「は?…もっかい言って?」

言って、ロッテは盛大に眉を顰めた。
目の前の恋人は、そんな彼女の表情に気分を害することもなく、にこにこと彼女に言われたとおりに言葉を繰り返す。

「ですから、欲しいものがあったら仰って下さい、と申し上げたのですが」

繰り返された言葉が先ほどと同じであることを確認して、肩を竦める。
「ボクの耳がおかしくなったんじゃないよね。なに、いきなりんなこと言い出して」
不思議そうに…というよりは、多分に胡散臭げな表情で問うロッテに、キルは変わらず笑顔で答える。
「愛しい方に贈り物をするということが、そのように奇妙なことですか?」
ロッテの表情が、「胡散臭げ」から「引きつった笑顔」に変わった。
「イトシイカタニオクリモノ?なに、キミ悪いものでも食べたー?」
「全力で失礼ですね。貴女は一体私をどういった存在だと思っているのです?」
「少なくとも、贈り物とか殊勝なことはしないヤツだと思ってる」
どぎっぱり。
即答されて、キルは苦笑した。
「…貴女が私をきちんと見てくださっているようで嬉しいですよ。
……そうですね、普段の私ならば、贈り物などという選択肢は思い浮かべすらしなかったでしょうが」
ふ、と俯いて、昼間のことに思いを馳せる。

彼女が同行する天使が、恋人のために作っていたというパイ。

「……今日は、愛しく思う者にパイを贈る日なのでしょう?」
キルの言葉に、仰天して目を丸くするロッテ。
「……リーヴェルの日のコト?何でキミがんなこと知ってんの?」
まさか彼女が嫌うその天使に教わりましたとは言えず、曖昧に微笑むキル。
「今日、初めて知りました。
ですが、私はパイを作ることが出来るほど器用ではありませんし、興味もないので。
何か、それに代わるものを用意できれば、と思ったのですよ」
「まー、ボクも別にパイが欲しいわけじゃないけどさ…」
ロッテは微妙に納得がいかない様子だ。
「でも、急に欲しいもんない?とか言われたってさー。思いつかないよ」
「そうですか?」
「キミ、とかじゃダメなんでしょ?」
「それはいつも差し上げていますし」
「そーだよねぇー……」
上を見上げて眉を寄せるロッテ。
「……それに」
キルが言葉を続けたので、ロッテはそちらを向いた。
彼は薄く微笑んだまま、言葉を続ける。
「…いざそれに思いを馳せて、貴女がどのようなものが欲しいのか、ということを…まるで知らないことに気付かされました」
とつ。
静かに足を踏み出して、ロッテに歩み寄って。
「……貴女を手に入れたつもりはありませんでした。少なくとも…理性では。
しかし……私は、貴女のすべてを理解していない自分に、このように憤っています」
彼の方を向いた彼女の頬に、する、と指を滑らせる。
「貴女がもっと知りたい……贈り物がしたいのではないのです。
私の知らない貴女が存在するということが、許せない。
だから……教えてください。貴女が、何を欲するのか」
ロッテのオレンジ色の瞳が、再び大きく見開かれ……
…そして、すっと細められた。
「……や、もーもらったよ」
するり。
手を伸ばして、キルの首に絡め、引き寄せる。
きょとんとした彼の表情が近づいて、目を閉じて。

「……っふふ。やられたなー…いいモンもらったよ。ありがと」

にまりと微笑んだ彼女に、彼の表情も崩れる。

形になるものなんて、いらない。
ボクを痛いほどに欲するキミの心が、最高のプレゼント。

Marvelous Present 2008.1.1.Nagi Kirikawa

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チャットで「30分ライティング」を始めるきっかけになった話です。
即興で考えたにしては、萌えがよく表現できていたと思います(笑)
キルは贈り物なんてしないからなあ(笑)縁がない人をあえて引っ張ってくる、というのも、テクニックのひとつですね。