「何見てるの?」
ルームメイトの声に振り返り、微笑を返す。
「お守り。ここに来る時に、お母さんにもらったの」
言って、手の中にあったものを差し出すと、赤い髪のルームメイト…カイは珍しそうにそれを眺めた。
「へぇ…ミルカの故郷では、こんな形をしてるのね」
それは、剣がクロスされたものにメビウスの輪が絡まっているデザインのアクセサリー。
首にかけたりするようなものじゃないから、いつもは持ち歩いているバッグの持ち手のところにつけている。
「わたしの故郷に伝わる、魔除けの印なの。災厄から、わたしを守ってくれるようにって」
「へぇ…いいお母さんね」
カイがにっこりと微笑む。わたしは頷いて、またお守りに目をやった。
「わたしは一人娘だから、二人ともとても心配なのね。
辛かったら、いつでも帰ってきていいよって。
ここが、あなたの帰る場所なんだから。
あなたの、始まりの場所なんだからって」
「始まりの場所…」
カイが言葉を反復すると、わたしの胸にもお母さんの言葉がありありと蘇る。

わたしが生まれた場所。
わたしを育ててくれた人たち。
わたしを包んでくれた町。
今は遠く離れているけれど、
時が経っても、遠く離れても、これだけは変わることがない。
そこが、わたしの『始まりの場所』だという事実だけは。

「でも、わたしはもうきっと、『辛いから』っていう理由であそこに帰ることはないと思うの。
そりゃあ、夏休みとか、新年の休みには帰るけど…
『始まりの場所』って、そういうためにあるんじゃないと思うから」
懐かしい気持ちでお守りを見ながら、夢見るようにわたしは言った。
「辛くても、哀しくても、寂しくても。
諦めて逃げ帰る場所じゃない。
明日を笑って生きていける、心の支えにする場所。
その場所を、暖かい気持ちを胸に、わたし達はそこを離れていくんだと思うの」
視線を、カイに戻して。

「いつか、わたし自身の力で、『始まりの場所』を作るために、ね」

“Starting Point” 2004.3.20.Nagi Kirikawa

いつの作品だ(笑)これだけ書いて満足して放置してたのは永遠の内緒です(笑)しかもタイトル間違えてるし(笑)アホですね、タイトルだけ戻してそのまま掲載しますけど(笑)「始まりの場所」というタイトルで書いてました、なんでそんな勘違いをしたのか…
ミルカは、あたしにとって前向きさの象徴だと思います。ポジティブなことを表現したいときに引っ張り出されることが多いです。