予告
次はなにして遊ぶ? かくれんぼがいいかな。 おにごっこもいいな。 わたし、あやとりじょうずなのよ。 おままごとは子どもっぽいからきらい。 どうしてもっていうなら、やってあげてもいいけど。 おうちに帰ってこないパパなんてきらい。 パパがいないおうちに、変なおじさんをつれてくるママもきらい。 きらいきらい、みんなきらい。 ねえ、遊びましょうよ。 ずーっとずーっと、遊んでいたいの。 このおうちで、いつまでもずっと。 ねえ、遊ぼう? 遊んでくれるよね? わたしと、ずっと、ずうっと。
「えええぇぇ!い、いやですよぉ~!!」
ざわついた編集部に甲高い声が響く。
声の主は、小柄な少女とも言えそうな体躯の、かちっとしたスーツを身にまとった女性だった。
あどけなさを感じさせる容貌に、短く揃えられた巻き毛。大人っぽいデザインのスーツが妙にアンバランスだ。
彼女は目の前の上司に、心底困った様子でくってかかった。
「なんで私が行かなきゃいけないんですか!だってそれ、シュウ先輩の記事だったでしょ?!」
「そのシュウが、ボロボロになって森の中でブッ倒れてたんだ。いま手が空いてるのはお前だけなんだよ、いいから行ってこい」
「そんな!シュウ先輩、すっごいガリガリになって病院に運び込まれてまだ目が覚めてないっていうじゃないですか!ぜっったい、あのお屋敷の呪いなんですよ!
ね、編集長、もうやめましょうよ?あのお屋敷の取材なんて、ホントに人が死んでからじゃ、ていうか私が死んでからじゃ遅いんですよ?!」
「うっせえ!」
ばん。
女性の気迫にも負けず、デスクを叩く編集長。
「ここまで来て後に引けるか!呪われたお屋敷に隠された財宝、こんな美味しいネタを諦めるなんて、俺の記者魂が許さん!」
「だったら編集長が行けばいいじゃないですか!」
「俺は編集長としての仕事があるからな、ここを離れられねえよ」
「ずるーい!!」
「いいか、もし屋敷の呪いを解明して、財宝が見つかれば大スクープだ。部数も跳ね上がり、財宝もウチのもの。呪いだの幽霊だのが怖いなんて言ってらんねえんだよ!もし呪いや幽霊が本物なら、行ってインタビューのひとつでもしてきやがれ!」
「そんなのできるわけないじゃないですかー!」
「あーうるせーうるせー!そんなに怖きゃ、冒険者でも雇え!経費で落としてやるから!」
「本当ですか!」
女性の顔がぱっと輝く。
「じゃ、じゃあ、早速依頼出してきます!見ててください、絶対スクープとってやりますから!」
そう宣言し、あっという間に部屋を出ていく女性。
ふう、とため息をついた編集長に、傍らにいた記者が眉を寄せて話しかけた。
「いいんですか?編集長……あそこ、割とガチみたいですけど」
「まぁ……あいつがダメなら、このネタは凍結だな。何かが見つかりゃ儲けもん、ってとこだ」
酷いことをさらりと言って、それきり編集長はこの話題は終わりとばかりに別の書類に目を通し始めた。
まさか、彼女があんなに何人も冒険者を雇うなどとは、露ほども思っていなかったのだから。
取材を手伝ってください
ウェルドの郊外にある、今は人の住んでいないお屋敷に、財宝が隠されているという噂があります。
それを確かめるための取材に同行して、アシスタント兼ボディーガードをしてください。
報酬は1日金貨1枚。
財宝を見つけられたらボーナスが出る……はずです!
依頼を受けてくださる方は3日後に真昼の月亭に来てください。
オカルト専門誌「ミッシング」編集部 リタ・ユナーギ