「更科?知ってるわよー、うちの遠い分家筋だものー」
あっさりと答えた母…美紗に、リーは電話越しにくってかかった。
「え、本当に?あたし知らないけど」
「そうねー、話してないからー」
「ママ、そういうことじゃなくて!」
「だってー、必要ないじゃなーい。さっきも言ったけど、遠い分家筋なのよー?もう何十代も前に独立して一派を築いてる家系だしー、今はうちと何の繋がりもないからー」
「じゃあ、なんでその更科の後継があたしと同じ学校に、しかも生徒会長としているのよ!」
あくまで暖簾に腕押しの態度の母に、イライラしながら言うリー。
電話の向こうで母が眉を寄せて首を傾げるのが目の前にいるように判る。
「うーん、そうねえ、きっとうちに持ち込まれた依頼と、同じものを受けてるんでしょうねー」
「はぁ?!」
リーは盛大に眉を顰めた。
「ていうか、前も訊いたけど、今回の依頼ってなんなの?行けば判るって、全然判らないんだけど!」
「そうお?そのうち判るわよー」
「いや、だからね!その更科の後継が判ってて、あたしが判ってないのはまずいでしょう!」
「大丈夫よー、あなたならー」
母の調子は変わらない。
リーはため息をついた。
「もう……わかったわ。自分でやってみる。
パパは今日はいるの?」
「いるわよー。代わるわねー」
しばしの間。
「もしもし、リーですか?」
「あ、パパ。久しぶり」
リーの表情が目に見えて和らぐ。
天司の家に婿養子として入っている父、悌(てい)は、目だった退魔能力は持っていない。だが、際立った頭の回転の良さと穏やかな人柄とで、天司に来る退魔の依頼を総括する役割を担っていた。
優しげなあたりとは裏腹に肝心なことは笑顔でかわす冷たい強さのある母は尊敬はしていたが、リーはどちらかというとこの父のほうが好きだった。父も娘には甘く、厳しい修行にくじけそうになったところを何度も慰めてもらったものだ。
「がんばっていますか?」
「うんまあ、何とか。ねえ、パパもこの学校のこと、何も知らないの?」
「何も知らないわけではないですが…美紗が黙っているということは、その方が良いことなのでしょう。私から言えることも何もありません、申し訳ありません」
「パパが謝ることじゃないけど……」
娘には甘い父も、こと仕事に関しては母に全面の信頼を置いている。リーは複雑そうな表情で眉を寄せた。
「それより……先ほど、美紗が『更科』と口にしていたようですが…」
「あ、うん。学校の生徒会長が、その『更科』の後継らしいの」
リーは今日あったことをかいつまんで父に話した。
「そうですか……」
軽く嘆息した父を怪訝に思い、訊いてみる。
「パパ、知ってるの?」
「ええ、この世界にいれば嫌でも耳に入る名前です。うちほどではありませんが、実力も実績も兼ね備えた家系ですよ。ですが……」
「……どうかしたの?」
リーが促すと、父は一瞬口ごもってから、言った。
「……更科の当代…風歩(ふうぶ)は、昔……分かれた血統を元に戻すため、美紗と婚約の義を取り交わそうとした事があるんです」
「ええ?!」
思いも寄らぬ話の展開に、思わず素っ頓狂な声を上げるリー。
「それって…」
「もちろん、美紗の強い拒否でその話は流れ、私と結婚したのですが」
「要するに……ママはその当代を昔フったことがある、と」
「品の無い言い方をするとそうなりますね」
「じゃあ…生徒会長……更科の後継、っていうのは…」
「当代の息子にあたる人間、ということになります」
「ママにふられてすぐ別の人と結婚したってこと?」
「彼は純粋に血統のためだけに婚約を交わそうとしたようでしたから。美紗個人に思い入れがあるようには見えませんでしたよ。…少なくとも表面上は」
「なるほど。ママを天司の血を持ってるだけのモノ扱いしたから、パパはママを守ってくれたのね」
「えっ……あの、私は、その……」
急に慌てたような声を出す父。
リーはこの父親がたまに見せる子供のような純粋さがとても好きだった。おそらくは、母も父のそんなところを愛しているのだろうし、救われているのだと思う。
「はいはい、ごちそうさまでした。更科とママの関係については、頭に入れておくわ。ありがとう」
苦笑して言うと、父はひとしきり照れていたようだったが、やがて立ち直って心配そうな声を出した。
「リー、私も仕事に関してはあまり口を出せませんが…更科の後継が来ている、ということは…」
「わかってる。この学校のことについて、複数の箇所から依頼が来ている…つまりは、それだけの案件ってことね」
神妙な声でリーが答えると、父は彼女が理解していたことに少し安堵したようだった。
「はい。くれぐれも、気をつけて。何かあったらすぐに連絡して下さいね」
「ええ。わかってるわ。パパも、お仕事がんばってね」
「はい。いい知らせを待っています。それでは」
「うん、またね」
がちゃ。
リーは受話器を置いたままじっとそれを見つめ、しばしの間考え込んだ。
と。
かちゃ。
「………ただいまー……」
部屋のドアが開く音がして、ロッテが覇気の無い声と共に部屋に入ってきた。
「ロッテ?おかえりなさい、遅かったじゃない」
「あ、ん……ちょっと、寄り道しててさ……」
「例の部活の件、申請が通ったわよ。ちょっと面倒なことになったけど」
「………そっか。ありがと」
「ロッテ?」
様子のおかしいロッテに、リーは眉を乗せて顔を覗き込んだ。
「どうしたの?何かあった?」
ロッテは彼女の視線に視線を合わせると、ふ、と苦笑した。
「ん、なんでもないよ……ゴメンけど、今日は寝るね……」
そのまま、虚ろな表情でベッドへともぐりこむ。
リーは拍子抜けしたような顔で首をかしげた。
「なんなのよ、もう……」

