「退魔代行部?」
突然飛び出たその言葉に、リーは盛大に眉を寄せた。
「そ。ま、名前は何だっていいんだけどさ」
ロッテは上機嫌で頬杖をつきながら彼女に向かって言う。
「せっかく力があるんだし、役に立てなきゃソンじゃん?」
「力、ねえ」
リーは浮かない表情で肩を竦めた。

幼等部から大学部までのエスカレーター式大規模校として名高い、エスタルティ学園。
彼女たちはその中等部に所属する生徒である。

中等部2年D組、天司梨羽(あまつかさ・りは)。通称リー。
ごく最近この学校に転校してきた彼女は、古くからこの世ならぬ悪意のある存在を祓うことを生業としてきた天司家の直系の娘である。
母・美紗の命でこの学校に転校し、校内に巣食う魔物たちを滅している。

同じく中等部2年D組、千葉麻莉菜(ちば・まりな)。通称ロッテ。
綺麗に日焼けした肌。痛々しく脱色された髪は前髪だけ赤く染め上げられ、耳にはピアスが並ぶ、どこからどう見ても問題児の見本のような少女だ。
が、彼女も先天的にリーと同じ力を持ち、人知れず魔物を倒してきていたという。

中等部では珍しく寮住まいである彼女たちは、人数が少ないからだろう、偶然にも相部屋となり、共に暮らすことになった。そこ御都合主義とか言わない。
授業を終えて、特に所属する部活も無くまっすぐに寮に帰ってきた2人。
何か部活にでも入った方が良いかしら、と言ったリーに、ロッテがそんな妙なことを言い出したのである。

「まあ、力うんぬんはともかくとして。そんな部活、あるの?」
退魔代行部、などという胡散臭い活動内容の部が、いくらおおらかな校風の私立校とはいえあるものだろうか。
リーが眉を顰めて問うと、ロッテはけろりとして言った。
「あるわけないじゃん、んなうさんくさい部活」
「あのねえ!」
「まーまーま。聞きなよ。カルシウム足りないよ?」
ロッテは手をひらひらさせてリーをなだめると、にやりと笑った。
「ないなら、作ればいいんだよ」
「つ、作る…?」
面食らった様子で、リーはロッテの言葉を繰り返した。
「そ。部員はボクとキミの2人でさ。妙な事件が起こってたら、調査して魔物退治します!って触れ込むわけ。
そしたら、キミのお仕事だってやりやすくなるわけでしょ?色々情報だって聞けるわけだしさ」
「んー……確かにそれはそうだけど…でも、どうしていきなり?」
リーは眉を顰めてロッテに問うた。
彼女の持つ力のことがロッテに知られ、またロッテが同様の力を持っていることを知り、彼女は自分がどういう出自で、何故この学校に来たのかを、ロッテには簡単に話している。
が、それはあくまで彼女個人の問題であり、ロッテにはなんらかかわりの無いことだ。それをなぜ、助けるようなことをするのか。彼女の性格からは、というと失礼かもしれないが、あまり考えられない。
「ん?なんでって、面白そーだから」
ロッテはけろりとして答えた。
「…それだけ?」
「そーだよ。他に何か理由がいる?」
リーが重ねて問うが、不思議そうに首を傾げて。
「今まで、こんなことしてんのボクだけだと思ってたけどさ。なんか、仲間が出来たみたいなカンジがしてチョー嬉しいんだよね。
学校終わっても特にやりたいこともすることもなくてぷらぷらしてたけどさ。キミとだったら、何かやってみてもいいかなって思ってさ」
言って、無邪気に笑う。
リーはまだ眉を寄せたまま、口を噤んだ。
確かに、彼女は今までずっと、一人で魔物と対峙し、それを滅してきた。彼女の他に同じような力を持つ者が居るなど知らなかったし、考えたこともなかった。それ以外の世界を知らなかった。
そんな中で。自分以外に、それも自力で、力を身につけ、魔物と戦っているロッテの存在を知り、嬉しかったのは確かだ。
リーは苦笑して肩を竦めた。
「…そうね。あなたとなら、それもいいかもしれないわ」
「でしょ!」
ロッテは嬉しそうに身を乗り出した。
「…でも、作ればいいって簡単に言うけど…どうやって作るものなの?」
「知らない」
「ちょっと!」
「よくわかんないけど、生徒会とかに申請すればいいんじゃないかなあ」
「いいんじゃないかなあって、あなたがやるんでしょ?」
「なんでボクが」
「あなたが言いだしたんでしょう!」
「きゃはは、やーだなー、ボクのこのナリで職員室だの生徒会室だの入ろうもんなら門前払い食うに決まってるじゃん。そこは優等生なキミのイメージでどうにかお願い♪」
「退魔代行部なんて胡散臭い部を申請する優等生がどこにいるのよ!」
「まーま。つーことで、後はよろしく頼むねん」
「もう…!」
お気楽なロッテの様子に、憤慨した様子で腕を組むリー。
しかし、何を言っても無駄だと判断したのだろう。小さくため息をつくと、言った。
「じゃあ…まあ、明日行ってみるわよ。生徒会室ってどこにあったっけ?」
「4階の一番奥だよ。そっか、リーはあんまよく知らないんだねえ。
会長は、見たらちょっとびっくりするかもしんないよ」
「会長?」
きょとんとするリーに、ロッテは意味深な笑みを作った。
「そ。ボクらと同じ学年なんだけど、1年のときに立候補してそのまま当選しちゃったんだ。そのまま続けて会長やるんじゃないかな?
そんだけ優秀で、ま、カリスマってゆーのかな。そゆのがあるヤツなんだと思うよ」
「へえ……びっくりするような外見なの?」
「やー、まあね。でも、キミはさほどびっくりしないかもしんないね」
「…どうして?」
「見りゃわかるよ」
「…?」

