始めに 混沌がありました
光もない 闇もない
ただ全てのものを飲み込み無に帰す混沌

混沌から 存在が生まれました
無の力をはねのけ 存在するための絶対的な力
絶対は 混沌の海の上に世界を作りました

絶対はまず大地を作りました
すべてのみなもと すべてを支える大きな力
大地は静かに横たわり いのちの誕生を待ちました

絶対は次に水を作りました
いのちのみなもと いのちを育む神秘の力
水は大地に染み渡り いのちを生み出しました

絶対は次に風を作りました
世界を駆け抜け 変化をもたらす普遍の力
風は世界を駆け巡り いのちに変化をもたらしました

絶対は次に火を作りました
いのちを助け 発展をもたらす諸刃の力
火はいのちを奮い立たせ いのちは大きくなりました

絶対は次に光を作りました
すべてを照らす太陽と 優しく見守る淡い月
光はいのちを照らし出し いのちを安心させました

絶対が作り出した世界と
世界に息づくたくさんのいのち

でもそれらはすべて 混沌の海から生まれたもの

混沌の海から生まれたものは
混沌の海に帰るさだめ

混沌の海から生まれたものは

混沌の海に帰ることを いつも 夢見ているのです

ぽろりん。
弦楽器の最後の音が響いて歌を終えると、ぱちぱちぱち、と手を叩く音。
「よっ!ミニたんサイコー!にくいよこの!」
古めかしい歓声を投げているのは、この喫茶「ハーフムーン」のマスターだった。
歌い手である吟遊詩人のミニウムは、やーやーと照れながら楽器を置く。
「その歌は初めて聴いたね」
「れれ、そうだったかな?かな?」
「ふーん、世界ってそういう風にして出来たんだねえ。
で、ミニたんはどの辺にいんの?」
「ぼく?」
ミニウムはきょとんとして、それから首をかしげた。
「ぼくは、いるよーないないよーな?いたかもしれない、いないかもしれない、みたいな」
「そうなの?ミニたんは全然、世界とは関係ないところにいる感じ?」
「んうー、それがいちばん、ちかいかな?」
「そうなんだー、何かスケールのでかい話だねえ」
うんうんと頷いて、マスター。
「でもそっかー、すべては混沌から生まれて混沌に帰る、かー。壮大な話だよねー。
まあ、僕はまだちょっと、混沌には帰りたくないけど。やりたいことはいっぱいあるし」
「ひゃくぱーせんと、ぜんぶじゃない、のです」
「ん?」
ミニウムの言葉を量りかねて、促す。
ミニウムはいつもの口調で、続けた。
「こんとんにかえりたい、そんざいしていたい、
どっちかひゃくぱーせんと、ぜんぶじゃない、のです。
いつでもどっちか、ゆらゆら、ゆらゆら。
なにかのひょーしに、ひゃくぱーせんとになっちゃったら、そのときが、せかいがかえるとき」
「なーるほどねぇ~」
含蓄があるようなないような言葉に、深く頷くマスター。
「んじゃ、僕はもうちょっと、このゆらゆらした世界で好きに楽しむとしましょっか」
「んふー」
マスターの言葉に、ミニウムはにまっと笑って、また楽器を奏で始めた。

ゆらゆら、ゆらゆら。
混沌の海から生まれた世界は、
いつでも崩壊の危機をはらみながら、今日も漂い続けている。

“The God” 2009.12.4.Nagi Kirikawa

唯一の神キャラ、ミニウムの話です。マスターとは妙に仲良し。
滅びたいに100%傾いたら、それが世界の終わるとき。というのは、PLの心情でもあり、GMの心情でもあり(笑)
案外、あたし達が住んでるこの世界も、そんなもんなのかもしれないですね(笑)