「あら……今日はゴキゲンね?キルくん」
「いらしていたのですか、叔母様」
帰ってきた自分に楽しそうに声をかけた少女に、キルと呼ばれた少年はにこりと微笑みを返した。
が、少女は不満そうに眉を顰める。
「3つしか違わないからおばさんって言わないでって言ってるでしょ」
「しかし、父上の妹なのですから」
「あーもうそれはいいから。で、ゴキゲンの理由は?」
「さて、何のことでしょうか。私はいつもと変わりませんが?」
「誤魔化したってダーメ。アタシにはわかるんだから」
「やれやれ、チャカ叔母様にはかないませんね」
キルは僅かに苦笑すると、言った。
「…伯父様の御落胤と、ようやくご対面しましてね」
「へえ、にいさまの?!」
チャカの表情が目に見えて明るくなる。
「どうだった、どうだった?!何か言ってた?」
興味津々のチャカに、また苦笑を返すキル。
「いえ、何も……逃げられてしまいましたよ、今日のところは」
「なぁんだつまんない。でも、同じ学校なんだから、また会えるわよね」
「ええ。なにやら面白いことも始めたようですし…もうしばらくは、楽しみに見ていることにしますよ」
「ふふ、アタシもいつか会えるかしら……楽しみだわ、とっても」
それきり、2人の会話は途絶えた。

