「………」

そもそも、何でケンカしたのか、なんてことはもう、どうでもいい。
問題なのはこの、気まずさ。

「……」
「……」

2人部屋で、ルームメイトとケンカするという状況がいかに気まずいか。
あたしはたまに、身を持って感じることがある。

いつも一緒に生活していて、朝起きたら挨拶をして、ご飯を食べながら他愛もない会話をして。
帰ってくれば宿題に頭を悩ませ、先生の愚痴を言い、お互いの休日の予定を話し合ったり、明日の予定を確認したり。
もっと細かいところだと、食事に行くのに声をかけたり、シャワーを譲り合ったり、洗面所の奪い合いをしたり。

そんな他愛のないやり取りが、一切シャットアウトされる。
一緒の部屋にいても、他に誰もいないかのように振舞われる。
声をかけあっていたやり取りも、一切無言で。

静寂が、触れれば切れる刃みたいに鋭く感じられる。

「………」

でも、自分から声をかけられなくて。
謝るタイミングがつかめなくて、イライラする。
自分が悪いと認めるのも、癪で。

でも、そんなのは、きっと。

「……ほら」

ずい。
唐突に目の前に差し出されたコップに、驚いて彼女の方を見る。
仏頂面で、こっちを睨むようにして。
短く、一言。

「…洗面所。空いたから」

それだけ言って、ふいと目を逸らす。

そして、あたしは苦笑する。

そんなのはきっと、甘えなんだよね。
どうでもいいことに意地を張って、気まずい空気にイライラして、それでも謝ることなんてできない。
でも、この痛い空気だけは耐えられないから。
何とか元に戻ろうとして、でも急に元に戻るのも癪で。
ぶっきらぼうに、声をかける。

それを判ってくれる相手だと、判っているから。

「……はいはい」

あたしは仕方なさそうに返事をして。
それでも、自分の顔がちょっとにやけてるのを感じる。

ごめんなさいも言えない。
それでも、お互い元に戻りたいって、判ってるから。

こんな仲直りも、それはそれで、一つの形…だよね。

“Reconciliation” 2008.12.30. Nagi Kirikawa

投稿掲示板作品です。
お題は「ケンカ」。ミルカとカイのケンカ中の風景を、カイ視点で書きました。
二人とも、まあそこそこ大人なんですけれども(笑)仲が良くて、毎日朝から晩まで同じ部屋で顔を突き合わせてるからには、たまにはこういう大人気ないケンカもしちゃうのかなと思います。