「はあっ、疲れたな」

どす。
風呂から上がってきたフカヤが倒れこむようにしてベッドに横になる。
背が高いせいもあって一見華奢に見える彼だが、さすがは獣人種族と言おうか、しなやかに筋肉がついていてそれなりに重い。安宿のベッドに倒れこめばそれなりに派手な音もするだろう。
「お疲れ様なのー」
一足先に風呂から上がっていたパフィが、両手にグラスを持ってベッドの側に来る。
「ミルク、飲むー?」
「うん、ありがとう」
「ハチミツ入れといたのー」
「本当?嬉しいな」
フカヤは上半身を起こし、嬉しそうに微笑みながらパフィの手からグラスを受け取った。
お菓子を与えられた子供のような無邪気な表情で、コップの中の牛乳を一気に飲み干していく。
パフィはベッドに座って自分の分の牛乳を飲みながら、それを微笑ましげに見つめていた。
幼い頃からの過酷な経験のせいか無駄に大人びている彼だが、食べ物の好みはそれに反比例するように子供っぽい。ハンバーグやカレーライスが好きで、ピーマンは嫌い。牛乳は甘くしたものが好きで、砂糖よりもハチミツを入れたものがいい。そんな彼の一面が可愛らしい。
パフィはこのハチミツ入りのミルクを飲むフカヤの表情が好きで、よく風呂上りの彼のためにミルクを用意していた。
「ごちそうさま、ありがとう」
「どういたしましてなのー」
パフィに笑顔でグラスを返すと、フカヤはまたぐったりとベッドに横になった。
「今日のお仕事、大変だったのー?」
「うん、街に入る直前にモンスターの群れに遭遇してね。どうにか倒したけど、疲れちゃったよ」
確か彼が受けていたのは商隊の護衛だったはずだ。隣町に行って、3日ぶりに帰ってきた。疲れもするだろう。
「大変だったのねー」
パフィがフカヤの額をそっと指先で撫でると、フカヤは気持ちよさそうに目を閉じた。
「すごく疲れたよ」
「お疲れ様なのー」
「ね、パフィ」
「んー?」
「また、枕してもらっていい?」
「わかったのー」
ごく自然なやり取りで。
パフィはそのままベッドに膝立ちで上がると、フカヤの頭を持ち上げて自分の膝の上に乗せた。
そのままぺたんと腰を下ろし、仰向けで自分の腿に頭を乗せているフカヤを見下ろして微笑む。
まるで子供にするようにフカヤの頭を撫でながら、嬉しそうに言葉をかけた。
「こんなんでいいのー?」
「うん、気持ちいい」
「へんなのー。こっちのクッションのほうがもっとやわらかいのー」
「柔らかければ気持ちいいんじゃないよ」
ごろり、と横になって気持ちよさそうにパフィの腿に頬を摺り寄せるフカヤ。
「パフィだから、気持ちいいの」
「へんなのー」
くすくす笑いながら、パフィはフカヤの頭を撫で続ける。
「フカヤ、子供みたい」
「俺は子供だもん」
「えー?」
「永く生きてるパフィに比べたら、俺はずっと子供だろ?」
再びごろりと上を向いたフカヤが穏やかな表情で微笑んだので、パフィは苦笑した。
「でも、パフィとフカヤ、並んだらみんなフカヤの方が大人だって言うのー」
「身体が大きいからじゃないかな」
「それだけじゃないのー。フカヤは、考え方もすごく大人なのー」
「そうかな?自分ではよくわからないけど」
「パフィもこんな喋り方だしー」
「ああ、それはあるかもね。それに、パフィは可愛いし」
「えー?」
「可愛いよ、パフィは。俺いつも心配になるもん」
「心配ー?」
「可愛いから、悪いおじさんにさらわれちゃうんじゃないかとか」
「なにそれー」
可笑しげに笑いながらぺちぺちとフカヤの額を叩くパフィ。
フカヤはははっと笑ってから、その手を柔らかく握った。
「本当だよ。パフィは可愛いから、いつか俺よりいい奴が現れて、離れていっちゃうんじゃないかって。いつも心配してる」
「フカヤ…」
パフィは僅かに頬を染めて、それでも驚きの方が大きかったらしく、紅い瞳を大きく見開いた。
「フカヤがそんな風に思ってるなんて、思わなかったのー」
「そう?」
「だって、そんな風に見えないのー」
「うん、表に出さないようにしてるからね」
「フカヤはやっぱり大人なのー」
「違うよ、俺は子供だよ」
うにうにと、握りこんだパフィの手のひらを手の中で玩びながら、フカヤは静かに言う。
「ガキだから、パフィにかっこ悪いとこ見せたくなくて、見栄張ってるんだよ。
本当はいつも、パフィがいなくならないかってビクビクしてるし、疲れたらパフィに膝枕してほしいっていつも思うし、そのままぎゅってして眠りたいなとも思うよ。
恥ずかしいから言ってないだけで」
あまり恥ずかしがっているようには見えない穏やかな表情で言うフカヤに、パフィはきょとんとして、それから嬉しそうに微笑んだ。
「……えへへー」
空いた手でフカヤの頬をふにふにとつねって。
「じゃあ、そんなコドモなフカヤを知ってるのは、パフィだけなのねー」
「そうだね、パフィだけだね」
「えへへー」
つねっていた手でもう一度、フカヤの頬をいとおしげに撫でて。
「フカヤ、可愛いー」
「うーん、あまり嬉しくない褒め言葉だなあ」
「可愛いのー」
そのまま頬を両手で挟みこむようにして、背中を曲げて口付ける。
ちゅ、と軽く触れて、それから額に額をくっつけて。

「えへへー」
「ふふ」

幸せそうに微笑みあう恋人たちを見守りながら、夜は静かに更けていくのだった。

“Like a child” 2011.7.15.Nagi Kirikawa

膝枕祭、その4あたり。
フカヤ×パフィなんて初めて書いた!(笑)生みの親としてそれはどうなのか。
膝枕はどうやら日常茶飯事らしいですよ(笑)この2人は2人っきりだとこんな風にいちゃいちゃべたべた、略してべちゃべちゃなのです。フカヤが甘えモード全開になるというか。フカヤが大人びてる割に好みが子供っぽいっていう設定は前からあって、それに焦点を当ててみた感じ。甘かったー…