「……で?なんなの、この状況」
一夜明けて、ロッテは昨日の様子を引きずることなくすっかり元に戻っていた。
そして、いつものように授業をサボりまくって放課後。
『退魔代行部』の部室として用意された部屋で、不機嫌そうに一言。
「だから、生徒会長の更科くん」
「知ってるよ、それくらい。なんでコイツがここにいんの、って訊いてんの」
更科のほうを嫌そうに見る。当の更科は相変わらずニコニコしているが。
リーはどう説明しようかと首をかしげた。
「……部に入ったから?」
「はぁ?なにそれ聞いてないよ」
「僕がお願いしたんですよ」
2人の会話に、更科が割って入る。
ロッテは盛大に眉を顰めた。
「お願い?」
「ええ。部活の成立を許可する代わりに、僕もこの部に入れて下さい、と」
「なにそれ!なんでそうなんの?!」
「だから、面倒なことになったって言ったじゃない…あなた、よく聞かないでさっさと寝ちゃうんだもの」
困ったように言うリーは無視し、ロッテはさらに更科に言い募った。
「つか、それ生徒会長の職権乱用なんじゃないの?そんな脅迫みたいなマネして大丈夫なワケ?会長さんはさー!」
「ちょ、ちょっと待って?ロッテ、更科くんを知ってるの?」
いくらなんでも初対面でこの嫌いようは尋常ではない。さすがに不審に思ったリーが割って入ると、ロッテは不機嫌そうに口を閉じた。
代わりに、更科がくつくつと楽しそうに喉の奥で笑う。
「お前、本当に何も知らないんだな」
お前、とはリーに向かって発せられた言葉のようだった。
先ほどまでかぶっていた優等生の仮面も綺麗に外している更科に、眉を顰めるリー。
「更科くん……どういうこと?」
「その、更科くん、ていうの辞めろよ。エリー、でいい」
「エリー?」
「母や親しいやつはそう呼ぶ。お前たちのあだ名と同じようなもんだ」
「……女の子みたい」
「いいだろどうでも」
「それで、エリー?ロッテのことを知ってるの?あたしが何も知らないって、どういうこと?」
重ねてリーが訊くと、更科……エリーは再びふん、と不敵な笑みを漏らした。
「…千葉、麻莉菜。母方の姓を名乗ってるようだが、そいつは……」
「ボクはあの家とはカンケーないよ!余計なこと言うなっつってんでしょ!!」
エリーの言葉を強い口調で遮ったロッテに、リーは驚いてそちらを見る。
「ロッテ……?」
ロッテはふい、と顔を逸らして、再び椅子に座る。
エリーは肩を竦めた。
「……ま、言われたくない『余計なこと』ってのがこいつにはあって、俺はその関係でこいつと面識がある、ってことだな」
「………」
リーは複雑そうな表情でロッテとエリーを交互に見た。
ふ、と嘆息するエリー。
「俺は別に構わないぜ。この部に許可を出したのも、この部に入ったのも、俺が動きやすくなるからだ。生徒会長になったはいいが、権力を行使できる反面不自由なことも多くてね。お前の申し出は一石二鳥だったって訳だ」
リーはむっとして言い返した。
「それじゃあ、わざわざ条件とか言うこともなかったじゃない。あなたにも利益があることなんでしょう?」
「おいおい、退魔代行部なんていう突拍子もない部を許可する俺の身にもなってくれよ?条件としては破格だと思うがね」
肩を竦めて言うエリーに、憮然とする。
「それはそうだけど……」
「あんたも。経緯と理由はともあれ俺は正式に部に所属してるし、あんたはそれを妨害できる立場じゃない。以上。異論があるなら聞こうか?」
再びロッテのほうを向いて言うエリー。
ロッテも憮然としたまま、それでもちらりとエリーの方に視線をやった。
「……勝手にすれば。キミにも『力』はあるんだし?」
「じゃ、お言葉に甘えて勝手にさせてもらうさ」
にこり、と微笑みかけるエリーから、再びふいと視線を逸らせるロッテ。
リーは困ったようにため息をついた。
と、その時。
こんこん。
部屋のドアをノックする音がして、リーはドアを振り返った。
「はい?」
かちゃ。
開けに行こうと足を踏み出すと、ドアは向こうの方から開いた。
「こんにちはー……?」
ひょこり、と顔を出したのは。
「ここ、新しい部が出来たって聞いたんだけど……」
「え……高等部の方ですか?」
リーは驚いて相手に問うた。
派手な癖のある髪の毛を腰まで伸ばして。
青みがかった大きな瞳は随分幼い印象を与えていたが、リーと決定的に違ったのは、彼女たちとは違うえび茶色の制服を着ていたこと。
中等部と隣接している、高等部の生徒である証だ。
巻き毛の少女は部屋に入ってドアを閉めると、にこりと笑った。
「うん。高等部1年、相田未留架。よろしくね」