「4階の一番奥…っと。ここね」
生徒会室、とかかれた札を見上げ、リーは足を止めた。
昨日のロッテの意味深な言い草が気になったが、まずは行ってみないことには何も始まらない。
放課後になる前にロッテはさっさと姿を消してしまったし、リーはひとまず一人で生徒会室にやってきた。
こんこん。
ノックをして、横開きのドアを開ける。
「失礼します」
通常の半分ほどの手狭な教室に、会議用の机が四角く並べられている。
壁にはグラフの書かれた大きな表と、標語のポスターのようなものが所狭しと貼られているが、全体的に整然として清潔な印象があった。
「クラブの申請についてお聞きしたいことがあるんですが…」
言いながら、教室の中に居る生徒へと視線を移す。
入り口近くに居た女生徒がしばらく驚いたような表情でリーを見ていたが、気を取り直して立ち上がり、彼女に歩み寄った。
「…っと、ごめんなさい。いきなり見慣れない人が入ってきたものだから、びっくりしちゃって」
言われ、自分の銀髪のことを言っているのだと理解し、リーはにこりと微笑み返す。
「あ、気にしないで下さい。今度2年D組に転校してきた、天司といいます」
リーの笑顔に安心したのか、女生徒はにこりと微笑み返した。
「私は3年の篠塚。ここで書記をしてます。よろしくね」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「えっと、クラブの申請?」
「あ、はい。新しいクラブを作りたい場合は、どうすればいいんでしょうか?」
「新しいクラブ、か…申請は出来ると思うけど、会長の許可がないと難しいかもしれないな。部費の問題なんかもあるし…」
「あ…やっぱりそうですよね。会長は…」
「今は所用で職員室の方に出かけてるわ」
会長に話を向けたとたん、篠塚の表情がぱっと明るくなる。
いくらそちらの経験が無くとも、彼女が生徒会長に対して好感以上の気持ちを抱いていることは明らかに見て取れた。
『ま、カリスマってゆーのかな。そゆのがあるヤツなんだと思うよ』
ロッテの言葉に、なるほどね、と口には出さずに呟く。
「じゃあ、出直してきた方が……」
「僕ならここに居ますよ」
難しい顔をして呟いたリーの後ろから、穏やかな声がかけられた。
「会長!ちょうどよかった」
篠塚の表情がさらに輝く。
リーが振り返ると、入り口に一人の少年が穏やかな笑顔で立っていた。
「!……」
言葉も無く、目を見開くリー。
そこに立っていた少年も、窓から差し込む日の光を受けてキラキラと輝く、金の髪を持っていたのだ。
肩にかかるほどの金の髪を、後ろでひとまとめにして山吹色のリボンでくくっている。が、彼の持つ穏やかでどことなく高貴な雰囲気が、それと嫌味無く似合っていた。
彼はにこりと微笑むと、戸を閉めて教室の中に入ってきた。
「D組に転校して来た、天司さんですね。お話は聞いていますよ」
そして、リーの前に立つと、す、と右手を差し出す。
「生徒会長をしています、A組の更科江蘭です」
(さらしな…えらん)
口の中で名前を繰り返して、リーは差し出されたその手を握り返す。
「天司梨羽…です」
ぴり。
「…?」
手を握った瞬間にわずかに駆け抜けた、電気が走ったかのような違和感に、リーは僅かに眉を顰めた。
更科は手を放すと、笑顔で続けた。
