ケガが治るまでは。
魔王を倒すまでは。
姫を送り届けるまでは。

荒れたシルヴェリアを人の住める地にするまでは。
シルヴェリアの生き残りを連れ戻すまでは。
この仕事が終わるまでは。

そう思って、ずっと。
ずっと、我慢してきたの、だが。

さすがに、そろそろ限界だった。

「まあ、テッドさん。おかえりなさいませ」
城の門をくぐると、最初に出迎えたのはアウラだった。
テッドはただいま、と笑顔を向け、中へと足を進めていく。
アウラは何か仕事の途中だったのか、書類のようなものを両手に抱えたまま、テッドと並んで歩き始めた。
「おれが出かけてる間に、ずいぶんまた綺麗になったなあ」
しみじみと辺りを見回しながらテッドが言うと、アウラは嬉しそうに微笑む。
「ええ、テッドさんが連れてきてくださった技師さんが良い仕事をしてくださって。あとはもうわたくし一人でもできますから、今は街の方の修繕に回っていただいているんです」
「そうか、何かびっくりするほどどんどん良くなってくよな、おれも嬉しいよ」
「お2人のおかげです。本当に感謝しておりますわ」
そんな話をしながら、2人は入り口からほど近くにある部屋に入る。
ちょっとしたテラスのようになっているそこは、城の人間共通のサロンのようになっていた。
「今、お茶をお入れしますわね」
「あ、悪い。サンキュ」
アウラに茶を入れさせてしまうのは申し訳ないと思いつつも、さすがにテッドも長旅の疲れが出ていた。
アウラはサロンに備え付けられた茶器で手際よく茶を入れ、座ったテッドの正面とその向かいに置く。
「どうぞ」
「サンキュ。ごめんな、仕事の途中だったろ?」
「いえ、わたくしも休憩したいと思っていたところですから」
アウラはにこりと笑って、テッドの正面の椅子に腰掛けた。
テッドは茶を一口含み、アウラに視線をやる。
「リンは?」
「技師さんと、街の方に出ていらっしゃいますわ。帰るのは夜になってからかと思います」
「そっか……」
ふ。
力なく嘆息したテッドに、心配そうな表情を向けるアウラ。
「リンさんと、どうかなすったんですか?」
「ん?あ、いやいや、何もないよ」
アウラの言葉に、テッドは苦笑して手を振った。
それから、また力なくため息をつく。
「……むしろ、何も無さすぎてしんどい」
「……え?」
「なんかさ、やらなきゃなんねーこと山積みで、あいつともロクに話できねーし、出来たとしても仕事の話ばっかりだしさ」
「…申し訳ありません、わたくしたちの為に……」
「あ、や、そ、そーゆーことじゃなくてな!アウラが謝ることねーよ、マジ、うん」
とたんに暗い表情になってしまったアウラを、慌てて慰めるテッド。
そうしてから、言いにくそうに視線を泳がせる。
「そうじゃなくてさ、なんつーか、うーん……」
「……?」
きょとんとするアウラに、ますます気まずそうな表情で。
「こー…やっと目的達成しそうなところで盛大におあずけ食らってるっつーか……」
「おあずけ……ですか?」
何を言っているのかわからない、という様子のアウラ。
テッドは苦笑して手を振った。
「あ、やー、なんでもねーから!こっちの方が明らかに大事なわけだし、それはおれもよくわかってるからさ。
気にしないでくれよ、な?」
「そうはまいりませんわ」
アウラは心配そうな表情でテッドに言い募る。
「わたくしたちがお2人にご苦労をかけているのですから、わたくしに出来ることでしたらぜひおっしゃってください。
何も出来なくても、お話を聞くことくらいはできますわ」
「あー……」
真剣に心配顔のアウラに、気まずげに視線を逸らすテッド。
「だから、な。その……おれとしてはもうちょっとなんかこう……仲良くしたいっつーか……なに言ってんだおれ」
言いにくそうにそう言って頬を染めたところで、さすがにアウラも察したようだった。
同様にさっと顔を赤くして、両頬に手を当てて俯く。
「い、いやだ、わたくしったら…不躾なことを。申し訳ありません」

まあ、そうなのだ。
テッドがこの旅に出た目的は、第一には幼い頃に一日だけ遊んだ姫君を危機から救うこと。まあこれは結果危機でもなんでもなかったわけだが。
第二には、有り余る魔法の才能を持つくせに全く地位にも名誉にも興味のない幼馴染に功績を持たせたかったから。
そして優先順位としては第三ではあるものの、動機としてはかなりの割合を占めるのが、その幼馴染を父親というきつい監視の目から引き離し、まあ平たく言えば「モノにする」こと、だったのだ。