高等部と中等部は、兼任している教師も多く、中高合同で活動をしている部もあることから、互いの校舎に行き来する事はそう珍しいことではない。
リーはとりあえず相田を椅子に座らせて、自分もその正面に座った。
「相田先輩は、どうしてこちらに?」
「あ、ミルカでいいわ。敬語もこそばゆいから無しでお願い」
「えっ、でも……」
「いいっていいって!ネクタイの色からすると2年生でしょ?2つしか違わないじゃない。ね?」
「はぁ……それじゃあ……なんで、ここに?」
釈然としない表情でリーが改めて問うと、ミルカは難しい顔で視線だけを逸らした。
「んーと。ここって、ちょっと変なもの見たとか、そういうの、調べてくれるのよね?」
ミルカの言葉に、リーとエリー、そしてふてくされていたロッテも表情を変えてそちらを見た。
「……見たの?」
神妙な表情で言うリーに、ミルカはほっと表情を和らげた。
「あっ、信じてくれるんだ!もー、誰に言っても気のせいとか頭おかしいとか言われて、ほとほと参ってたのよー。わたしの気のせいじゃないのよね?」
「あなたが見たのがあたし達の言うものなら、の話だけど。
あたし達もここに何かがいるのは確認してるし、その『何か』が見える人と見えない人がいるということも判ってるわ」
慎重に答えるリー。
ミルカは頷いた。
「小さい頃から見えてはいたんだけど、みんな見えるものだと思ってたの。違うのは理解したけど、何か…この学校にいるのは……気配が、いつも見えるものとは違うな、って思って……うまく説明できないけど、とてもイヤな感じがするの。それで、友達とかに言ってみたんだけど……」
結末はさっきの通り、という様子で、肩を竦めて。
「イヤな感じ…?」
眉を顰めるリー。
「この学校にいるものは…外にいるものと、違う感じがするの?」
ミルカは頷いた。
「うん。うまく言えないけど…外にいるものに、何か違うものが混ざった…みたいな」
「…本当に?」
何度か対峙したが、リーにはそのようには感じられなかった。エリーに目をやって確認してみるが、彼も真剣な表情で目を合わせ、首を振る。ロッテに視線をやってみても、こちらも面食らったような顔で肩を竦めるだけだ。
「…気のせいじゃ、ないの?」
もう一度念を押すが、ミルカは眉を寄せて首を傾げた。
「んー…そう言われると気のせいなのかもしれないけど。
外のそのへんをウロウロしてるのは、1匹だと別に大したことないじゃない?1匹くらいなら、生きてるわたしたちのエネルギーの方が強い感じがするの。だから、なにもしなくても見えてないふりしてスルーすれば何してくるでもないし、大勢溜まっているところに寄り付きさえしなければ危険はないのよね」
ミルカの言ったことに、リーは少し目を見張った。確かにその通りだった。リー達のように対抗する術を持っていない者は、見えない振りをして避けるようにするのが一番の対処法だ。
ということは、ミルカが見ているものは間違いなくリーたちの相対する「もの」達と同じものだ。
だとすれば、ミルカは対抗する手段は無いものの、リーたちよりも「それ」を感じ取る感覚が鋭い、ということか。
対抗する術も無く、鋭敏な感覚だけあるということがどういうことか、わからない彼らではない。気が狂わないのが不思議なくらいだ。よほど、心の強い少女なのだろう。
ミルカは続けた。
「でも、この学校にいるのは……なんていうのかな……1匹でいても、わたしたちへの……強い、悪意みたいなものを感じるの。殺意、っていうのかな……ねっとりまとわりつかれてるみたいな、イヤな気持ちになるのね。だから、何か不安で……
でも、こういう部が出来たって聞いて、もしかしたらわたしと同じように感じてる人がいるのかと思って、思い切って来てみたの」
「なるほど……」
ふ、と息をつくリー。
ミルカの話からすると、この学園にいる「もの」達が普通と違うのは確かなようだった。
そしてそれこそが、母が語らないこの依頼の内容であり、エリーまでもが依頼を受けて来るほどの事件の中核なのだろう。
「今日も……いる、の?それは」
慎重にリーが訊くと、ミルカは頷いた。
「来る時に見たわ。今もいると思う。行ってみる?」
ミルカの問いに、エリーとロッテの方を見ると、彼らも神妙な顔で頷いた。

