「えっ、ミケさん、下調べしてくれたんですか!」
驚いたように、リタ。
ミケは軽く肩をすくめた。
「まあ、三日あればそれなりのことが調べられるかな、と思って。ウェルドのことですから、地元に行けばもっと詳しいことがわかったかもしれないですけど」
「はぁ~さすがですねぇ」
「ひとつ聞きたいんですが、お屋敷の見取り図とか、あったりしないですか」
「あ~それがですねえ」
リタは困ったように眉を寄せて、ごそごそと封筒を漁った。
「当時の建築士が引いた図面のコピーはあるんだけど、先輩が持っていて……で、こんなかんじに」
ひらり。
クシャクシャに握り締められたであろうその図面は、紙の大部分が血で汚れ、端から中心部分にかけて大きく裂けていた。
「ひい」
「…これだと、入口しか、わからない」
ドン引きするミケの横で、冷静に地図を眺めるアフィア。
「屋敷、横、何もない。地面、ない、ですか」
「あっ、そうなの。こっち側は崖で、すぐそばに滝があって、結構な高さなんです。下は川で、まあ落ちたら死ぬな、みたいな。
屋敷の後ろ側は山壁になってて、後ろ側から来るのはちょっと無理っぽいんですよねー。崖の反対側は森で、先輩はここで見つかったんです」
崖、山壁、森の順に指差していくリタ。
アフィアの言うとおり、地図には屋敷の入口部分しか判別できる場所は残っていないようだった。
「…地図、自力で引く、しかない、ですね」
「そうですね。地図用の道具を持っていかなくてはいけませんね」
「了解、しました」
冒険者の顔で準備の打ち合わせをするアフィアとミケ。
そこに困ったようにユキも加わる。
「僕、絵が下手だから地図作るのに役にたてそうもないなぁ」
「ああ、それならそこは、適材適所で」
「ありがとう!そうしてくれるとすごく助かるよ。じゃ、僕はとりあえずオーソドックスに何かメモみたいなものがないか調べてみるね」
「メモ?」
「暗号が書かれたのとか…」
「ユキさん、何かに感化され過ぎじゃないですか」
「そ、そうかな」
わいわいと準備の相談をしていく一同を、リタは頼もしげに見守っているのだった。

よそのうちにはいるときは、きちんとノックをしてね。

「そういえば、うち、リタさん、聞きたいこと、ありました」

翌日。
打ち合わせ通りに合流して、ウェルド郊外にある目的の屋敷への道すがら、アフィアは不意にリタに訪ねた。
「うん、なにかな?」
すっかり一同と打ち解けたリタは、もともと外れ気味だった敬語をすっかり外してフランクに喋っている。
アフィアはそれを特に気にする様子もなく、普通に質問を続けた。
「リタさん、雑誌、オカルト誌、言ってました。オカルト誌、ってなんですか」
「え、今それ聞くの」
リタは少し目を見開いてから、苦笑して答えた。
「うーんと、今回みたいな、幽霊とか、あとは神隠しとかの超常現象とか、UMA……見たこともない怪物の話とか、そういうのを特集する雑誌のことだよ」
「オカルト誌、売れてる、ですか」
「痛いところ突かれたなー」
さらに苦笑するリタ。
「まあ、ミケさんみたいに、怖いの嫌いっていう人もいるし、普通の雑誌みたいな発行部数は見込めないのは確かかなー。
ま、うち…『ミッシング』は、色々あるオカルト誌の中でもあまり売れてない方だと思うけどね」
「やっぱり、そういうのにも売れ行きの差ってあったりするんですか」
今度はミケが、知らない世界の話を興味深げに聞いてくる。
リタはそうだね、とあっさり頷いた。
「どうしても編集部によってセンスの差ってあると思うしね。あとは、出版社の差かな。ドルトムントみたいな大手なら、取材にもそれなりに予算かけてもらえるし、優秀な人材も揃ってるんだろうけどね」
「リタさんは、もうずっとここの編集を?」
「うーん、私は今年入ったばっかりのぺーぺーだけど、正直、希望して入った部署じゃないよ。
ま、それはしょうがないよね。自分の希望してる部署に入れる方がラッキーなんだから。地道に実績重ねて、移動の希望を出してくしかないね」
「ちなみに、リタさんは何の雑誌をやりたかったの?」
ユキが訊くと、リタはにこっと楽しそうに笑った。
「スポーツ誌!私も昔スポーツやってたんだけど、やっぱり素人の域を出なくてさ。だから、頑張って活躍してるスポーツ選手のことを書きたいって思って、出版社に就職したんだよね」
「そうなんだ……いつか、スポーツ誌の編集ができるといいね!」
「うん!ありがと!」
そんな話をしていると、目的の場所が見えてきた。
「あっ……あれですかね?滝のそばの…お屋敷」
結構な山の上まで登ってきたこともあり、ミケの息は若干切れ気味だ。
震える指先には、確かにかすかに建物らしき影が見える。
「もう少しだね!行こう!」
リタの声に、一同の足が少しだけ早められた。