「僕みたいな髪をした転校生が来たって、噂になってたんですよ。なんだか、仲間が出来たみたいで嬉しいな」
「あ…母方の祖母が、ヨーロッパの生まれで。あたし自身は、日本語しか喋れないんですけど」
「そうなんですか。僕は、父がアメリカ人で。こちらに来て、母の家に籍を入れたんですよ。何度か向こうにも行ったことがあって、一応一通りは喋れます」
「そうなんだ…すごいですね」
「大したことじゃないですよ」
更科は再びやわらかく微笑んで、篠塚の方を向いた。
「少し聞いていました。クラブの申請…だそうですね。書類が、そちらの棚に入っているはずです。取ってもらえませんか?」
「あ、はい」
篠塚は言われるままに更科の指し示した棚を開ける。
「さ、ここに座ってください」
そちらは任せた様子で、更科はリーに椅子に座るよう勧めた。言われるままに腰を下ろしたリーの正面に移動すると、彼もそこに腰をかける。
「それで…どんな部を作りたいんですか?この学校にはもうすでに色々なクラブがありますが…それではご満足いただけていないんですよね?」
「あ…満足しないっていうか…ええと、あたしのやりたいことは無かったから…」
「では、どんな活動を?」
「ええと………」
リーは言いにくそうに視線を泳がせた。
言われた書類を探し当てた篠塚が、彼女の前に紙を一枚とボールペンを差し出す。
『新規部活動申請書』と書かれた正式な書類。
彼女は諦めたようにため息をつくと、言った。
「退魔代行部…というんですが」
沈黙。
更科も篠塚も、無言のままきょとんとしている。
むしろ、何を言われているのか理解できない、といったようで。
「あの…それはいったい、どんな活動内容の…?」
篠塚が怪訝そうな表情で言い、リーは複雑な表情のまま答えた。
「ええと…奇妙な事件を解決するお手伝いをする…というか」
「奇妙な事件、というと?」
更科が問い、そちらを向く。どう言っていいかわからず、言葉を探しながら。
「…一般的には、幽霊とか悪魔とか言われるような類の、です」
再び沈黙。
篠塚の、すでに怪訝を通り越して胡散臭そうな視線が痛い。
対する更科は、あくまで真面目な表情だ。
「オカルト研究…のようなものですか?学園内の奇妙な現象を調査する、といったような」
「はあ…まあ、そんなようなものです」
すでにかなり説明する気力も失せてきた。
「…確かに…そういう類の部活は無いですけど…」
篠塚は判断に迷う様子で、更科の表情を覗っている。
更科は俯いて考えた。
「部活動にあまり制限は設けたくありませんが…活動内容が少し不明瞭なのも気になりますね」
不明瞭というだけの問題か?
側にいた篠塚はおろか、リーまでもが無言で訴える。
更科はにこりと微笑んだ。
「では、こうしましょう。
どのような活動内容であるのか、僕に実地で見学をさせてください」
「はぁ?!」
思わず大きな声を上げるリー。
篠塚も目を丸くして更科の方を見ている。
彼はその反応を特に気にした風はなく、にこにこ笑いながら続けた。
「どのようなものか見せていただいて、特に問題が無ければ、学校側に書類を回すことにします。
それでよろしいでしょうか?」
「はあ……あたしは構いませんけど……」
リーは複雑な表情のまま頷いた。
篠塚は最後まで、呆然とした表情で更科を黙ったまま見つめていた。

