「うわぁ……綺麗ね」
森の中にちょっとした花畑があるのを見つけて、彼女を連れていった。
誰かが手入れをしたものではないのだろう。色とりどり、種々雑多な花々が所狭しと並んでいる。
そこへ至る大した道も無く、周りは深い森に閉ざされているので、ちょっとした「秘密の花園」といった風情だ。緑の切れ間からこぼれる陽光が花々を照らし、朝露に反射してキラキラと輝いている。
「こんなところがあったのね…よく見つけたわね」
「ああ、綺麗だろう?」
「本当……」
彼女はうっとりと花畑に視線をやりながら、木の側の草むらに腰を下ろした。
「入らないのか?」
花畑を示して首を傾げると、こちらを向いてにこりと笑う彼女。
「お花を踏んでしまうのは可哀想でしょう?」
少し虚を突かれたように口をつぐみ、やがて苦笑して彼女の隣に腰を下ろした。
しばし、二人で花畑を見つめる。
色とりどりの花々が、そこにはあった。
花びらの大きな、鮮やかな色彩のもの。
小さな白い花がたくさん寄り添うようにして咲いているもの。
ほっそりとしたラインの、シンプルだが高貴さの漂うもの。
どれも皆美しく、心誘う花たちだ。
「どれが一番良い?」
何気なく訊いてみる。
彼女は困ったように首をかしげ、指を泳がせた。
「…迷うわ。どれも綺麗。でも……あれかな」
指差したのは、細い首をひときわ高くして、周りを見下ろすように一輪だけ咲いている、淡いクリーム色の花。
「シンプルで綺麗。でも…ちょっと寂しそうね」
「そうか」
少し眉を寄せる彼女に、微笑みかける。
「俺もあの花みたいだったら、お前にすぐに見つけてもらえるかな」
彼女はきょとんとしてこちらを見た。
微笑んだまま、続ける。
「何百、何千の花の中で。まっすぐに見つけてもらえたら、と思うよ」
いつもまっすぐでない自分の、あまりにも遠まわしな言葉。
それでも、聡明な彼女には通じたらしかった。少し頬を赤らめて、それでもにこりと微笑み返す。
「……見つけられなかったら、どうするの?他の花に目を移す?」
からかうような言葉に、肩を竦める。
「お前に摘んでもらえないなら、枯れた方がマシだね」
その言葉が意外だったのか、言葉に詰まってさらに頬を染める彼女。
その様が可愛らしくて、つい頬が緩む。
彼女には、からかっているように見えるのだろうが。
ややあって、彼女は再び微笑んだ。
「…摘んだりしないわ。摘んだら、あなたが枯れてしまうでしょう?」
「ほう。なかなか優しいね。じゃあ、根と土ごと持ち帰って鉢にでも植えてくれるのか?」
問えば、彼女は目を閉じてゆっくり首を振った。
「いいえ」

「……あなたの隣に咲く、花になるわ」

きょとんとするのは、今度は自分の番だった。
先ほどと変わらぬ笑みを浮かべる彼女の頬に、無意識に手が伸びる。
「………なら、もう…寂しくないな」
「……ええ。寂しくないでしょう?」

静かに木漏れ日が振る、秘密の花園で。
二人の声はそれきり、途切れた。

flower 2008.4.30.Nagi Kirikawa

投稿掲示板作品です。
ラルクの同タイトルの歌がモチーフ。自分的エリーソングです(笑)
自分からは言葉を投げかけずに、ひっそりと、切なく見つめ続けて、気付いて欲しいと叫び続けて。
その叫びを聞いて振り向いて、微笑みかけてくれた人だから、というか。そんな感じ。