「リィ、こんなとこにいたのん?」
宿にしつらえられた蔵書室で本を眺めていると、後ろから声がかかる。
振り向けば、見慣れた連れの顔。
「ロト。帰ってたのか」
リィは連れの名を呼ぶと微笑んだ。
ロトは不思議そうに辺りを見回しながら部屋の中に入ってくる。
「なーんだここ。本ばっかじゃん」
「宿のご主人が趣味で集めてるんだって。いろんな本があるよ」
楽しそうに本を眺めるリィを、ロトは理解できないというような目つきで見る。
「リィ、そーゆーの好きだよねぇ。ボクにはわかんないナリよ」
「はは、ロトは本なんか読まないからな」
手に取っていた本を本棚に納めて、リィはロトに向き直った。
「エレは?」
「知らね。その辺にいるんじゃないの?」
あからさまに不機嫌になるロト。あいかわらず、あの天使の少女とは相性が悪いようだ。
まぁ、おれもあの魔族は気に入らないから、お互い様だけどな、とリィは苦笑する。
2人で蔵書室を出ると、横手から噂の少女の声がかかる。
「リィ、探したわ」
エレはいつものように自信に満ちた瞳を細めると、こちらに歩いてきた。
「街の北にアイテムショップがあるそうなの。つきあってくれない?」
「ああ、いい…」
「おいコラ」
快く頷くリィの横から、片腕でそれをさえぎるロト。
「リィはボクが先に見つけたんだよ。横からしゃしゃり出てきてかっさらってくなよな、この性悪天使」
エレはふん、と鼻で笑って両手を腰に当てた。
「あら、早い者勝ちだなんて思考が幼稚ね、淫乱魔族さん。どうせあなたの用事なんて大したことじゃないんでしょう?リィをいかがわしいところに連れ込んでろくでもないことに染めないでくれるかしら」
「はっ!オマエだってリィのカラダが目当てのクセに何言ってんだか。リィはちゃんとこのボクが隅から隅まで開発してボク色に染めてやるんだから、オマエなんかの出る幕はないナリよ!」
「ちょ、ちょっと二人とも、いいかげんにしろ!!」
言い争いを始める二人の間に入って、真っ赤になって仲裁するリィ。
「何度同じことを言わせるんだ、おれはモノじゃない!不毛な取り合いはやめろよ!」
ロトもエレも、むぅと口をつぐむ。
リィはまだ赤みがさした顔で、続けた。
「アイテムショップには付き合うよ、エレ。ただしそれはロトも一緒だ。ロトの話はその道すがら聞くよ」
「えー」
「異議ありだわ」
一様に不満げな顔をする二人。そして互いの言葉にまたむっと来た様子で、食って掛かる。
「こっちこそ、誰がオマエとなんか」
「そのセリフ、そっくりそのままお返しするわ。あなたはついてきてくれなくて結構よ」
「では、わたくしの方にいらっしゃいませんこと?」
横手からかかった落ち着いた声に、リィは瞬時に険しい顔をして振り返った。
ざわり。
背を撫でるような気色の悪い感覚が広がり、あたりの空気が変わる。
空間からにじみ出るようにして広がった黒いしみが形を作り、それは現れた。
「そのような方々は放っておいて、わたくしのところにいらっしゃいな」
艶やかな笑みを浮かべた、異国風の装束の少女。
「キラ」
ロトが驚いて、その名を呼ぶ。
その間に立ちはだかるように、リィが足を踏み出した。
「昼間からご苦労だね。残念だけど、おれがいる限りロトは連れて行かせないよ」
「あら、怖いこと」
キラと呼ばれた少女は、可笑しそうにころころと笑った。
「貴方にはそちらの天使のお嬢様がいらっしゃるではありませんか。わたくしのものまで独占するのは少々欲張りが過ぎませんこと?」
「ロトはきみのものじゃない」
「わたくしのものですわ」
自信満々に返ってきた言葉に、鼻白むリィ。
「…っ、きみもニヤニヤしてないで何か言えよ!」
横で微妙な笑みを浮かべているロトに、じれたようにリィが怒鳴りつける。
「え~?だってさぁ、ボクを取り合う二人ーってこうなんか、いいじゃんポジション的に。
ボクのために争わないで~んvとか言った方がいい?」
「取り合ってるわけじゃない!」
「もういいじゃないリィ、そんな淫乱魔族ほっとけば。淫乱は淫乱同士、仲良くやらせておけばいいでしょ」
エレが横から出てきて、リィの手を引く。
「おいコラ!いくらボクがうらやましいからってリィを連れてくなよ!」
「自意識過剰も程々にしたら?それこそ、その魔族の女もリィも、だなんて欲張りが過ぎるんじゃないの?」
「キラもリィもボクのものだよ!オマエになんか爪の先だってやるもんか!」
「ちょっ、なんでそうなるんだよ?!」
「そうですわ、淫乱同士だなどと人聞きの悪い、貴女にもそこの半天使のお坊ちゃまにも快楽の種は潜んでおりましてよ?わたくしにかかればあっという間に虜にして差し上げますわ?」
「何の話よ?!」
「あああああぁぁもおおぉぉぉ!!」
リィが頭を抱えて絶叫する。

そんな、彼らの日常。

“Reverse” 2005.12.5.KIRIKA

2005年とか(笑)そんな昔に、拍手で展示していた、男女逆転版H&Hの小ネタです。 イラストはこちら → Half & Half Reverse!
時間軸としてはニースの後ですかね、ロトがキラにデレデレしてるから(笑)こういうドタバタ感こそがあたしがやりたかったことだと思うんですが…おかしい、どこを間違えたんだろうか(笑)
ツイッターで男女逆転に再燃したところで勢いでアップしてみました。懐かしいです。うむ。