「本当にこちら側は崖なんですね…」
屋敷に到着した一同は、まずミケとアフィアの提案で屋敷の周りを調べることにした。
事前にリタから話を聞いていた通り、屋敷の正面から見て左側は切り立った崖になっていて、屋敷の裏手は山、崖の向こうに滝が見える。
建物の横に庭などもない、窓から落ちたら滝の下に真っ逆さまという危なっかしい作りだった。
「設計、おかしい、思います」
「まあ、人の趣味はそれぞれだからねぇ…」
「どちらにしろ、こちら側の測量は無理っぽいですね」
そんな話をしていると、屋敷の右手の方を調べていたユキが戻ってくる。
「随分大きなお屋敷だね。でも、こっちの方も森しかないみたい」
「井戸、物置、無かった、ですか」
「うん、そういうのは見つからなかったよ。お屋敷の中にあるのかもね」
「中庭とかあるみたいですし、そちらの方かもしれませんね」
嘆息して屋敷を見上げるミケ。
「3階建て、ですか……空いてる窓はないみたいですね」
豪奢な飾り窓はどれも閉じられていて、カーテンで覆われているのが見える。
1階正面には窓はなく、中の様子をうかがい知ることはできないが、外から見る限り、極端に老朽化していたり何かが壊れているようには見えない。ここが幽霊屋敷だと聞かされていなければ、普通に入ってしまいそうだ。
「20年間、人、住んでない、荒れてない、おかしい、思います」
アフィアの言うとおり、人が住まなければ家というものはあっという間に荒れ果ててしまうものだ。「普通」に見えることがかえって不気味さを醸し出している。
「……本当に入らなきゃダメですかねえ」
「ミケ、往生際、悪い」
「うう……」
しょんぼりと肩を落としながら、すたすたと正面玄関の方へ歩いていくアフィアの後をついて歩いていくミケ。
ユキとリタもそのあとから付いてきて、4人並んで正面玄関の前に立つ。
「では、開けます」
「も、もうちょっと外を調べませんか?」
「ミケ、往生際、悪い」
「うう……」
再びしょんぼりするミケをよそに、アフィアはあっさりと取っ手に手をかけ、手前に引いた。
ぎい。
多少の鈍い音はしたが、やはりやけにあっさりと開くドア。
中から漏れ出た空気は多少埃っぽいが、それ以外の匂いはしなかった。
「ご……ごめんくださーい……?」
誰もいないであろう屋敷内に恐る恐る首を突っ込みながら、こわごわとそう言ってみるミケ。
「ミケさん……誰もいないと思うよ」
「うう…」
ユキが気の毒そうにつっこみ、さらに肩を落とすミケ。
「中、まっくら、ですね」
アフィアが手際よくランタンに火をつけると、玄関の周りが少しだけ照らされた。
赤い絨毯が敷かれた、どうやら吹き抜けの大きなフロアであるらしい。正面に2階への階段がある、大きな屋敷によくある作りだ。
「……ところで、なんでランタンがカボチャ型なんですか」
「時節柄、です」
「これが公開されるジャストで終了してるんじゃないでしょうか」
「次の時、トナカイ型、しときます」
「それも公開された時には終了してると思います」
よくわからないやりとりをしてから、ミケは玄関のドアを振り返った。
「……とりあえず、閉まらないようにしておきましょうか」
一旦外に出て、ドアの取っ手にロープをくくりつけ、玄関の庇から伸びる柱にくくりつける。
「…閉まる前提の話はよそうよ」
「お約束は全部抑えておかないと」
リタのツッコミに真顔で返してから、ミケは扉の前に立ち、目を閉じて集中する。
「風よ…閉ざされた箱を舞い踊り、内なる音を我に示せ」
ふわり。
呪文とともに、ミケの周りの風が動く。
「えっと、ミケは何してるの…?」
リタがこっそり訊くと、アフィアが淡々と答えた。
「屋敷の中、調べてる。風の通る限り」
「へえぇ……すごいんだぁ」
そんな会話をしているうちに、ミケの探索魔法は終了したようだった。
「…とりあえず、普通のお屋敷みたいですね。ドアがしまっているところまではわかりませんでしたが、廊下や階段の構造はなんとなく把握しました。モンスターらしきものもいないようです…とりあえず」
「その魔法、幽霊、探知、できますか」
「うう……そこを突かれると痛いんですよね……」
もう一度しょんぼりと肩を落としてから、ミケはようやく玄関から中へ足を踏み入れる。
「やっぱり暗いですね…ファイアーボール」
ぼ。
呪文とともにミケの手のひらに現れた炎が、アフィアのランタンと同じようにあたりを照らす。
外側から差し込む光がないからか、あまり隅々までは見て取れないが、かなりの広さであることが伺えた。
正面に階段。左右に伸びる廊下。階段の先は踊り場から左右に分かれ、2階の廊下に行けるようだった。踊り場には大きな絵がかけられている。子供を抱いた聖母の絵。ごくごくスタンダードな『お金持ちのお屋敷』というイメージだ。
「…ふつーのお屋敷だよね……」
アフィアの後ろをついて歩くように入ってきたリタが、あまり怖がっていない様子であたりをキョロキョロと見回す。
と、そこに。