無駄に頭が回り、常に自信満々のこの幼馴染だが、自分のことに関しては驚くほど鈍いことをテッドは長い付き合いでよく知っていた。
だからこそ、あまりことを急かず、彼女の心の準備が出来るまでじっくり待とうと思っていたのだが、それが却って彼女に別方向の誤解をさせてしまったのだろうと今は反省している。自分が姫君に恋をしていて、その恋を叶えるために彼女自身は身を引こうと思っていたという斜め上の告白をされたときはさすがに脱力してしまったが、そのおかげで彼女に自分の気持ちを伝え、彼女の気持ちも確認できたので結果オーライというやつだ。
だが、その時どうにかキスまではこぎつけたものの、自分は身体もまともに動かせないほどの大怪我をしていてそれ以上のことを望むどころではなく。怪我が治れば自分はリハビリ、彼女自身はアウラに魔法を伝授されていてやはりそれどころではなかった。終わればすぐに魔王城へ出発。魔王城では予想外の展開になり、姫を国に送り届けてから、魔王……ヴィルと、アウラの故郷であるシルヴェリアの再興に乗り出すことになった。
瓦礫だらけの廃墟と化したシルヴェリアの国土を元に戻し、魔物の侵攻の手を逃れた生き残りを探し出して戻るように促す。国土再建のための技師や労働力、兵士や魔道士のスカウトに世界中を飛び回り、休む暇もない。こうしてたまに帰ってきても、彼女とはろくに話も出来ずに疲れて眠ってしまうことがほとんどだった。そういう雰囲気になるどころか、会話すらろくにない状況である。
亡国の再興という一大プロジェクトに取り組んでいる時に、個人の恋愛沙汰になどかまけていられない。それは正論だ。滅ぼされた国を何とかして再生させたいという気持ちも強い。だからこそこうして休む間もなく動いているのだから。

だが、それはそれ、これはこれだ。

自分だって健康な年頃の男子なのだ。物心ついた頃からずっと暖め続けてきた想いがようやく叶うという時になって、こんなにも長いお預けをくらわされればふてくされもするというものだ。今思えば気持ちを確認したあの時が一番のチャンスだったのに、何故自分はあんなケガをしてしまったのか、だがしかし自分が怪我をしなければきっかけも得られなかったわけで、などとぐるぐる考えてしまう。
ひょっとしたらこれは、シルヴェリアの復興が完了し、ヴィルがヒルダ姫を正面から迎えに行くことが出来るようになるまでお預けということなのか。あと何年かかるのか、それまで自分の神経がもつだろうか。

