予告

真赤な太陽 沈む砂漠に
大きな怪獣が のんびり暮してた
ある朝目覚めたら 遠くにキャラバンの
鈴の音聞こえたよ 思わず叫んだよ

海が見たい 人を愛したい
怪獣にも 心はあるのさ

出かけよう 砂漠すてて
愛と海のあるところ

真赤な太陽に 昇るたつまきを
大きな怪獣は 涙で見つめてた
自分の足跡に 両手をふりながら
東へ歩いたよ 朝昼夜までも

海が見たい 人を愛したい
怪獣にも 望みはあるのさ

あたらしい太陽は燃える
愛と海のあるところ

あたらしい太陽は燃える
愛と海のあるところ


「怪獣のバラード」童謡・唱歌 作詞:岡田 冨美子

「ホンマやって!ホンマに見たんやって!」

その男は、青ざめた顔で酒場の仲間たちに訴えかけていた。

「砂漠の方からな、めっちゃでかいバケモノがこっち歩いてきててん!」
「めっちゃでかいバケモノぉ?」

半信半疑の仲間に、男はますます語気を荒げる。

「ホンマやて!ヤシの木の3倍…いや、5倍はゆうにあるでかいやつでな、でかいから歩くのも遅うて、俺でも簡単に逃げれたんけどな…ありゃー、このまんまほっといたらこの村まで来るで!」
「ホンマか。やばいんちゃう?」
「せやけど、なんでこんな村にバケモノが来んねん?」
「そんなん知るか!村に来るんやのーても、通り道やっても、あんなんに通りがかられたら村は踏みつぶされてまうで!」
「せやな……」
「なあ、これ村長に知らせた方がええんちゃう」
「せや、冒険者呼んで退治してもろたらええねん!」
「冒険者雇うんやったら、まずバケモンの特徴を詳しく書いた方がええんちゃう。見たのお前だけやし」
「せやな、えーっと…」

最初に話を持ち掛けた男は、混乱する中うつむいて記憶をたどる。

「えっと、まーとにかくでかくてな…最初は砂の山かと思てん。砂に溶け込むみたいな皮膚の色で、四足で歩いとる。頭はでかくて、大きな赤い目がひとつだけ光っとって、とにかく不気味やった」

「えっ」

男の声に反応したのは、しかし仲間たちの誰でもなかった。
どうやら彼らの話を隣の席で聞くとはなしに聞いていたらしい。
その男性は、女性かとも見まごうような端正な顔立ちを驚愕の色に染め、問い詰めるように身を乗り出した。

「砂色の鱗に、大きな赤い一つ目……あの、それは、本当ですか」
「お、おう……」

切羽詰まった様子の男性に面食らう男たち。
男性は思いつめたように少しうつむくと、すぐに顔を上げて彼らに言った。

「あの。その、村長さんへのお話し。私も連れて行ってくれませんか。
 私がその怪物を、何とかしてみせます」

砂漠の民には珍しくない、褐色肌にとがった耳。優しげなモスグリーンの瞳は、なぜか悲しげな色を含んでいて。
男たちは気圧されたように、男性……フィズと名乗ったその男の言葉に頷くしかなかった。

その後、村から少し北に上ったところにあるシェリダンの首都テーベィの酒場に、こんな依頼文が貼り出されることになる。

モンスター捕獲依頼

テーベィ南にあるギザの村付近に、巨大なモンスターが近づいています。
モンスターを捕獲し、村を守るのを手伝ってください。

モンスターの種類は、目撃情報を聞く限りではバジリスクです。
大きな赤い瞳で睨み付けた対象を石に変える能力を持っています。

モンスターが村が目的で移動しているのではない場合も、
何かの拍子に石化されてしまう危険性もあり、大変危険です。

ただし、モンスターを殺したくはありません。
生きて捕獲し、召喚の儀式を行い、使役するつもりです。
そのお手伝いをしてください。

フィズ・ダイナ・シーヴァン

そして時を同じくして。
ヴィーダにもまた、奇妙な依頼文が貼り出されていた。

失踪したペットを探すお手伝いをしてください

ペットが庇護下から逃げ出しました。行方が分かりません。
シェリダンでの目撃情報があったため、探すお手伝いをしてください。

ペットはそこそこ大きく、危険な性質を持っているため、
腕の立つ冒険者を募集しています。
ただし、やはりペットなので、殺さないでください。
戦闘が難しい場合は、逃げても構いません。
あくまで、ペットの居場所を伝えてくださることが依頼内容となります。
捕獲が可能であった場合は、報酬に上乗せいたします。

キルディヴァルジュ

出かけよう 砂漠すてて
愛と海のあるところ

ギザに表れた怪獣は、果たして海を見ることができるのか。

それは、冒険者たちの決断にかかっている。
…かもしれない。

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