「あの……会長?」
「名前で呼んでいただいて構いませんよ。会長に選ばれはしましたが、僕はまだまだ若輩者ですし。皆さんのご助力があって初めてきちんと仕事をこなせているのですから」
更科はにこにこしながら、リーと並んで歩いている。
「えっと…更科くん?」
リーは名前を呼びなおして、改めて訊いた。
「その…自分で言うのもなんだけど、どうしてこんなうさんくさい部、門前払いにしなかったの?」
更科はくすりと笑った。
「本当に、ご自分で仰るのも奇妙なものですね」
そうして、顔を僅かにリーの方に向ける。
「そうですね…先程も申し上げました通り、部活動にあまり制限を付けたくはないのですよ。生徒の皆さんが本当に打ち込めるものを、できるだけ自由にやっていただきたい、というのが僕の願いです」
「ふーん……」
非の打ち所のない回答に、リーがどこか浮かない返事を返す。
「天司さんこそ」
更科は微笑んだまま、リーに話を振った。
「何故、このような変わったクラブを申請しようと?オカルトに興味があるんですか?」
「興味……っていうか」
リーがあさってのほうを見て言葉を濁すと、ふ、と表情を崩す。
「…そちらの能力が、おありとか?」
「えっ」
ぎくりとしてリーがそちらの方を見ると、更科はまた微笑んだ。
「この世ならぬものを見たり…対話をしたり。あるいは、倒したり…という能力がおありなのかな、と思って。違いましたか?」
にこにこと、無邪気な微笑み。
「…………」
リーは用心深く、彼を観察した。
特に、何かが憑いているようには見えないが…それを抜きにしても、一般人に能力のことを話すのはあまり褒められたことではない。が、彼に部活の内容を披露しないことには、申請が認めてもらえないかもしれない。
どう、答えるべきか。
リーは一呼吸置いて、ゆっくりと頷いた。
「…信じてくれるの?」
更科は笑みを深くした。
「自分で体験をしないうちから、ありえないと決め付けてしまうのは簡単ですが…僕は、そうしたくはない、というだけの話ですよ」
「………」
リーは黙ったまま彼を見つめている。
「この学校にも、いる、のですか?そういった存在が」
彼は世間話でもするかのように、歩きながら話を続けた。
「…大抵の学校には、多かれ少なかれいるものよ。たくさんの人の想いの集まるところには、それを狙って多くのものが集まる…学校に奇妙な話が多いのは、そのせいかもしれないわ」
「なるほど…今向かっているのは、そういったものが…」
「…よく、出そうな場所。気の流れが滞っていて、澱んで固まる場所」
リーは更科から視線を逸らし、まっすぐに前を見て、足を止める。
この学校に初めて来たときに、影の襲撃をうけた場所。
うっすらと…姿を隠してはいるが、今日もはっきりと見て取れた。
「……下がってて」
短く更科に言い渡して、リーは身構えた。
辺りには誰もいない。いつの間にか日も暮れかけ、人通りのあまりない校舎の最奥には不気味な雰囲気が漂い始めている。
始めは、目に見えない。
しかし、だんだんと空気からにじみ出るように、黒い霧のようなものが形を取り始める。
以前のように多くはない。2体…いや、3体。角のついた異形の姿をしたものが、声も無くリーにじりじりと近づいてくる。
「……はっ!」
リーが無言で気力を解放すると、その手に音も無く光る剣が現れた。
それに呼応するかのように、ゆらり、と影たちが動き始める。
間合いを測るように、じりじりと。
しかし、ある一瞬を境に、3体が同時にリーに飛びかかってきた。
「……っ」
リーは剣を構えたまま、無言で最初の一撃を下がってかわす。そのまま、流れるようにくるりと身を翻して影に斬りつけた。
「ギャアァァァッ!」
空気を震わせぬ悲鳴が響き、音もなく影が塵となる。
続いて、2体、3体。鮮やかに影を斬りつけ、あっという間に全てを塵へと返していった。
「……ふう」
息をついて光の剣を消し、リーは更科を振り返る。
「…と、こういうようなことをしたいの」
更科は少し驚いた様子で彼女の方を見ていたが、ほどなく笑顔で手を叩いた。
「すごい、ですね。びっくりしました」
特に怯えた様子もなく、彼女の方に歩み寄ってくる。
「なるほど…こういう存在が本当にあって、それが引き起こす事件を解決するというのなら、それは必要なことなのかもしれませんね」
もっともらしく頷きながら言って。それから、彼女に向かってにこりと微笑んだ。
「わかりました。申請を許可しましょう」
リーはしばらく彼をじっと見つめてから、少しだけ表情を崩した。
「…ありがとう」
「そのかわり。もうひとつだけ、条件をつけていいですか」
笑顔のまま更科が言い、リーはきょとんとした。
「…条件?」
更科は笑みを深くすると、そのままの調子で言った。
「僕を、この部に入れてください」
「……えぇ?!」
驚いて声を上げるリー。
「って、あなた、いまやってたこと見てたの?!」
「ええ、見ていましたよ。素晴らしかったですね」
「…っ、じゃあ、こんなこと、普通の人には…」
「でも」
更科は言って、リーの肩をポン、と叩いた。
「……?!」
そのまま、彼女をぐいと押しのけて、その背の後ろに身体を移動させる。
「グギャアアァッ!」
いつの間にそこにいたのだろう。彼女のすぐ後ろにいた黒い影が、悲鳴を上げて塵になった。
「!………」
更科の手には、山吹色に光る細い棒のようなものが握られている。
リーは驚いて彼を振り返った。
彼は手を開いて棒を消すと、顔を上げて微笑んだ。
先ほどの優しい笑みとは違う…鋭くて、挑戦的な微笑。

