「ダンスの練習、を?」
あまり口にも耳にもしたことの無い言葉に、イオタは眉を顰めた。
「ええ。1週間後のパーティーの席で」
そう言って微笑む姿は、王族特有の気高さと穏やかな威圧感を感じる。
普段はニコニコと可愛らしい笑みを浮かべる無垢な少女だが、やはりこの――大人の女性の姿でいるときは、シータは女王であるのだと強く感じた。
そんな感慨はおくびにも出さずに、言葉を返す。
「珍しいですね。陛下がそういった席に出席されるのは」
「そうですわね。いつもこういうことはエータにお任せするのですけれど。
今回は、魔術師ギルドの催しですから、そうもまいりませんの」
シータ本人も、少し困ったことになったという様子で眉を顰めている。
「それで、練習ですか。大丈夫ですよ、陛下なら1週間もあれば思い出せます」
イオタが安心させるように微笑むと、シータはにこりと微笑んだ。
「ええ、ご指導よろしくお願い致しますわね、イオタ」
「え」
きょとんとするイオタ。
「私が、ですか?」
「はい。ダンス、お出来になりますでしょう?」
「まあ、一通りは……」
王家に仕える執事として、最低限の教養は完璧に身につけている。
「しかし、何故私が?」
首を傾げて問うが、シータは笑みを崩さずにさらりと告げた。
「イオタにお願いしたいのですわ」
「……ですから」
重ねて問おうとするイオタに、シータは一歩足を踏み出して、下から覗き込むように彼を見た。

「…イオタが、良いんですの」

「…っ……」
低く、秘め事を囁くように。上目遣いで言われて、イオタはさっと頬を染めた。
にこり。
再び花のような微笑を見せるシータ。
イオタは頬を染めたまま、苦笑した。
「…では、僭越ながら」
そのまま、手を差し出せば。
「よろしくお願い致しますわ、先生」
恭しく礼をして、その手を取る。

誰もいない広いホールに、魔道石に記録された音楽が響く。
かつ、かか、と響く靴音。
遠慮がちに腰に添えられた手。
ステップを踏む度に、ふわりと翻るスカートと柔らかな髪。

いとおしげに絡められる視線。

あと1週間。
二人だけの舞踏会は続くのだ。

イオタは一般教養・魔道はもちろん、戦闘技術や経済学まで主を助けお守りするありとあらゆる技術を身につけたスーパー執事なのですよ。
だから同じスーパーメイドのニューと一緒に、王宮で長をはってられるんです。