「見てくださいな、ほら」

ふわり。
楽しそうにシータがくるりと1回転すると、纏ったドレスのすそが綺麗に広がり、ちりばめられた宝石がきらきらと輝いた。
その輝きにか、それとも楽しそうなシータにか、目を細めてそれを見やるイオタ。
「綺麗ですね」
それはドレスのことなのか、それとも。
シータはふふ、と無邪気に笑うと、ドレスの裾を可愛らしくつまんで見せた。
「週末の舞踏会のために、お兄様が作ってくださいましたの。
オルミナ製なのですって。肌触りもとても良いんですのよ」
「良いのですか?そのようなドレスを今お召しになって」
「あら、本番で踊りながら裾を踏んでしまってはせっかくのドレスが台無しですもの」
ふふ、と楽しそうに笑いながら、もう1回転。
シャンデリアの明かりが小さな宝石にキラキラと反射して、幻想的に美しい。
「ですから、ダンスの練習、よろしくお願いいたします」
「…畏まりました」
イオタは苦笑して答えた。

女王という立場であるシータと、それに使える執事であるイオタ。立場こそ違えど想いは通じ合っていて、王宮の中でも二人の仲は暗黙の了解に近いものがあった。
以前にもシータのダンスレッスンには付き合ったことがある。その時もこのダンスホールを二人で貸しきり状態にしたのだった。普段なかなか二人きりになれないことにシータがささやかな我侭を通したのだろう。自分以外にもダンスの練習に相応しい人物はたくさんいるのに(それこそ、補佐官である彼女の兄だとか)あえて自分を指名したことに、イオタは仕方が無いなという思いと共にそれ以上の嬉しさがこみ上げてくるのだった。

「あっ」
ふと思い出したように声を上げるシータに、イオタはきょとんとしてそちらを見やった。
「そういえばこのドレス、こんなこともできますのよ」
「?」
楽しそうに言うシータに首をかしげていると、不意に彼女がぱちんと指を鳴らし、同時に部屋中の証明が落ちた。
「!陛下、これは……っ」
驚いて辺りを見回してからもう一度シータに視線を戻すと。
「ふふ、綺麗でしょう?」
シータの纏っていたドレスにつけられた小さな宝石が、暗闇の中でキラキラと輝いている。
「これは…」
「陽の光の中では目立ちませんけれど、この石自身も少しだけ光るものなのだそうですわ。綺麗でしょう?」
「…ええ……」
キラキラと光る宝石の光に、薄ぼんやりと照らされるシータ。
それを呆然と見やってから、イオタはゆっくりと微笑んだ。
「まるで、星空のようですね」
「うふふ、そうですわね」
くるり。
シータがまた1回転すると、ドレスの宝石がキラキラと輝きながらふわりと揺れる。
「そうですわ。1曲だけ、このままで踊りませんこと?」
「えぇ?」
シータの唐突な申し出に、イオタは目を見張った。
「このまま、というと、明かりを消したまま、ということですか?」
「ええ。本番は明かりを消して踊るわけには参りませんでしょう?でも、こんなに綺麗なのですし、せっかくですからこのまま踊ってみたいですわ」
「しかし、危険ですよ、陛下」
たしなめるようにイオタが言うと、シータは不満そうに口を尖らせた。
「ダンスホールですから、ぶつかるようなものはありませんわ?他に人もいらっしゃいませんし、大丈夫ですわよ」
「しかし…」
「それに」
す、と、差し出されたシータの手がイオタの手に絡められる。
「…イオタが守ってくださるのでしょう?」
にこ。
宝石の光にうっすらと照らし出されたシータの顔が、うっとりとするほどの笑みを作って。
これで、イオタに断れるはずも無かった。

「……仕方のない方ですね」
ふっと苦笑して、その手を握り返す。
「では、私の手を、離さないで下さいね?」
「ええ、もちろん」
イオタがその手をひき、ワルツのポジションを取って。
もう片方の手で軽く指を鳴らすと、どこからともなく音楽が流れ出す。

ふわり。
シータのドレスの裾が揺れるたびに、ちりばめられた宝石がキラキラと輝いて。

闇の中で、それは夜空にちりばめられた無数の星のように、幻想的な美しさを描き出していた。

二人だけの、星空の舞踏会。
この1曲がいつまでも終わらないように。

無理な願いだと判っていても。
星に照らされた想い人の無邪気な微笑みに、そう願わずにはいられなかった。

“Dance in the starlight” 2009.3.31.Nagi Kirikawa

投稿掲示板作品です。
お題は「星」。イメージとしての星にするか、天体の星にするか迷って、飾り物の星にしました。懲りずにイオシーのダンスの話です(笑)
なかなか、二人が二人きりでいちゃいちゃできる機会なんてないと思うんで、ちょこちょこ書いていってあげたいですね。