「ねえ、どうしよう?どうしたらいいと思う?」

目の前でやたらと悲壮な顔をしながら言ってくる少女に、カイは半ば呆れたような気持ちになっていた。
悲壮と言っても、深刻に悩む振りをしていながら、どこかこの状況を楽しんでいることが隠し切れないといった風情で。
当人なりに真剣に悩んではいるのだろうが、どうにもそう思えてしまうのは、自分が人間より長い生を経てきたからだろうか。
色々思うところはあったが、カイはゆっくりと嘆息すると、小さく肩を竦めた。
「…向こうも、あんたの告白を待ってるんじゃない?行ってきたら良いと思うよ」
「そうよね!」
カイの言葉に、少女はぱあっと明るい表情になって、立ち上がる。
「相談に乗ってくれてありがとう!私、行ってくるね!」
そう告げる時間すら惜しいといった様子で、足早にその場を後にした。
はあ。
疲れたようなため息をつくと、ぽん、と肩を叩かれた。
「お疲れ様」
「あんた今までどこ行ってたのよ」
後ろから覗き込むようにして顔を見せたルームメイトに、糾弾の視線を投げる。
ルームメイト…ミルカは、苦笑して彼女の隣に座った。
「ごめんごめん、校長先生に呼び出されててさ」
「ったく、なんであたしがこんなことしなくちゃいけないのよ…いつもはあんたの役目でしょうが」
「まあ、たまにはいいじゃない?友達の相談相手になるのも」
「相談、ねえ」
カイは渋い顔で嘆息した。
「あれが相談になってるわけ?ただ話聞いてうんうんって頷いてただけよ?」
「女の子の相談っていうのは、話を聞いてあげることを指すのよ」
「はぁ?」
こともなげに返すミルカに、理解できないという顔をするカイ。
「だいたい、どうしようどうしようって、じゃあこうすれば?って言えば、でもそんなことできないし、だって嫌がられるかもしれないし、って言ってばっかりでさ。
あたしの意見をはなから取り入れる気がないんなら、なんでも自分の思う通りにやればいいんだよ」
「まあまあ。女の子の『どうしよう』っていうのは、『私の思うとおりにやればいいのよね?』っていう意味なのよ」
「わっかんないなー!」
カイはお手上げという風に両手を上げて、どかりと背もたれに寄りかかった。
「やることが自分の中で決まってるなら、さっさとやれば良いのよ。
それが他の人にとって正しいか間違ってるかなんて、どうだっていいじゃない。自分がそれが一番いいって思ったならさ」
「うーん、確かにその通りだと思うけど、みんながみんなそう割り切れるわけじゃないのよ」
ミルカは苦笑した。
「自分がそれで正しいと思ってても、確証が欲しいんだわ。誰かに背中を押して欲しいのよ」
「背中押して欲しいなら、そう言えばいいじゃん」
カイはなおも不満そうだ。
「自分はこうしたいんだけど、大丈夫かな、って言えば、大丈夫だよって言えるのにさ。
どうしようどうしようしか言わないから、どうしたいのか聞き出すのに四半刻もかかったわ」
「そこはほら、判って欲しいのよ、言葉に出さなくても」
「あたしはエスパーじゃないし。そんなワガママにつきあってらんないよ」
「女の子はワガママなものなのよ」
「…さっきから、あたしが女の子じゃないみたいな言い方がむかつく」
「あらぁ、そんなつもりはないけどぉ」
ミルカは手のひらを口に当てて、からかうような笑みを漏らした。
再び、疲れたようにため息をつくカイ。
「も、こりごりだわ。今度からあんたがやってよね、あたしはパス」
「はいはい。ちょっとカイには向かなかったかもね」
「…そういえば」
ふと、カイはミルカの顔を正面から見返した。
「あんたは、あんまそういうこと言わないよね」
「そういうこと?」
「ん、だから、どうしよう、とか」
「ああ、わたしもカイと同じ風に思ってるから」
けろりとして答えるミルカ。
カイは眉を顰めた。
「えぇ?」
「何よそれ」
「だって、あれだけ本当の意味はとか女の子はワガママなものだとか言っておいて、説得力無くない?」
「相手がどうかっていうのと、わたしがどう思うかっていうのは別問題でしょ?」
やはりけろっとして、ミルカは言った。
「わたしは、自分がこうと決めたことは誰に何と言われても変えないし、背中を押してもらわなくても自分でやりたいと思うけど。
でもね、大切なものを前にして迷ってしまう気持ちも、判らなくはないのよ」
頬杖をついて、にこりと笑う。
「だから、一歩が踏み出せないでいるなら、その助けになってあげたいじゃない?
たとえ、わたしと同じ気持ちを持っていなくても」
しばしの沈黙。
カイは、ミルカをじっと見つめて。
そして、苦笑して髪をかき上げた。

「…あーあ。あんたには敵わないわ」

“True Meaning”2008.9.30.Nagi Kirikawa

投稿掲示板作品です。
お題は「どうしよう」。男性にはあまり理解されませんが、女の子の「相談事」っていうのは、相談を持ちかけた時点でもう本人の中で答えが出てるんですよ(笑)だから、まじめに考えてアドバイスすると逆切れされることがあるので注意してください(笑)「お前が正しいよ」と言ってもらいたいだけなんですよ(笑)
それはさておき、カイとミルカの関係は、身体はカイの方が強いけど、心はミルカの方が強い、だから常々カイはミルカには敵わないと思っている、っていう感じです。