このシナリオはあたしにとって、すごく大きなことをやり遂げたものであると同時に、すごく大きなことをやらかしてしまったシナリオであったなと思います(苦笑)
言うまでもなく、「事件を解決したと思ったら、その先にもう一段階あった」ということがやりたかったんですね。「月魔」の2段階推理を、正真正銘、PLに解いてもらうことを目的に作ったシナリオです。
これもまた今だから言える話になるんですが、H&Sの元になったコラボシナリオを計画していた時に、「解決したように見せかけて、その先にもう一段階あったら面白いよね」という話をしていたんです。
そのときあがった話はもっと極端で、話はいったん完結する。で、感想フォームに「まだ、何かありますか?」という項目を用意して、それに送ってきたPCだけでもう1話書く、というものでした。
それはさすがにハードル高すぎだろう、と思ったんですね(笑)この話のポイントは「何もないと思ったところに何か埋まっていた」という驚きに焦点を絞るもので、何か埋まっていることを示唆しすぎても、逆に気づくための手段を何も用意しなくてもダメなんです。あくまでも、あの時、あれに気づいて発言していれば、というものでなくてはならない。感想フォームは感想を送るためのフォームであり、更なるアクションを書いてくる人はまずいません。かといって、感想フォームでなくアクションフォームだと銘打てば、これは完結したのではなくまだこの先に何かあるのだと宣伝しているようなものです。
そこであたしが取ったのは、「明らかに矛盾するある1ポイントに気づいた人だけを明確に差別化する」という手段でした。

当初の予定としては。
予告にも書いてある通り、本当に推理にするつもりはなかったんですよ(苦笑)セイカとのかけひきが主になる予感、と記した通り、隠そうとするセイカとどれだけ駆け引きをして情報を引き出すか、というのをメインにするつもりだったんです。
そして、いろんなことが明らかになって、さあ、「どう解決するか」という課題をPLに投げます。表面化した問題を単純に解こうとするPLと、「表面化したことで新たに明らかになった矛盾」を突いてくるPLを想定し、矛盾を突いてきたPLについてはその方と後ろでメールのやり取りをして正解まで導く、という予定でした。
ですから、矛盾に「気づいた」PCと「気づかなかった」PCを明確に差別化する、というところは当初の予定通りだったんです。

「気づく」ことと「気づかない」ことを明確に差別するためには、そこに矛盾が「ある」とも「ない」とも示唆しないことが重要です。
セイカの話はショッキングだが彼女の行動には矛盾がない。でも最初からの大きな模様を全体として眺めると大きな矛盾がある。そのことも含めて、最後のアクションフォームには「どうしたらいいと思いますか?」という大まかな問いを投げかけました。
それは、セイカの身の処し方の解決法を問うているようにも見えるし、後から言われてみれば、もっと根本的な解決法を問うているようにも見えます。
このアクションで、「セイカがつけた火傷の跡を、タカミが知っている」という矛盾を指摘してきた方にのみメールを返信し、そこをもっと掘り下げて考えてみてください、と、他のヒントと共にお伝えするつもりでした。そして最終的にはその方に謎を解いて頂き、PCに活躍してもらう。もし、誰も矛盾を指摘してこなかったら、そのときは仕方がないのでNPCに解決をしてもらう、という予定だったんです。
その為に、あたしは「相談をしてもらっても、その解決法を取るかはわからない」とずっと言い続けていました。訊かれた質問には答えましたが、それ以外のことは一切示唆しなかったと思います。