そんな思いをずっと抱いていたのだが、それを口に出してさらにアウラにまで照れられてしまい、さすがに恥ずかしくなったテッドは誤魔化すように苦笑して頭を掻いた。
「な、なー?大したことじゃないだろ?だから、うん、気にしないでくれよ」
「何を仰っているのですか!」
だが、アウラは予想外の反応を返してきた。
「お2人の時間が取れない、これは重大な、由々しき事態ですわ!お2人のことですからそれで仲がどうにかなってしまうということは無いでしょうけれど、きっとリンさんも寂しく思っていらっしゃると思いますわ?」
「そ、そうかなー……」
思ったよりアウラのテンションが高く、若干引き気味のテッド。
アウラは力強く頷いた。
「もちろんです。いくら大儀のためとはいえ、愛しい殿方と愛を語ることも触れ合うことも出来ないなんて……女性にとっては耐え難いことですわ」
「あ、アウラ……」
王族だからなのか、大仰な表現を恥ずかしげも無く口に出すアウラに、テッドのほうが照れてしまう。
「でもなあ、やっぱりあいつそういうガラじゃないよ。今も生き生きとやってて、正直おれのことは頭からはずれ気味なんじゃないかな」
「そのようなことは……」
「じゃ、おれがいない時、あいつが何か寂しそうにしてたりすることがあった?」
「それは……」
アウラはしゅんとして口をつぐんだ。
苦笑するテッド。
「な?なんつーか、おれらすげー付き合い長いし、家族みたいなカテゴリになってるんだよな。何かあってしばらく側にいなくても、絶対帰ってくることがわかってるから特に気にならないっつーか……
だから余計、その、愛を語るとか、触れ合うとか……いうのが、今更な感じになってきちゃってんだよなぁ。そういう雰囲気になんねーんだよ、まず」
「えっ」
テッドの言葉に、アウラはきょとんとした。
「テッドさんは…その。リンさんと……契りを交し合った仲ではございませんの?」
「ち……」
恥ずかしそうに、しかしはっきりとそう訊ねるアウラに軽く絶句してから、苦笑するテッド。
「…実は、まだなんだな、これが」
「まあ………!」
アウラは手で口を押さえて目を丸くした。
「あ、も、申し訳ありません、わたくし、てっきりお2人はもう……」
「や、いいっていいって」
「しかし、やはりわたくしたちがお2人の邪魔をしてしまっているのですね…」
「だからな、アウラ」
またしょんぼりと悲しげな顔になるアウラに、テッドは辛抱強く言った。
「アウラが気にすることじゃないって。おれもあいつも、ヴィルやアウラの力になることを自分で望んでやってるんだよ。そのことに後悔はないし、間違ったことをしてるとも思ってない。
おれらなら、大丈夫だから。アウラの言う通り、ちょっとばかり何にも無くたってそれでどうこうなるような仲じゃないって、おれもあいつも思ってるよ。
何より、あいつが今生き生きとして夢中になってることがあるなら、おれもそれを邪魔しないでやりたいんだ。
まあ、待つのは慣れてるよ。なんせ18年もずっと待ってきたんだからな」
「テッドさん……」
アウラはなおもしょんぼりとした様子でテッドを見ていたが、やおらきっと表情を引き締めた。
「………いいえ。やはり、このままではいけませんわ」
「アウラ?」
彼女の静かな気迫に多少気圧されるテッド。
「お2人がこの国のために尽力してくださっているのはとても感謝しております。けれど、それとこれとは別です。
忙しいことが、大切な人をないがしろにしていい理由にはなりませんわ」
「別に、ないがしろにしてるわけじゃ…」
「いいえっ」
アウラはきっぱりと言った。
「愛の言葉をきちんと口にしないのは、十分ないがしろに値します。テッドさんも、そしてリンさんもですわ。
このまま何も起こらずに年を経て、何もないまま家族同様の扱いで終わってしまったらどうしますの?」
「そ、それはいくらなんでも……」
「いいえ!」
とん。
乱暴でなくとも、手の平でテーブルを叩いたアウラの気迫は十分なものだった。
「努力を怠って結果は出ないと、わたくしは父から教わりました。『そういう雰囲気にならない』なら、雰囲気を作ればよいのですわ。
そういうことはやはり、殿方がリードするべきではございませんか?
リンさんも、テッドさんがそうして望んでくださるのなら、邪魔だなどと思うはずがありませんわ」
「え、えーと……」
何か、アウラの触れてはならない琴線に触れてしまったのだろうか。いつもの穏やかな彼女とは違う様子に戸惑ってしまう。
「ふ、雰囲気を作る、って、どうやって……」
「そうですね…お忙しい中ではデートの時間も取れないでしょうし……」
アウラは眉を寄せて真剣に悩んでいる様子だ。
「…リンさんに、何か贈り物をされてはいかがでしょう?」
「贈り物?」
「ええ。雰囲気を作るきっかけにはなると思いますわ?贈り物をされて嬉しくない女性はおりませんもの」
「そうか……あいつの喜ぶものだと、魔道書かマジックアイテムか……」
「テッドさん!」
たん。
再びテーブルを叩かれてびくっと肩を竦めるテッド。
アウラは厳しい表情で言った。
「確かにリンさんが喜ばれるものはそれかもしれませんが、実用品を贈って雰囲気が出るはずがないではありませんか。
もっと女性らしい贈り物をされるべきですわ」
「えー……」
テッドは不満そうに眉を寄せる。
「だってあいつ、そういう…アクセサリーとか服とかを喜ぶタイプじゃないぜ?そんなもんに金使うなとか言われんのがオチだよ」
「だからこそ、ですわ」
アウラの表情はなおも真剣だ。
「テッドさんの前で『女性らしさ』を見せないことが、『幼馴染』が『男女』に変われない原因のひとつでしょう?
贈り物とは、もちろん相手を喜ばせるためにするのが第一義ですが、自分が相手に何を望んでいるかを示すものとしても有効なのです」
「何を望んでいるかを、示す?」
首を傾げるテッドに頷くアウラ。
「こういう服を着て欲しい、アクセサリーをつけて欲しい、綺麗に着飾って欲しい。それは、相手を想うからこそ抱く気持ちでしょう?
そうして、リンさんのことを『女性』として見ているということを、テッドさんからアピールするのです。
そうすれば、きっとリンさんもテッドさんのことを『男性』として意識するようになると思いますわ」
「なるほど……」
「化粧品も良いかもしれませんわね。特に口紅のプレゼントは、その口紅で彩られた唇を奪ってしまいたいという意思表示だと聞きますわよ?」
「あ、アウラ……」
楽しそうにきわどいことを言ってくるアウラに思わず赤面するテッド。
しかし、アウラの言うこと自体はもっともだった。
「……そうだな。また明日から別の所に出なきゃなんねーから、その時にでも何か探してみるよ。
ありがとな、アウラ」
「お2人が上手く行けば、わたくしも嬉しいですわ」
アウラは嬉しそうに微笑んで言う。
「首尾よく行きましたら、ぜひご報告くださいね?」
「えぇ?」
「もちろん、微に入り細に穿ってお聞かせ下さいますわよね?」
「えええぇ?!」
「でしたら、リンさんのほうに伺いますわ」
「そ、それもできたらやめてもらいたいんだけど……」
それからしばらくの間、興味津々なアウラに、テッドは戸惑うばかりだったという。