「誰だ?!」

鋭い声が聞こえ、一同は驚いてそちらを向いた。
「ひい!ごめんなさいごめんなさい!」
あっという間にパニックになって謝り始めるミケ。本人の魔力が途絶え、火の玉も消える。
「………そちらこそ、誰、ですか」
アフィアが用心深くリタをかばいながら、ランタンを声の方向に向ける。
すると。
「…ん……?人間か?」
ランタンに照らされたのは、どうやら生きている人間の男性のようだった。
玄関から左右に伸びた廊下の、右側にあった部屋から出てきたらしい。
「……あなたも、人間、ですか」
警戒を多少解いて、ゆっくりとそちらへ歩いていくアフィア。ユキもそれに続く。
人間であることに安心したのか、ミケも正気に戻ってあとをついていき、最後尾にリタが続いた。
男性の方もランタンを持っているようで、お互いの明かりがお互いを照らし出す距離まで近づいた頃には顔まではっきりと判別することができた。
「……ん?」
「あれ」
「えっと……」
どうやら、互いに顔見知りであるらしい。
リタがきょとんとして冒険者たちを交互に見ると、彼らは何かを思い出そうと頭をひねらせている。
「ええっと、あなたは確か……」
言いかけて、首を捻るミケ。
「……誰でしたっけ?」
ずる。
とりあえずこけてみるリタ。
「なにそれ!」
「あっ、いえ、あの、お顔は知ってるんですけど、名前は知らないんですよ!」
「マジカル・ウォークラリー、参加者、違いますか」
アフィアが淡々と指摘すると、ユキもあっという顔をした。
「そうだ、僕もどこかで見たことあると思ったんだ!」
「あー、あの時のか……確かに、顔見知りでもなきゃ冒険者同士自己紹介なんかしないしな。」
男性はポリポリと頭を掻いて、改めて姿勢を正した。
「グレン・カラックだ。グレンでいい」
簡潔に言って、軽く会釈をする。
短い銀髪に、意志の強そうな碧色の瞳。スタンダードな旅装束に剣を下げている。標準的な冒険者という風貌だ。
「僕はミーケン・デ=ピースです。ミケと呼んでください」
「アフィア、いいます」
「ユキレート・クロノイアです。ユキでいいよ」
「あえっと、私はリタ・ユナーギです!一応、この方たちの依頼人で……」
「依頼?」
リタまでが自己紹介をしたところで、グレンは首をかしげた。
「お前ら、依頼でこの屋敷に来てるのか?」
「はい。グレンさんは…?」
「俺は……師匠に頼まれて、というかなんというか……」
「師匠…?」
嫌なことを思い出したのか、ミケが微妙な表情になる。
グレンも沈痛な面持ちでため息をついた。
「ああ。俺の……まあいいや、とにかく大事なものを、この屋敷で落としたらしい。んで、代わりに探しに来たんだが…」
「そうだったんですね」
「お前たちは、何でこの屋敷に?依頼とか言ってたが……」
「あ、それはですね」
ミケたちはリタとともに、この依頼に関することをかいつまんで説明した。
「なるほど。この屋敷にそんな噂があるんだな」
「グレン、ここ、ずっと探してる、ですか」
「いや、お前らが来る少し前に入ったばかりだ。とりあえずそこの部屋を探してたんだが……俺の探し物も、もちろんお前らが言う財宝とやらも無かったな。まあ、こんな入口にあるわけはないか」
「そ、その……その部屋には、何もいませんでしたか?」
おそるおそるミケが訊くと、グレンはきょとんとして首をかしげた。
「何も、って、何がだ?」
「だからその……幽霊とか」
「うん?さあ……その部屋に入ったらドアが勝手に閉じたり、家具が揺れたりしてたが、まあ風でも吹いたんだろ」
「ちょっと!怖いこと言わないでくださいよ!」
半泣きになるミケに、眉を寄せるグレン。
「…怖いことか?幽霊などいないと言ったつもりだが」
「ひとかけらも安心できる要素がないんですけど?!」
「そもそも、幽霊なんて実在するのか?
……だとしたら、もう一度姉に会いたいものだが」
ぼそりと小さく呟いたので、ミケは首をかしげた。
「え、今なんて?」
「いや…なんでもない」
グレンは口元に手をやって言いにくそうにごまかす。
「というか、そこまで幽霊が怖いのになんでそんな依頼を受けたんだ?」
「男には超えなければならない山があるんです!」
