予告

恋は メタモル☆マジック あなたのためにきっと
恋は メタモル☆マジック 私 キレイになるわ

Dream ホントはね ずっと夢見てた
お姫様になれる ステキな魔法
目が覚めたら いつもの朝
鏡に映ってるのは さえない私

夢を見てるだけじゃ いつまでも変われない
自分の手で魔法かけなくちゃ

恋は メタモル☆マジック 女のコは誰でも
きっと メタモル☆マジック 恋でキレイになるの
だから メタモル☆マジック どうか魔法をかけて
いつか メタモル☆マジック 結ばれる日のために

ねえ 嘘みたい 夢じゃないわよね?
あなたが私を見てくれるなんて
すずやかな瞳 やさしい声
私を変えてしまった 不思議な魔法

ホントに夢みたい これがMetamorphosis
あなたのためにキレイになるの

恋は メタモル☆マジック 好きになればなるほど
もっと メタモル☆マジック キレイになっていくの
だから メタモル☆マジック もっと夢中にさせて
そうよ メタモル☆マジック あなたしか見えないわ

「みんなーっ、ありがとーvミュー、みんなが応援してくれるからがんばれるよーv」
歌が終わった直後の割れんばかりの歓声の中、スポットライトに照らされて涙ぐむ美少女。
結構な広さのホールは今日も満員御礼だった。妙にゆるいシャツを着た汗だくの男たちがひしめき合い、ステージの上に立っている美少女に少しでも近づこうと身体を傾ける。
むせ返るような熱気が満ちた会場では、野太い歓声に混じって「ミューちゃーん!」だの「愛してるよー!」だの「萌えー!」だのという言葉が飛び交っていた。
「ありがとーっ、みんなありがとーっ」
ステージの上の美少女は、うっすらと涙を浮かべたまま、それでも天使のような微笑を浮かべて観客達に手を振る。それに答えるように観客がぶんぶんと手を振り回す。
「マヒンダのツアーは、今日で終わりなのっ。みんなと会えなくなるのは寂しいけど、ミュー、フェアルーフでがんばってくるから……だから、みんなっ、ミューのこと、待っててね!」
うおぉぉぉぉっ!
再び会場中に歓声が広がる。
美少女はにっこりと笑って、もう一度観客に手を振った。

「お疲れ様でーす」
「お疲れさまー」
「お疲れー」
「お疲れ様でーす」
ステージから裏へ回ったミューは、スタッフ達と笑顔で挨拶を交わしながら楽屋へと向かっていた。
ピンクを基調とした可愛らしいステージ衣装が、彼女の歩みにあわせてひらひらと舞っている。彼女の顔の両側から覗くマーメイド独特の鰭に合わせてか、ピンクが基調でありながらどことなく海をイメージしたデザインが彼女によく似合っていた。
長い廊下を抜けて、奥まった場所にある部屋のドアの手前で足を止めて。
『ミュールレイン・ティカ様』
大きく書かれた名前の張り紙を一瞥し、ドアを開ける。
がちゃ。
「…………!」
ドアを開けた瞬間、ミューの身体はびくりとこわばった。

ステージに出かける前は、楽屋いっぱいに飾られていた花。
それが、全て首をもぎ取られ、部屋中にばら撒かれている。
彼女が今着ているもの以外のステージ衣装が、めちゃくちゃに切り裂かれてあちこちに散らばって。
このような行為をした者の狂気を十分に主張していた。
こつ。
ゆっくりと、足を踏み入れる。
正面に広がる鏡には、彼女がよく使うルージュで大きく文字が書かれていた。

『もうすぐだよ。
君にふさわしい王子様になって、君を迎えに行ってあげる。
俺だけのために、綺麗になってくれるよね』

「……またかね……」
いつの間にか背後に来てぽつりと呟いた男に驚いてそちらを向く。
「室長」
「ここではプロデューサーと呼びたまえ」
半眼でどうでも良いことを釘刺した男は、いつものように無駄に長い金髪を無駄に大仰なしぐさでかき上げた。
「なかなか、しつこい男のようだね……ファンになってくれるのはありがたいが、ここまで執着されるのも困りものだ」
ため息をつく男には言葉を返さず、ミューは再び鏡の方を見た。
無言のままの彼女に、男は言葉を続ける。
「やれやれ、これからフェアルーフ公演だというのに…厄介なことだ。
この調子だと、十中八九ヴィーダにまでついてくるだろうね」
「………そうですね」
鏡を見つめたまま、短く答える。
男は再び、ふぅ、と沈痛そうにため息をついた。
「…仕方がない。現地で冒険者でも雇うとしようか。
私としても、今君を失うのはあまり好ましくない」
そして、くるりと踵を返す。
「今スタッフを呼んで片付けさせよう。
君は隣の空き室で休んでいたまえ」
ミューの返事を待たずに、男はそのまま部屋を後にした。
ミューはそれからもずっと、鏡に書かれたルージュの文字を見つめていた。

「………はぁ………」
所と時は変わって、ヴィーダ。
大通りでも特に、ブティックや美容院などファッション関連の店が多い一区画に、あからさまに浮いている青年が一人、とぼとぼと歩いていた。
年は二十歳そこそこといったところだろうか。白茶けた金髪は伸ばし放題でぼさぼさ。そばかすの浮いている顔を半分近く覆い隠し、瞳の色も判別できない。
どこかの制服だろうか、とかろうじて思える程度の、フォーマルそうなデザインの服に身を包んでいるが…かろうじて、というのは、その服がフォーマルとは思えぬほど着崩され、ヨレヨレになっていたからに他ならない。しかもところどころ何か妙な色で汚れている。姿勢は落ち込んでいる様子を差し引いてもひどい猫背。足取りも重く、何か妙などす黒いオーラを背負っているようにさえ見える。
そのような見た目の男が、この区画をうろついているだけでもなかなか奇異なことだった。現に、流行の服に身を包んで綺麗に着飾った女性たちが、彼のことをからかうように指差して笑っている。
しかし、彼はそれに気付かないのか、それとも気にならぬのか。ショーウィンドウに飾られた男性モノの流行り服を見上げてはため息をつき、美容院の方を見ては肩を落としている。
何度かそんなことをしながら大通りを往復し、とうとう諦めたのか、彼は空を見上げてポツリと呟いた。

「………どうしたらいいんだろう………」

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