がちゃ。
「よ」
いつものようにノック無しに部屋に入ると、リンはデスクで書類を見ているところだった。
「なに、帰ってたの。おかえり」
「ん、さっき帰ってきた。部屋だって聞いたから」
「ごはんは?」
「食べた」
ベッドに腰掛けながらそんな会話をしたところで、改めて気づく。
(…って、こういう会話がすでに家族カテゴリだっつの)
何の疑問もなく『家族』の会話をする自分に少し呆れつつ、ぐっと拳を握る。
今日こそは、『家族』『幼馴染』を脱却するのだ。
「首尾は?」
「ああ、OKもらったよ。とりあえず来週、契約のためにここに来てくれるってさ。また迎えに行くことになった」
「そ、よかった」
リンは微笑んで言い、持っていた書類をデスクに置いた。
「悪いわね、いつも飛び回ってもらっちゃって」
「なんだよいきなり、気持ち悪ぃな」
いつもこちらに気を使うことのないリンのねぎらいの言葉に苦笑するテッド。
「気にすんなよ。おれにできるのはこのくらいだし。
おれのほうこそ、こっちのこと全部おまえ任せにしちまって、悪いな」
「はは、適材適所、ってやつね」
リンはさして気に留めぬ様子で軽く笑い、それからテッドの手元に視線を移した。
「なに、それ」
「ん?ああ」
向こうから振ってくれて助かった、という内心を押し隠しつつ、なにげなさを装って持っていた箱を差し出す。
「土産、みたいなもん」
「みたいなって」
「や、名産品でもないからさ。でもなんか良いなと思って、買ってきた」
「あたしに?」
「他に誰がいんだよ」
リンは少しきょとんとしつつ、箱を受け取った。簡単な包装を破り、箱を開ける。
行った先の大きな街で、さんざん何にしようか迷った挙句、シンプルな宝石のついたネックレスにした。アウラのあの話を聞いてしまってはさすがに口紅はためらわれるし、服などもセンスがないので選べない。アクセサリーももっと派手な装飾のついたきらびやかなものはあったが、彼女にはシンプルで綺麗なものが似合うような気がした。
果たして、どういう反応が返ってくるか。実はまだ8割がた、「こんなもの買ってきて」と眉を顰められるのではないかという気もしている。まあそれならそれで諦めるが、ショックに備えておかなければ、などと思っていると。
「……っ」
リンは箱の中身を見て、僅かに目を見開いた。
そして、不思議そうな表情をテッドに向けて。
「……これ、あたしに?」
「だから、そう言ってんだろ」
同じ事をもう一度聞いてきたので、辛抱強く答えてみる。
すると。
「……っ、あ、りがと…」
意外にも、リンはさっと頬を染めるとまた箱に視線を戻した。
「っ………」
その反応に、テッドも言葉を詰まらせる。
(やべ)
体中の血がカッと熱くなるようだった。
思わず、にやけそうになった顔を手で押さえてそむける。
(その反応は反則だろ…!)
予想外だったこともあるのだろうが、その反応のあまりの可愛さに別の意味でノックダウンされてしまった。
だが、やられている場合ではない。これはかなり良い展開ではないか。
「つけてやるよ」
テッドは立ち上がって、リンの背後に回った。
慌ててそちらに首だけを向けるリン。
「え、い、いいわよ、自分で」
「いいから」
にべもなく言って、箱の中のネックレスに手を伸ばす。
さらりと指先に引っ掛けると、リンも諦めた様子で正面に向き直った。
いつもはハイネックのローブを着ているが、今は自室であることもあって首元がかなり開いたラフな服を着ている。ネックレスをつければよく見えるだろう。
「髪。ひっかけちまうからちょっと上げてくれよ」
「あ、うん」
テッドが言うと、リンは頷いて髪をまとめ、片手で持って上げた。
うなじから鎖骨までの白い肌が露になり、そのなまめかしさにどきりとする。
手が震えそうになるのをこらえて、首に手を回し、金具を引っ掛けた。
「いいぞ」
声をかけると、リンは手を離してさらりと髪を下ろした。
改めてリンの正面に回って、その姿を眺める。白い肌にネックレスの紅い宝石が良く映え、テッドは満足げに頷いた。
「ん、似合うじゃん」
「そ、そう?…ありがと」
リンはまだ少し恥ずかしげに視線を逸らしながら、指先でネックレスの鎖をいじっている。
テッドはごくりと唾を飲み込んだ。
「………リン」
肩に触れ、身をかがめて、愛しい少女の名を呼ぶ。
顔を上げた彼女の唇に、そっと唇を触れさせる。
「…っ……」
彼女は一瞬ぴくりと身を竦めたが、すぐに目を閉じてそれに応えた。肩に触れた手に、彼女の手が重ねられる。
唇から伝わるやわらかい感触がさらに鼓動を速める。
「………」
テッドは唇を少しだけ離してから、顔を傾けて深く口付けた。
再び肩が小さく震え、重ねられた手にぎゅっと力がこもる。
こんなキスは自分にも経験が無いし、希望的観測だが彼女も同じはずだ。
ぎこちない自分の動きに、合わせようとしてくれるのが嬉しい。
「……」
「………」
名残惜しげに唇を離すと、彼女も目を開けてこちらを見た。
顔は真っ赤に紅潮していて、目も少し潤んでいる。
かなりやばい。何か色々なものがやばい。
「……リン」
「…な、なに」
テッドは微妙に据わった目で、リンに告げた。