「…このくらいのことは、俺でも出来る、ってことさ」

ついさっきまでとはまるで違う口調に、目を見開くリー。
「……っ、あなた、一体…?」
更科は面白そうに笑みを作った。
「噂は聞いているよ、天司の後継の娘。ずいぶんと来るのが遅かったな」
その言葉で、理解して表情を引き締める。
「あなた……」
「天使様の血をひいている一族は、何も天司だけじゃないって話だ。もっとも、更科は天司ほどメジャーじゃないがね」
肩を竦めて、更科。
リーは無言で、目の前の少年を見つめた。

自分と同じ、退魔の使命を負った一族である、この少年を。

「…あり。階段ひとつ間違えたかなあ。ここってちょっち造り複雑だよねえ」
眉を潜めて、ロッテはきょろきょろと辺りを見回した。
あたりはすっかり茜色に染まり、行き交う生徒もまばらだ。クラブの時間も終わり、ほとんどの生徒が校舎を出てしまっているのだろう。
「…んっと。美術室……か」
何の気なしに、目に入った教室の札を読み上げる。
そして中に目をやると、まだ教室の中に誰かが残っているのが見えた。
戸を開け放しで。窓から差し込む夕日に紅く染め上げられた人影。
美術部なのだろうか。大きなキャンバスを前にして、教室の中に一人静かに佇んでいる、長い黒髪の生徒。
(うえ……なんだ、あれ)
キャンバスに描かれていたのは、渦を巻く黒っぽい地に赤いものが点々と散らされた抽象画。あまり気分のいいものではない。
ロッテが眉を潜めると、キャンバスの前に座っていた生徒が彼女に気づいたようだった。
ゆっくりと振り返る。
「……!」
ロッテの身体が硬直した。
彼女と同じような、色黒の肌。優しげな瞳を隠すようにかけられた眼鏡。少女のような可愛らしい顔立ちに、長い髪は右肩に垂らされ紐でまとめられているが、着ている制服からすると男子生徒であるのだろう。
「……っ」
ロッテは、何故彼から目が離せないのか理解出来なかった。
理解できぬまま、うわごとのように口を開いて、搾り出すように問う。
「……キミ……だれ…?」
少年は微笑んで立ち上がり、ゆっくりと彼女に歩み寄った。
「…禍宮、綺琉…といいます」
(まがみや……きる…!)
ロッテの目が見開かれる。
禍宮と名乗った少年は、彼女の前に立つとにこりと微笑んだ。

「やっと…お会いできましたね。瑛莉」

その言葉に、ロッテがぎっ、と彼を睨み上げる。
彼はそのことにすら、嬉しそうに微笑んで首を傾げた。

茜色の光が薄れ、徐々に暗闇へと姿を変えていく。
この学園で、何かが始まろうとしていた……。

School club of Acting for Demons-killer “HALF & HALF” The End? 2006.10.18.KIRIKA

…KIDS COMPANYになる前のサイトで1万ヒットしたときに書いた学園モノパラレルの続きです(笑)
まああの、自己満足なわけですが(笑)でもキリ番で書いた体育教師が結構好評だったし…(笑)調子に乗って書いてみました。
…まあ別に、特に続きを考えてるわけじゃないんですけど(笑)こんなのよくあるよねってことで(笑)エリーとキル出せたから満足かなっ(笑)