たとえば、フェイリアは火に強くて。
ディセスは地面に触れているだけで癒されるって言う。
この2種族は両方とも褐色肌だから目立ってしまうだろうな。
特にフェイリアの「炎の爪痕」なんか、前に顔に横一直線に入ってる人がいて、あれは一目でも印象に残りそうだった。
マーメイドは、大きな鰭が特徴的で…加えて、水に濡れると足が魚になってしまうから、着られる服が限られてしまうって聞いたな。首を通す服は鰭に引っかかってしまうから前が開いている服じゃないとダメだとか…足を一本ずつ通す、要するにズボンだと水に濡れた時に破れてしまうから、腰に巻くタイプの服でないとダメだとか……下着も着けていないって本当かな…?
フィーザは羽を収納する軟骨が思ったより曲者らしいよ。仰向けに寝るとどうしても背中に違和感があるから、うつ伏せか横になって寝るんだって。フィーザに限らないけど、羽のある種族っていうのはマーメイドと同じように着られる服が限られてくるのが難点だね。フィーザだけの集落はフィーザの服を作るんだろうけど、人間の町で暮らしてるフィーザは大変だと思うよ。
光人は…実は俺はまだ会ったことが無いんだ。実際、ミロウシア諸島から外に出てる人は本当に少ないっていうしね。でも聞いた話だと、彼らは浮遊して生活しているから、足が俺たちよりすごく細くて小さいんだって。それに、夜になると肌が光るんだろ?一度会ってみたいよね。
獣人か……俺のことだね。不便は特に感じたことは無いよ。俺みたいに耳だけに獣の名残が残る人もいれば、尻尾があったり髭があったりする人もいるみたいだね。それはそれで、すごく目立つんだろうけど…俺たち獣人の間では、個人差の域を出ないよ。人間にも、肌がすごく白かったり、すごく太っていたり、背がすごく高い人とかがいるだろ?あれと同じ感じかな。
エルフ…エルフも、実はあまり見たことがないんだ。魔術師ギルドとかには意外にたくさんいるっていう話だけど、俺は魔術師ギルドとは縁が無いしね。すごく儚げで、綺麗な人たちなんだろ?俺とは無縁の世界って感じがするけど…だからこそ、どんな世界が見えているのか、話してみたい気がするな。

ドラゴン…か。パフィのことだね。
ホワイトドラゴンは他の竜族とちょっと毛色が違うんだね。耳も尻尾もふわふわしてて、可愛らしい動物みたいだ。でも、本当の姿はちょっとした建物くらい大きいんだろ?でも、俺が変身した時みたいに、服が破れたりはしないんだね。あれはどういう…………へえ、魔法がかかってるんだ。便利なんだな…今度俺の服も……

うん?何でそんなことを訊くの?
前にも言ったよね。確かに俺の両親を殺したのは、パフィと同じホワイトドラゴンだったけど…でもそれは、パフィとは何も関係の無い話だろ?
人を憎んだり、愛したりするのは、個人であって種族じゃない。
同じように、過ちを犯すのも、人の為に何かをするのも、個人であって種族じゃない。
俺はドラゴンという種族を憎んだり、嫌ったりしたことは一度も無いよ。

さっきも言ったね。マーメイドは水の中で息が出来るけど、着る服が限られたりする。
逆に人間は、そういう不便は無いけれど、マーメイドのように水の中では生きられない。
どんなものにも、便利なところと不便なところは同じようにあるはずさ。
種族の違いっていうのは、それだけのものだろう?
俺は自分がワーウルフだったり、パフィがホワイトドラゴンだったことを嫌だと思ったことは一度も無いよ。
俺はパフィがホワイトドラゴンだから好きになったんじゃなくて、パフィがパフィだから好きになったんだから。

…ああ、だけど。
パフィよりずっとずっと早く死ななくちゃならないことだけは…
……とても残念、だけどね。

“The Race” 2008.11.7.Nagi Kirikawa

要するにラブが書きたかっただけですが(笑)
種族という枠に一番苦しめられたのは、実はこの二人なのかもしれないです。パフィはある意味その枠に逃げて、フカヤはその枠から目を逸らそうとして苦しんでいたんだと。