「………すまん。ガマンできねーわ」

がば。
「え、ちょ、なに?!」
テッドはそのまま、正面からリンの腰と足に手を回して抱え上げた。
横からではなく正面からの姫だっこ。というか抱え上げられているに等しい。
テッドはそのまま無言で、リンの体を傍らのベッドに放り出した。
ぼす。
「っきゃ」
乱暴に放り出され、小さく悲鳴を上げるリンに、上から覆いかぶさる。
「ちょ……っっ」
もう一度唇を重ねると、彼女もおとなしくそれに身を任せた。
はぁ。
顔を離すと、どちらからともなく熱い吐息が漏れる。
テッドは彼女同様潤んだ瞳を向けて、ゆっくりと訊いた。
「……その……いい、か?」
「………この体勢でなに言ってんのよ、ばか」
真っ赤な顔で睨んでくるリン。
その何もかもが、やばいほど愛しい。
うに。
「いて」
彼女の手が伸びて、テッドの頬をつねる。
「……そーゆーこと、訊く前に。何か、言うことあるでしょ」
さらり。
先ほど送ったネックレスが、首元で小さな音を立てた。
テッドはその手をそっと握り締めて、苦笑して。
そして、熱い吐息と共に、低く告げた。
「………好きだ」

そういえば、彼女から想いを告げられた時も、はっきりとした言葉は返していなかった気がする。
お互い、あまりに今更過ぎて。
けれど、肝心の想いを一度もきちんと伝えていなかった。

リンはテッドの言葉に、赤い顔をさらに赤くして。
それから、嬉しそうに微笑んだ。

「……あたしも……好き……」

するり、と首に腕が回されて、引き寄せられる。
その力に逆らわずに、そっと体を沈めて。

2人で迎える最も甘い夜が、これから始まろうとしていた。

“Present for you”2010.11.8.Nagi Kirikawa

だあああぁぁ恥ずかしい!(笑)
ということで、テッドの視点で描くとこういうことになってます、というお話です(笑)
あたし前にも二次創作で、「彼女とステップアップしたくてもんもんと悩む健全な青少年」を書いたことがあるんですが(ちなみにマザー2です(笑)こちら→ 「Because I love you」)なんかこう、こうなっちゃうなあ(笑)なんでだろう(笑)
『幼馴染』『家族』という枠にくくられて、もはや生活の一部になっちゃってる2人、でもよく考えたらちゅーしかしてないよね?!そんなヒマないよね?!と考えながら書きました(笑)アウラが思ったより食いついてきて、これはこれで面白い感じに出来たかなとか(笑)
そのうちリンサイドの話もアップします(笑)

あーはずかしかった(笑)