このプランで致命的なのは、「矛盾を公開の場で指摘される」ことです(笑)もしアクション掲示板で矛盾を指摘されてしまったら「気づいたPCの明確な差別化」はできなくなります。それが、あたしがこのシナリオで最も恐れていたことでした。
恐れていたということは、前例があったということです(笑)くだんの、コラボシナリオをやる予定だったGMさんがまさに、推理のシナリオで、ポイントとなる部分の質問を、掲示板でされてしまって(笑)そのポイントで綺麗にひっくり返される予定だったであろうそのシナリオは、そのポイントが掲示板によってPLにも参加していない読み手にも周知の事実となってしまい、話の展開を大幅に変えざるをえなくなってしまいました。それを見ていたからこそ、慎重にやらなければな、と思っていたのはあります。
幸いそのようなことはなく、気づいてくださった方も2名いらして、その方たちとメールでやり取りすることも出来ました。
しかし、1名の方は「それだとここで矛盾するから考え直してみて」というメールに「違うとメールで言われてしまうとリアクションを読む楽しみが無くなってしまうので辞めてほしい」というお返事を下さり、確かにそういう楽しみもあるなということでそれ以降のやり取りは辞めてしまいました。
もう1名の方は、ご都合で第3回のリアクションを読んだのがアクション締め切り当日だったんですね(笑)10日くらいは頑張ってやり取りをしましたが、時間切れとなり、以降の推理はアスにバトンタッチする形になりました。

しかし。
たったの7日で執筆が出来るなら、その方と最後までメールのやり取りをして解決をしていただく時間もあったのではないか。
自分の仕掛けた謎をPLが解くことが出来なったことに優越感を感じていたのではないか。
本当はPCでなく、NPCに事件を解かせたかったのではないか。
そういう気持ちが1%もなかったと言い切れるのか。
そう、問われたら。

はっきり言いましょう。
100%無かったとは言い切れません。

その気持ちが、当初のあとがきにぽろっと出た「(PLさんがその矛盾に気づかなかったので)これ幸いと(NPCに事件を解かせた)」という発言に現れていたのだと思います。
これは、良くなかったと今でも思います。

ですが、誤解をされた方もいらしたので、改めて明確に反省点を述べておきますと。
あたしは、「そういう気持ちを抱いたこと」自体は、間違っていることではない、と考えています。
もちろん、「PCを差別化するシナリオを作ったこと」「PLに解けないような謎を組んだこと」「解けなかったらNPCに解かせるという仕様にしたこと」も、間違っていたとは今でも思っていません。
あたしが反省すべき1点は、「PLに対する優越感をはっきりとわかる形で表に出してしまったこと」ただ1点のみです。

あたしの中で。
確かに、「NPCに事件を解かせたこと」は「勝ち」の一部であったと思います。
矛盾に気づかないPLを出すために、タカミの話を1話に持ってきて意図的に思考から遠ざけました。セイカの受けた仕打ちをショッキングにしたり、古参のキャラクターを強烈にすることでそちらに意識を持って行かせるようにしました。それに意識が行って矛盾に気づかなかったPLさんがいた、ということは、確かにあたしの中では「勝ち」です。だって、そうなるように仕向けたんですから。
ミニプリの時も言いましたが、読み手の予想をひっくり返す話を書いて驚かせるというのは、書き手にとって最高の快感なのです。
でも逆に、そうやってあたしが手を尽くしても、惑わされずに矛盾を指摘する方がいらしたら、それは潔く…まあ、「負け」を認めて、解決に導くためのやり取りをしよう、とは決めていました。いろいろな理由をつけて「それに気づくのはおかしい」とか「それは出来ない」とかGM権限でやってしまうことだけはしない、と。それをやったらさすがに、GMとしては越権だと思います。
GMとして、PLに「勝負」を…まあ、あたしの心の中でだけですが、挑むとしたら、自分で作ったにせよ、ルールはきちんと守らなければ意味がありません。自分が勝てばいい、のではないです。ルールに縛られた上で勝つことが重要。絶対自分が勝つとわかっているゲームなんて面白くもなんともないですから。
そうやって自分の中でルールを決めて進めてきたゲームです。前述のように、気づかれないための細工は施しても、タカミの発言という「矛盾」はずっと表示しっぱなしになっているわけです。いつ誰かが気づくか、それをチャットや掲示板でぽろっと言ってしまうか、と、4話のアクションを待っている1ヶ月間は本当に気が気ではなかったんですよ(苦笑)それから開放されて、ああいう結果になって、あたしは確かにはしゃいでいました。それはもう明らかに。

