「ねえ、こっちがいいかな?それとも、こっち?」

二種類の服をかわるがわるに自分の身体にあてて見せながら、ミルカはルームメイトに問うた。
一つは、ピンク色を基調にしたフリルたっぷりの、いつも来ているものと同じようなタイプのワンピース。
もう一つは、黒を基調にした少しスリムなラインのツーピース。

「……どっちでもいいじゃない、そんなの」

ルームメイト…カイは、面倒臭いことこの上ないといわんばかりの表情で、ミルカに向かってひらひらと手を振る。
ミルカはむっと眉を吊り上げて、カイに抗議した。
「もーっ、せっかく明日のお出かけの服選んでるんだから、意見くらい言ってくれたっていいじゃない!」
「おでかけったって、デートに行くわけじゃあるまいし…みんなで遊園地遊びに行くくらいでなんでそんなにめかしこまなきゃいけないのよ」
「えぇ?!カイ、もしかしてその服のまま行くつもり?」
ミルカは驚いて、持っていた服をそのまま床に置いてしまった。
「そうだけど?いいじゃん、別にこの服でも。別に外に出てって恥ずかしい格好でもないんだし」
そう言うカイが着ているのは、彼女の髪と同系色の赤い上着に、淡い色のハーフパンツ。着たきりというわけでもないが、身軽なものを好んで着ているようだ。
ミルカは憤慨したように、座ったまま床をどん、と叩いた。
「んもーっ、カイはそんなだから彼氏できないんだぞ!」
「大きなお世話。別に男のために生きてるわけじゃないし。あたしにはもっとやりたいことがいっぱいあるんだから」
「それにしたって、おしゃれの一つくらいしてみたっていいでしょ?女の子なんだから」
「男だから、女だから、とかって強制されるのはあまり好きじゃないよ」
「強制じゃないわよ!」
ミルカは再び強い口調で言った。
「もったいない、って言ってるの!せっかくカイは可愛いんだから、おしゃれしたらもっと可愛くなるのに!」
「……っ」
カイは僅かに頬を染めて口ごもった。
この友人は、いつも思ったことをまっすぐに口にする。それが多少恥ずかしいことでも、おかまいなしだ。そういうところは、彼女の恋人によく似ていると思う。
カイは何とか気を取り直すと、ミルカから目を逸らした。
「…っ別にっ、可愛くなりたいと思ってるわけじゃ…」
「それは、今までおしゃれしたことがないからよ。おしゃれして、可愛くなった自分を見て、それでも可愛くなりたいわけじゃないっていうなら別だけど、やったこともないのに否定するってそれおかしいと思うわ?」
「…それは……」
「ね?やってみれば気が変わるかもしれないじゃない?楽しいことが増えるっていいことだと思うわ。一緒におしゃれしましょうよ」
目の前の友人はすっかり乗り気だ。カイは渋い顔をした。
「…でも、あたし服なんて…」
「服なんて、わたしのを貸してあげるわよ!」
「は?!あんたの服を、あたしが?!冗談よしてよいくらなんでも…っていうか、そっちのピンクいの、あんたの服じゃないわよね?」
「うん、パスティから借りてきた。そうだ、パスティにも協力してもらおうよ!」
「ちょ、ちょっと!!」
パスティ、というのは、同じ学校に通う上級生の翼人の少女だが、優しくて人当たりがよく、下級生の2人とも仲良くしてくれている。
だが、彼女がいつも身に纏っているのは…それこそ、ミルカと同じような、フリルたっぷりでパステル調の少女趣味丸出しの服ばかりなのだ。
その彼女の服でファッションショーされた日には、カイにとって地獄絵図のような展開が待っていること請け合いである。できれば、というか、心底勘弁していただきたい。
しかし、火の付いたミルカはもう誰にも止められなかった。すく、と立ち上がると、カイの手を引いて立たせる。
「早速、パスティの家に行きましょう!寮の門限までに帰ってこないといけないから、今から行かないと間に合わないわ!」
「門限までってあんた、一体何刻衣装合わせするつもりなのよ?!」
まだ下校して間もない頃。門限であるマティーノの刻まではたっぷり時間がありすぎる。
頑として抗議するも、やはりミルカの勢いは止められないようだった。
「さあ、行くわよカイ!今日はカイにぴったりの服をコーディネイトしてあげるからね!」
「ちょっと待ってって言って……ミルカああぁぁぁぁ?!」

制止するカイの声は、ミルカに速攻で引っ張られ部屋の外へと連行され、やがて聞こえなくなる。
そして、2人の部屋に静寂が戻った。

2人は門限ギリギリに寮に戻ってきたが、つやつやと嬉しそうなミルカとは対照的に、カイはぐったりしていたという。
明日の遊園地は、どうなることやら。

“Coordinate” 2008.5.31.Nagi Kirikawa

投稿掲示板作品です。
魔法学校サイトを作ったときに、地味にパスティがお気に入りだったんです(笑)仲良い設定(笑)
ミルカはこういうのには燃えちゃう乙女だと思う。
そしてそれに振り回されるカイ萌え。