もはやわけがわからなくなっているミケをよそに、グレンはリタの方を向いた。
「ここで合流したのもなにかの縁だ。俺もその依頼、協力してやるよ」
「えっ、本当?!」
ぱっと顔を輝かせるリタ。
グレンは頷いた。
「ああ、探し物は人数が多いほうがいいだろう。それに、幽霊が出る危険があるのなら、協力できるに越したことはないからな」
「ありがとうございます!グレンさんにも、ちゃんと依頼料は払いますから!」
「そうか。そうしてくれるなら俺としても助かる。よろしくな」
話がまとまったところで、グレンは改めて屋敷を見渡した。
「そうか…幽霊屋敷なんて噂だけだと思ってたが、被害者が出てるってことはそれだけの危険があるんだな。
宿のおやっさんがしきりに塩をもってけと勧めてきたが、まるっきりの役立たずでもなさそうだ」
言って、道具袋から小瓶に入った塩を取り出す。
と、ミケも苦笑した。
「考えることは同じですね…」
その手には、あからさまに調理用の小瓶に入った塩。
「……それ、効くのか?」
「気は心と言うじゃないですか」
「効かない前提なんだな……」
「僕も持ってきたんだ、これ」
言ってユキが取り出したのは、銀色の十字架が2つ。
ミケが怪訝な表情で首を傾げる。
「それ……効くんですか?すごく神様を信仰しているわけじゃないし、僕が聖なるセットを持っていて効果があるのか怪しいと思って、今回はやめておいたんですけど…あ、ひょっとしてユキさんは信仰してる神様があるとか?」
「えっ。あの、僕もそういうわけじゃないんだけど……銀は幽霊に効くって聞いたから…それで」
若干恥ずかしそうに肩をすくめるユキ。
アフィアはその様子を、感心したような無表情で見やった。
「…皆、幽霊、対抗アイテム、持ってる、すごい、です。
うち、幽霊、効くもの、わからない。何も、持ってない」
「あー、まあ、本当に気休めですけどね……その道のエキスパートがいればよかったんですが。オルーカさんとか」
「オルーカ、幽霊、エキスパート、ですか」
「ええまあ。彼女は僧侶ですからね。……敬虔な」
「敬虔、ですか」
「ええ、敬虔です」
大事なことなので3回言いました。
「まあ、ないものねだりをしても仕方がないので…僕も魔法とかで物理的に除霊するしか手立てはないですしね…」
「それでも、剣とかよりは効きそうな気がするが…」
「グレンさんの武器は、剣ですか?」
「ああ。火を纏わせることはできるが、それが幽霊に効くかは疑問だな」
「僕も火か風の魔法しかないですからね……」
「うっ……そんなこと言ったら僕なんか、ナイフや鞭くらいしか武器はないよ……」
しょんぼりとした様子のユキ。
「あっ、でも、光の結界を張ることはできるから、もし危なくなったら……」
「それは頼もしいな。ぜひ頼む」
グレンが頷くと、ユキは少し嬉しそうにへへっと笑った。
「うち、探索系、準備、多め。ロープ、スコップ、つるはし。あと、地図用の紙、ペン」
アフィアは言って、外の調査を書き入れた紙を広げてみせる。
ミケもそれを見て頷いた。
「僕もマッピング道具は持ってきましたが、アフィアさんにお任せしたほうがよさそうですね。
ところで、グレンさんが出てきた部屋は何があったんですか?」
「ん?応接室のようだったぞ。客用のソファとテーブル、飾り棚があったな」
「応接室……あとで、書き入れる、します」
グレンの言葉を受けて地図を更新していくアフィア。
「じゃあ……とりあえず、玄関に戻って……手分けをして探しますか?」
「ああ、それが良さそうだな」
ミケの言葉にグレンが頷き、一同は再び玄関扉の方に歩いていく。
ミケがロープをくくりつけて開け放しておいた扉からは、夕日の光だろうか、赤い光が差し込んでいた。
「もう夕方なんだ……どうしようか、この中で休めるところを探す?」
ユキが言うと、ミケは肩をすくめて体を震わせた。
「か、勘弁してください……野宿でも、外の方がまだマシです」
「そうだね、屋敷の中は何があるかわからないしね」
リタもそう言い、屋敷の外に出て野宿という結論になる。
「じゃあ、ひとまず外に出ましょうか」
そう言って、玄関扉に脚を向けた、その時だった。