「ここよ」
ミルカが案内した場所は、校舎の裏手にひっそりと佇む小さな噴水だった。
「高等部にこんなトコロあったんだ…っひゃー、ブキミだねぇ」
少し寒気を感じた様子で、ロッテがぶるっと震える。
その言葉の通り、憩いの場として用意されたであろうその噴水は、一種異様なほどに憩いの場としての機能を果たしていないだろうと思われた。
その場所自体があまり人の行き交いのない校舎の裏側に面している。その奥に何があるわけでもなく、しかも日当たりも悪いため、昼食を食べに来るという類の場所でもない。日当たりの悪い水場ということで、当然苔がびっしりと生え広がり、しかも全く手入れがされていない。申し訳程度に置かれているベンチも当然日陰で、苔がそこにまで繁殖している。
「……憩いの場にしようとして失敗した感じね…」
半分呆れたような表情で嘆息するリー。
「ここに……いるの?」
ミルカの方を振り返ると、ミルカは少し青ざめた表情であたりを慎重に見渡した。
「うん……あまりじっと見ると向こうもわたしに気付くから正確な数まではわからなかったけど……思ったより、多いわ……」
その言葉に、3人の表情が緊張を孕んだ。
すると。
ゆらり。
湿った茂みの陰から。薄暗い校舎の壁から。苔むした噴水の水の中から。
この世のものでない『影』たちが、その姿を現す。
「ちょっ……なに、この数」
さすがにロッテも面食らったように言った。
10や20ではきかない。裏庭を埋め尽くさんばかりの『影』が、4人を取り囲んでいた。
「……これは…徒に逃げても危険ですね…ミルカさんを囲んで防ぐしかありません」
エリーも、生徒会長の仮面をかぶりつつも、苦々しげに言う。
3人がミルカを背にして囲み、ふわり、と光る武器を構えた。
リーは薄緑に輝く剣。ロッテはオレンジ色に輝く弓。エリーは山吹色に輝く棒。
「…これは……!」
慣れた様子の3人に驚くミルカ。
「ここを動かないで。……いいわね」
影たちに用心深く視線をやったまま、リーは静かにミルカに言った。
ミルカが神妙な表情で頷く。
それを合図にしたように、3人が同時に動いた。
「……はっ!」
エリーとリーが手近にいた影に武器を振るい、ロッテが矢を放つ。
ぶわ、と霧散する影の向こうから、進み出て襲い掛かってくる影。
「くっ……!」
苦しい体勢で攻撃を受け流し、反撃で影を散らせるエリー。
ミルカを庇って思うように場所の移動が出来ない分、戦況は苦しいようだった。
「っぇい!はっ!」
ロッテも次々に矢を放って影を散らせるが、焼け石に水のようで。
「ねー、なんか増えてない?!キリがないよ!」
ロッテの言う通り、影を散らせる端からまた新たに現れているようで、倒しても倒しても総数が減る気配がない。
「……っ、元を断たないと……でも、ここを離れるわけには…!」
迫り来る影をなぎ払いながら、苦しげに呟くリー。
ミルカは自分が原因になっていることを察し、しかし逃げることも出来ずにおろおろと辺りを見回した。
その時。

