笑顔は、人を幸せにする。
なーんて、陳腐な言い回しだけど。
なるほど、笑顔ってのは便利なんだな、と思う。

幸せ…かどーかってのは、ボク自身が幸せってのをいまいちよく理解してないからわかんないんだけどさ。
少なくとも、人の心を和らげることは出来ると思う。
ボクが笑うと、相手も笑う。
笑って、少し和んだ人は…なんでか、同じことを言っても好意的な返事が返ってくることが多いんだ。

だから、ボクは笑う。
笑顔は、相手の心に切り込んで、自分の望む方向に持っていくための武器。
斬りかかったら防御する心も、笑顔の前には無防備になる。
怒るよりも笑った方が御しやすいなら、笑った方が断然有利だ。

どうせ、どっちも本心なんかじゃないんだからさ。

ママを亡くしてから一人で生きてこなくちゃいけなかったボクは、ずっとそうやってきた。
笑顔は、人の心を和ませる。大した事をしていなくても、ボクに良くしてくれる。多少のわがままも通る。
笑顔は、社会って枠の中でソツなく上手くやっていく為の手段なんだ。
ボク自身が楽しいかどうかなんてことは関係なく、ね。

「きっと、キミもそうだよね」

ボクが言うと、彼はきょとんとしてこっちを向いた。
「何だ、いきなり」
こっちを向く青い瞳は、笑顔とは無縁ですってカンジの仏頂面。実際、彼がボクに笑顔を向けたことなんて一度としてない。
……や、違うな。ボクは彼の笑顔を見たことがある。
一番最初に会った時。
穏やかで人当たりのいい『仮面』をつけて、彼はボクたちに接触してきた。
そりゃあもぉ、笑顔をあちこちに振り撒き放題の大盤振る舞いで。
けど、それは。

「キミの笑顔ってのは、処世術なんだよね、っつったの」
ボクが言うと、彼は意外そうな表情をして、それでも黙った。

そ。
彼が浮かべる仮面の笑顔は、処世術。
初対面のボクたちに警戒させずに、自分の望む方向に持っていかせるための手段。
最初から、そんなことはわかってた。

だって、その笑顔は、ボクと同じニオイがしたから。

結局のところ。
ボクと彼は、似たもの同士なんだろうな、と思う。
互いに心底気に食わないのも、同属嫌悪ってヤツだ。
鏡に映る自分を見るのは気が引ける。醜いと自覚してるなら、なおさら。
リーとくっついてんのが気に障るのも、似ているからこそ、何で自分じゃなくてコイツが、って思うんだろう。

「も、って何だ、もって」
ボクが黙ってるのにじれた様子で、彼が言ってくる。
「ん?ボクも似たようなもんだってことだよ」
「やめてくれ、気色悪い」
彼は言って肩をすくめた。
「ボクだってごめんだねえ」
ボクも肩を竦めてみせる。
「……でも、ま。わかんないでもないよ」
それから、に、と笑って。

「だから、リーに惹かれるんだよねぇ」

彼は、またきょとんとした。
そう、だからこそ。
ニセモノの笑顔を浮かべるからこそ、ホントの笑顔に憧れる。
こうすれば自分に有利だからじゃなくて、笑いたいから笑い、泣きたいから泣いて、怒りたいから怒るリーが、眩しい。
ボクたちはニセモノの笑顔を作りすぎて、本当の笑顔がどんなだか忘れちゃったから。
彼女が思い出させてくれる、そんな気がするんだろう。

「……そうだな」

ふ、と。
彼はボクから目を逸らして、薄く笑った。
その顔に、少し、驚く。

いつもの仏頂面とはもちろん違う。
最初に会った時の作り笑顔とも、明らかに違ってて。
すごく自然で…暖かい、微笑み。

なるほど、笑顔ってのは人を幸せにするんだろう。
彼の心を、ここまで和やかにさせる力があるんだろう。

彼女の笑顔が、ボクたちに笑顔を思い出させてくれるんだろう。

「…ま、わかったところでリーを譲る気はないんだけどね」
「それはこっちのセリフだ」

“Smiling” 2009.1.5.Nagi Kirikawa

ロッテのエリー観です。似たもの同士なんだね、という話。
ロッテはロッテなりに、エリーを認めてるんだと思うんですよ。リーを全面的に譲るかという問題は横においといても(笑)