ばたん!!

突如、ものすごい音を立てて閉まる扉。
「!!」
「えええ?!」
ミケが真っ先に扉に駆け寄り、取っ手を握ってガタガタと揺らした。
だが、扉はびくともしない。
「そんな、なんで!ロープで固定しておいたのに!」
「ミケさん!」
駆け寄ってくる仲間たちを、ミケは手で制した。
「ちょっと、離れてください!」
強く言われ、足を止める。
ミケは扉から手を離し、至近距離で魔導を発動させた。
「ファイアーボール!」
ごう。
手加減なしの彼の魔法が炸裂し、あたりに炎が巻き起こる。
だが。
「な……!!」
炎はまるで何かに吸い込まれるように散ってゆき、傷ひとつないドアだけが残る。
「そんな……なんで」
「ミケ、どけ。俺がやってみる」
呆然とするミケを押しやり、グレンが剣を構えて斬りつけた。
「でやあっ!!」
だが。
きぃん!
まるで鉄を切りつけたような鋭い金属音がして、剣はあっさりと弾き返された。
「ち……魔法がダメなら剣でと思ったが、ダメか……」
悔しげに吐き捨てるグレン。
と、そこに。

『うふふふ……うふふふふふ』

小さな女の子の笑い声のようなものが、突如あたりに響き渡る。
「ひっ」
「な、なんだ……?!」
「女の子…?」
どこから響いてくるのかわからない声に、一同が戸惑ったように辺りを見回す。

『うふふふ…あははは……』

声は何かに反響しているようにあちこちから響き、どこから聞こえてくるのかまるで見当もつかない。
閉じ込められたことも相まって、この異様な状況に一同は戸惑うばかりだ。
「え、ええと……とりあえず、け、計測……計測しなきゃ。地図作って、ちゃんと帰る道を探すんだ……これは調査。財宝を探す調査……」
ミケはもはやぶつぶつ呟きながらロープを猫にくくり付けるという逃避行動に走っている。

『お客さまね?お客さまはひさしぶりね!ようこそ、わたしのおうちへ!』

「へっ…?」
「お客、さま」
唐突に聞こえた笑い声以外の言葉に、一同はきょとんとして顔を見合わせた。

『だぁれもいなくて、たいくつしていたの!お客さまがきてくれて、とってもうれしいわ!
 いっぱい、いーっぱいおもてなしするから、ゆっくりしていってね!』

がしゃん。
少女の声と共に、冒険者たちの誰が発したのでもない音が当たりに響く。

『まずは、この子たちとあそんであげて?お客さまが来て、とってもはしゃいでるの!』

がしゃん。
がしゃん。
金属が擦れてぶつかる音は、大きな階段の両脇から響いている。
「うっ……!」
その姿に絶句する一同。
ランタンの明かりに照らされてぬっと姿を現したのは、槍を持った1対の甲冑だった。

がしゃん。
がしゃん。

2体の甲冑が、たどたどしい動きで冒険者たち方へ歩み寄ってくる。
ランタンの明かりに照らされたそれは、埃をかぶって不気味な色に輝いていた。

「…リタさん、後ろ、下がって、ください」
アフィアがリタをかばうように前に出る。
「ちっ……やるしかないか」
再び剣を構えるグレン。
ユキもその横でナイフを構える。
ミケはその後ろに下がり、リタをかばうように立った。

ランタンの明かりだけがあたりを照らす中。

恐怖の『遊び』が、幕を開ける。

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