でもね。
「推理にする予定は無い」って、自分で言ってるんですよ。
推理で勝負しますよ、とも言ってないのに「推理勝負で勝ったオレすごい」って、おかしいじゃないですか(笑)
推理と銘打って、推理をするつもりで参加したPLが謎を解けなかったら、「残念でしたねふふん」くらいは言っていいと思うんです、ぶっちゃけ(笑)でも、そうじゃないわけでしょう。
「気づくPLが少なかった」「だまされたPLがいた」というのは、あたしの胸の中のひそかな目標であるべきで、それが達成されて嬉しくても、それを表に出すべきではなかったんです。
表に出すことで、あたしの中の「勝ち負け」が、PLさんにとっても「勝ち負け」になってしまった。推理の勝負をするつもりで参加したわけでもないのに、推理が出来なかったことで敗北感を感じてしまうことになった。これは明らかに、良くないことです。

解決することが勝ち、だとは思っていません。
PCがそのPCらしく活躍をすることが、しいて言うなら勝ちだと、あたしは思っています。
何をもって勝ちとし、何をもって負けとするかは、PLさんがそれぞれに持っていていい価値観であるべきです。
でも、GMがPLをだました喜びを口に出すことで、GMにとっての勝ち負けの価値観をPLに押し付けてしまう、しかもそれはあらかじめ提示されていた勝負でさえない。これは良くないことだと反省しました。

でもね、言い訳をするのではないけれども、あたしにとっての完全勝利は「PLを解決に誘導し、PCが謎を解くこと」ですよ(笑)これは、きっぱりと言えます。
だからこのシナリオは、完全勝利ではなかったです。これはこれでひとつの形であるとは、思いますけれども。

でもね、そればっかりじゃないでしょ。
GMだって人間ですもの。自分の作ったキャラは可愛いし、他の人が解けないような謎を考えて読んだ人がまんまとそれに引っかかったらそら快感ですよ(笑)その感情はあっていいと思うんです。GMだって楽しくなきゃゲームなんかやってらんないでしょ(笑)ましてや無料なんですから。何が何でもPLを楽しませるためにGMはいろんなこと我慢すべき、っていうなら、金払ってPBMやってくださいよっていう話です。あたしは自分自身にも、他のGMさんにもそんな我慢はさせたくないです。ウチのサイトでは、GMもPLも平等に楽しんでいただきたいんですから。
ただ、その「みんなが楽しむ」為に、隠しておいた方がいいことっていうのはあるよね、という話です。今回のことではあたしも勉強させていただきました。

さらに、やっぱり誤解されている方がいるようなのではっきり考えを述べておきますが。
「最初からNPCに解かせるために難しい謎を組んだのだろう、自分の話にPCを乗せるだけのPBeMは駄作だ」というご意見には、はっきりとノーと言わせていただきます。
この話は、このPCメンバーでなければこの結末にはなりませんでした。
最初に言ったじゃないですか、推理にするつもりは無いと(笑)こんなに推理色が強くなったのは、他でもない、PLが送ってきたアクションに推理の色が濃かったからです。
さらに言えば、当初の予定では、セイカは戦いを挑んでくるのではなく、鏡の中の空間に入るという形で姿をくらます予定でした。
彼女が戦いを挑んできたのは、冒険者さんが的確に情報を収集し、さらにナノクニのさる高貴な身分の方(笑)までが加わってきて、姿をくらますだけではダメだと彼女が判断したためです。
アスの依頼を受ける冒険者がいなければ、アスは絡まってこなかったでしょう。クルムさんが「調査報告をアスに対してもやる」というアクションを送ってくださらなければ、アスはこの事件の詳細がわからず、推理をすることは出来ません。タカミを決定的に問い詰めることは出来ず、セイカの傷はぬぐえたとしてもタカミを捕えることは出来ないまま終わっていたかもしれません。
あるいは、ミケさんたちの、古参をだますための小芝居が実行され、ギルドは表向き平穏になったけれども、最後にタカミがほくそ笑んで終わる、というエンディングになったかもしれません。
PCの誰もが、セイカやアスのことを、ムツブのことを真剣に思って、行動した結果がこのリアクションであったのです。誰がやっても同じというのは他でもないPCにとってとても失礼なことだと思います。それは、他のどんなシナリオも、そうだと思いますよ。