「……ミルカ?ここにいたの?」

突如響いた男性の声に、4人は驚いて振り返った。
校舎の影から、背の高い男子生徒がこちらを見ている。浅黒い肌に短髪の綺麗な少年だったが、彼を見たミルカはまともに顔色を変えた。
「フィズ、逃げて!」
大声で叫ぶミルカに、思わず他の3人も驚いて手を止めた。
フィズ、と呼ばれた男子生徒は、突然のことに驚いて足を止めたものの、状況を理解できずにそのまま立ち竦む。
ゆら。
来訪者に気付いた影のいくつかが、フィズに向かって進み始めた。
「!フィズ、早く逃げて!」
「ミルカ…?これは、一体……」
フィズは困惑した表情で立ち尽くしている。自分に向かっている影には気付かないようだ。
「っ、彼には……見えてない?!」
驚いて声を上げたリーの隙をついて、影が彼女に飛び掛った。
「…っつぁっ!」
「リー!」
攻撃を受けて身をよじるリー。フォローするようにエリーが武器を振るって影を散らす。
ミルカは逡巡して、しかしその場を駆け出した。
「あっ、ミルカさん!」
エリーの静止も聞かず、まっすぐにフィズに向かって駆けて行くミルカ。
「危ない、ミルカ!」
「っ、間に合わない……!」
ロッテも弓を引くが、その前に影がミルカに爪を伸ばし……
その時だった。

ぶわ。

ミルカの手がフィズの手に触れた瞬間。
2人を中心に、青い光がほとばしった。
『グギャアアアアァァァァ!!』
影たちの悲鳴がこだまし、2人を中心に波紋のように広がっていく青い光が影を次々と消していく。
「!……」
「なっ……」
突然の出来事に、立ち竦むリー達。
一瞬で広がって影を消しつくした青い光は、やはり唐突にふ、と消え去った。
それに合わせるように、ミルカの巻き毛がふわり、と揺れる。
「フィズ……大丈夫?」
「え……ミルカ、何が……?」
よく判っていない様子のフィズに、ミルカは嬉しそうに微笑んだ。
「無事なら……よかった」
「今の……ミルカちゃんが……?」
呆然と呟くロッテ。
「でも…彼女はそのような力は……」
訝しげに言うエリー。
リーもやはり呆然と2人の方を見ながら、呟いた。
「あの人……フィズ、って呼ばれたあの人、だわ」
「え?」
言葉の意味がわからず、首を傾げるロッテ。
リーは視線は逸らさず、続けた。
「ミルカには、力があってもそれをうまく使う事が出来ない…でも、彼が側にいることで、スムーズに力を使いこなせるようになる…あたしたちの武器と同じ、彼は、ミルカにとっての『触媒』なんだわ……」
「……っひゃー……ナニモノなんだろね?あのセンパイ……」
ロッテが小さく感嘆の声を上げる。

退魔代行部に、頼もしい仲間が加わろうとしていた。

School club of Acting for Demons-killer “HALF & HALF” The End? 2008.8.3.Nagi Kirikawa

どうせなので、ヒット記念=学園パロ、という風にしてみようと思いました(笑)続ける気はあまりなかったんですが(笑)
で、どうせなので、本編で絶対出来ないことをやってみようかなあというコンセプトの元に、「トキス父娘の会話」と「HH組とMM組の邂逅」をやってみました(笑)こんな感じかな(笑)
リーとエリーの設定はするする出てきたんですが、ロッテをどういう立ち位置にするかまだちょっとうまいこと思いつかなくて(暴露)先送りにしています(笑)キルもガンガン書きたいんですけどねー(笑)