占い師は、基本的に自分のことは占わない。
ましてや、彼女ほどの占い師ともなれば、なおさらだ。
自分の未来が見えてしまうことほど、怖いものはないだろう。

だが。

「おみ、くじー?」
カウンターに置かれた、正八角柱の謎の箱。
それをしげしげと見ながら、パフィは表面に書かれた文字を読んだ。
「ああ、そうさ。ナノクニの教会みたいな『ジンジャ』ってところにある、ま、ちょっとした占いみたいなもんだよ」
宿屋の女主人は、そう言ってパフィに豪快な笑みを向ける。
「占いー?」
「ああ。大抵は新年祭にあたる日に引いて、今年一年がどんな年になるかを占うのさ。もちろん、それ以外の日に引いてもいいんだけどね。
その箱の中に棒が何本か入っていて、それぞれに番号が振ってある。その番号を『ミコ』っていう…ええと、シスターにあたる人に伝えると、その番号の『おみくじ』っていう細長い紙をくれるのさ。そこに、運勢が書いてあるってわけ」
「へぇー」
パフィは興味深げに女主人の話を聞いている。
「それで、良いことが書いてあったらそれが叶うように、悪いことが書いてあったらそれが無くなるようにと願って、そのジンジャに生えてる木の枝に、その紙を括りつけるんだよ」
「ふふ、楽しそうなのねー」
パフィが微笑むと、女主人は満面の笑みを見せた。
「ここは教会でも、その『ジンジャ』でもないけどね。運試しに、引いてみるかい?」
「え、引いていいのー?」
「ああ。これはレプリカだから、ジンジャのものほど神様の力は宿ってないかもしれないけどね。まあ、こんなのは当たるも八卦、当たらぬも八卦ってやつだよ。話のネタに、どうだい?ひとつ」
「面白そうなのねー、引いてみたいのー」
「銅貨1枚ね」
「それだけでいいのー?安いのねー」
「本家もそんなもんさ。さ、それを取って、願いを込めながら逆さに振ってごらん。一本だけ棒が出てくるから、その番号を伝えとくれ」
「はいなのー」
パフィは銅貨を渡し、女主人の言う通りに正八角柱の箱を逆さに振ってみた。
からからから。
乾いた音がして、底面にあいた小さな穴からひょこりと棒が飛び出る。
「74番なのー」
「あいよ、74番ね」
女主人は後ろの棚から、74と書かれた札を取り出し、パフィに渡した。
「………読めないのー」
「はは、ナノクニの古代文字だからね。どう、読んであげるよ」
女主人はパフィから札を受け取ると、読み始めた。
「おお、大吉じゃないか。運勢は絶好調だね。なになに…待ち人きたれり。失せ物、まもなく見つかるでしょう、だってさ。よかったねえ」
「どういう意味、なのー?」
「待ってる人がやってくる、無くした物、探し物はすぐに見つかる、ってよ」
「探しものー……」
パフィは呟いて、考えた。

彼女の探し物。
決まっている。
もう何十年も前に、「死」という長い旅に出た、彼女の愛しい人。

 約束するよ。
 絶対に生まれ変わって、また君の元に現れる。

彼の言葉を信じて、ずっと、ずっと探してきた。
彼が長い旅を終えて、パフィの元に帰ってくるのを、ずっと待っていた。

「……えへー。探し物、見つかるといいのー」
パフィは嬉しそうに微笑んで、女主人から札を受け取った。
「ま、縁起かつぎみたいなもんだけどね。
よかったら、それ、外の木に括りつけておいでよ。良いことは、本当になるかもしれないよ?」
彼女自身がそれを迷信と疑っていない様子で、それでも女主人は鷹揚にそう言った。
「うん、いってくるのー」
パフィは微笑んだまま頷くと、嬉しそうに外へと駆けていく。

抜けるような青空は、彼が旅立ったあの日のようだった。
パフィは眩しそうにそれを見上げ、もっていた札を細く折りたたんで、すぐ傍の枝に括りつける。
彼女自身、それを信じていたわけではないけれど。

「……うん、見つかるといいのー」

パフィは満面の笑顔で、そう呟いた。
彼女が、彼女自身を占ったわけではないけれど。
どこか、予感がした。
この札に書かれたことが、本当になるような。
そんな、嬉しい予感が。

彼女が再会を果たすのは、もうすぐ先の話になる。

“Looking for” 2009.1.6.Nagi Kirikawa

フカヤに出会う直前のパフィです。
占い師パフィとナノクニマニアの女将の話です(笑)いいことがありそうな、そんな占い師の直感。