さて、話の方の元ネタを話して終わりにします(笑)
セイカの設定については、多分日記かなんかで当時話したと思いますが、このシナリオをやるにあたって再構築しなおしたものです。
確か当初は、セイカは自分を虐待した養父を殺して体罰部屋だった地下室の壁に埋め込み、行方不明になった養父の代わりに自分がギルド長の座に収まる、という感じだったのだと思います。H&Hの4話を書いたときまでの脳内設定はこちらでした(笑)だからセイカが今より異様に攻撃的なんですね(笑)
しかし、シナリオにするにあたって。セイカに犯罪者になってもらっては困るのです(笑)セイカは犯罪者ではなく、でも他の人に頼れないと思っているような重大な「罪」を抱えて一人で苦しんでいる。それを暴こうとする亡き養父側の縁者と、彼女を救いたいと思っているアスの思惑が交錯していく話にしよう。そして、セイカの抱えている罪は、最終的に本当に「無実の罪」だということが判る、という感じになるといい。そういう感じで作っていったと思います。
セイカの父フミタカ、依頼人ムツブ、犯人タカミの名前は確か、あんまり現代の日本人っぽくない名前にしようと思って考えて…人名事典とか珍しい苗字のサイトとか見に行った記憶があります(笑)残りの古参の名前は大きな声では言えませんがそこにあった生徒名簿の名前を適当に組み合わせた記憶が…(笑)組み合わせなので本当にこういう名前の子がいる訳じゃないです(笑)
レイナ、というのは、セイカのもとの、さらにもとの名前です(笑)ファンタジー世界の子ではなくて現代から迷い込んだという設定の子だったなぁ…懐かしい(笑)レンと愛美は適当に。

関係ないですけど、フミタカの名前は異様に間違えられ率が高かったです(笑)読み違えをしないように、わざわざ最初に漢字で表記し、改めてカタカナで表記したんですが…(笑)そんなに間違えられやすい名前かなあ(笑)カタカナがいけないのか…(笑)
だから、アクションで名前を間違えてきた方は、リアクションでも間違えた名前を言って訂正される、という風にしています(笑)ナノクニの独特の発音とかを外国人が上手く覚えられない、という演出になればいいかなと思って(笑)実際、アメリカ人は「フミタカ」っていう名前覚えられないと思いますし(笑)「フミタカ?呼びにくいよ、君は今日からマークね!」とか言いそう(笑)
あたしの中でのどうでもいいこだわりとして、「漢字表記」は、その国独自の発音で喋っているもの、「カタカナ表記」は、共通語を喋る時用の発音、という意味で使っています。これはリュウアンの名前のときも一緒です。「霧河薙」と「Nagi Kirikawa」の違い、ですかね(笑)英語で自分の名前を喋る時、別にそんな必要なくても英語っぽく喋ったりしませんか(笑)あんな感じで。最近の中学の英語の教科書では、日本語名でも名前を先にしたりしないんですよね。日本語は苗字を先に表す文化だということを強調したいんでしょうか。…ホントにどうでもいいですが(笑)

振り返ってみると、いろいろとやってみて、いろいろと考えさせられたシナリオであったと思います。
でもやっぱり、やってよかったな、と今は思うのです。