「…………ん」
側を歩いていた連れがいつの間にかいなくなっていたことに気がついて、エリーは足を止めた。
不審に思って振り返れば、3メートルほど後で足を止めて横を見ている連れを発見する。
「?」
いかにも、歩いている途中に気になるものがあって足を止めましたという風情に、彼女の視線を追う。
その先には、ブティックのショーウィンドウ。
夏らしいノースリーブの白いワンピースが展示されている。
可愛らしいリボンのあしらわれた清楚な雰囲気のその服は、彼女にとてもよく似合いそうで。
エリーは彼女の元まで歩いていくと、声をかけた。
「気になるのか?」
声をかけられて初めて見とれていたことに気付いたように、彼女…リーははっと彼のほうを向いた。
「えっ……あ、ううん、別に、そういうわけじゃ……」
リーはばつが悪そうに言葉を濁す。
エリーは眉を寄せて首を傾げた。
「別に、責めてるわけじゃない。気に入ったのなら、着てみればいいだろ」
「やっ……だから、別に、そういうわけじゃ……」
恥ずかしげに言って、視線を泳がせる彼女。
そう言う彼女の服は、シンプルで可愛らしいデザインだがいかにも旅装束といった感じの、どちらかというと機能性を重視したものだ。大きなリボンの形に止められたコンパクトなマントは、その中でも可愛らしくしたい彼女なりのせめてもの妥協点なのだろう。
「可愛いな、とは思うけど……あたしには、似合わないわよ」
目を逸らしたまま、複雑そうに言うリー。
エリーは肩を竦めて反論した。
「そんなことはないさ。パッと見でも、お前に似合うと思うぜ?」
彼の言葉に、リーは少しだけ頬を赤らめた。
しかし、視線を彼に戻して、さらに言い募る。
「そっ…それに……着てみたって、買えるわけじゃないし。買っても、邪魔になるだけでしょ?旅にはこんな格好、出来ないし……」
半分自分に言い聞かせるように言う彼女に、エリーは少しの呆れを含んだため息をついた。

往々にして、彼女はこういうところがあると思う。
可愛らしいものは大好きなくせに、自分の可愛らしさに対しては極端な過小評価をする。
そしてそれを、実用性・機能性と結びつけて言い訳して、己を飾り立てることに対して消極的になる。
彼女とて、年頃の少女だ。自分の盲目フィルターを抜きにしても(抜きに出来る自信はないが)、可愛らしい部類に入ると思う。それなりに飾り立てれば、彼女の望むように可愛らしくなれるだろうに。
常日頃冷静な判断を下す彼女が、このことに関してだけは冷静な判断が出来ない。
そんなところがむしろ可愛らしくもあり、そして同時にもどかしくもあった。
彼女は素のままでももちろん可愛らしいが、綺麗に飾り立てた彼女だって見てみたい。それが自分のためならば、なおさら。
今までは、そんな彼女の様子を見るにつけ、歯痒いとは思いながらも彼女の意思に任せて無理強いはしなかった。

だが。

ぐい。
エリーはやおらリーの手を引いて、店のドアに手をかけた。
「ちょっ、エリー?」
「わかった」
「え?」

「お前が買わないなら、俺が買ってやる。いいから試着しろ」
「えええええええ?!」

数分後。
「ど……どう……かな?」
試着室のカーテンが引かれ、現れた彼女は……予想以上に可愛らしかった。
膝丈までのノースリーブのワンピースが、華奢な彼女の体型を引き立たせていて、彼女の気にしている体の凹凸のなさも全く気にならない。ところどころにあしらわれたリボンは決してうるさくはなく、シンプルなデザインが清潔感と清楚さをかもしだしていた。
エリーはふ、と微笑んで、そのまま感想を口にした。
「ああ、似合うよ。じゃあ、お買い上げだな」
「え、だから、ええ?!い、いいわよ、そんな!あたしは別に、買うつもりじゃ」
フィッティングルームから慌てて足を踏み出し、財布を出したエリーの手を止めるリー。
「お前が買うんじゃない、俺が買うんだよ」
「だから、い、いらないわよ!さっきも言ったわ、こんなの着て旅なんか出来ないわよ!」
「別に着て旅をしなくていいだろ」
「で、でも、荷物になるし」
「お前の荷物にはならないよ。俺が買うんだって言ってるだろ、しつこいな。俺が持って歩く」
「な、な、なんであなたが持つのよ!!」
リーが慌てた様子で言い募る。
エリーは少し考えて、そして言った。

「そりゃあ……お前に着せたいから、だろ?」

「………は?」
「だから。お前は着たくなくても、俺が着せたいから、俺が買う。文句ないだろ?」
「え、ちょ、まっ……もん、くって、え?」
リーの顔がみるみるうちに真っ赤になる。
エリーは肩を竦めた。
「お前に着飾る願望がないなら、しょうがない。だが、俺も人並みに好きな女を着飾らせたい願望はあるんでね。俺の好きなようにさせてもらうさ」
「…………」
リーは返す言葉もなく、真っ赤な顔をしたまま固まっている。

エリーは満足そうにそれに笑顔を返すと、財布の中から金貨を一枚取り出した。

Desire of Decoration 2008.8.6.Nagi Kirikawa

投稿掲示板作品です。
リーの融通のきかないところは、萌えポイントなのです(笑)
でもたまには、俺の我も通させてくれよなという話(笑)
エリーは自分の気持ちを口にしない分、自分の思い通りにさせようともしないので、たまにはこういうことがあってもいいよね(笑)
男が女に服を贈るのは、それを脱(以下略)