「おはようございます」
「おはよう」
「おはよー」
学園祭開始30分前。
グラウンドの一角に設けられたフリーマーケットの会場では、生徒会メンバーの先導の元、着々と準備が進められていた。
事前に出店登録をした生徒たちが、大きな荷物を抱えて自分のブースへと足を運んでいく。衣服や日用品、手作り雑貨、中には自作の詩などを並べる者もあり、場内は早くも熱気にあふれていた。

「おはようございます!」
大きなリュックサックを背負って現れた少年。名は風亜利那といった。名前が女の子のようでコンプレックスなので苗字と繋げて「ファリナ」と呼ばせているが、そちらも微妙に女子くさいのに本人は気づいていない。
リーはファリナににこりと微笑みかけた。
「おはようございます。学年とお名前をお願いします」
「高等部1年、風亜利那です」
「風亜……はい、確認しました」
登録者名簿を確認し、出席の欄にチェックを入れて、傍らの箱に入っていたバッジを手渡した。
「出店中は、こちらのバッジをつけていてください。場所はこちらの、Bの41番になります」
「わかりました、ありがとうございます!」
ファリナは元気に返事をすると、楽しそうに中に入っていった。

「おはようございまーす」
「あっ、ノエマ先生。おはようございます」
続いて現れたのは、中・高等部家庭科教諭の辺留那乃恵眞。大学入学時と教員採用試験時に大量の裏金が流れたとまことしやかに囁かれるほど、壊滅的な家事能力を持つ家庭科教諭で、彼女の実習授業の時には爆発音と異臭騒ぎが絶えない。
「…ず、ずいぶん大きな荷物ですね……それ、全部?」
「はい、私の手作りですよー!もれなく私のサイン入りです!」
「そ、そうですか……あの、じゃあこちらのバッジを…」
リーはとりあえず深入りは避けて、ノエマにもバッジを手渡した。
「はいはい、了解ですよ!では、いってまいりまーす!」
ノエマは上機嫌で大量の荷物を担いだまま中に入っていく。
それを微妙な面持ちで見送るリーの後ろから、エリーが近づいてきた。
リーにだけ聞こえる声で、ぼそりと話しかける。
「……やばいな」
「ええ……皆崎会長に連絡して」
「了解。お前はここ動くなよ」
「わかったわ」

「よしっ、完璧です!」
ばばん。
と口で言って、ノエマは満足そうに胸を張った。
ノエマのブースには、一面に広がる謎の物体。
早くも両隣のブースの生徒がドン引きしている。
「……おはようございます、辺留那先生」
「おはようございます」
そこに、セイカが顔を出した。後ろにはアスも控えている。
笑顔で迎えるノエマ。
「おはようございます、いいお天気になってよかったですね!今日は1日がんばりましょうね!」
「はい。先生は、どのようなものをお持ちですか?」
落ち着いた様子で問うセイカ。
ノエマは嬉々として商品の説明を始めた。
「まずはこれです!私の特製ケーキ!自信作なんですよ!ちゃんと味見もしました!」
「そうですか……拝見させてもらっても?」
セイカは言って箱を手に取り、蓋を開ける。
と。
さあぁぁぁ……
おそらく箱の中にあったであろう何かは、蓋を開けたとたん灰となって空へと散っていった。
「あららら……どうしちゃったんでしょう」
不思議そうに空を舞う灰を見ながら言うノエマに。
「直射日光に耐えられなかったのでは…」
「役目を終えて天に還ったんですよ…」
口々につっこむセイカとアス。
ノエマは何事も無かったかのように商品の説明を続けた。
「次はこれです!アヒルちゃん!」
手に取ったのは手の平サイズのアヒルのおもちゃ。
可愛らしいおもちゃに思わず笑みを浮かべるアス。
「お風呂の時に浮かべて遊ぶものですよね」
「はい!しかもこのおもちゃ、なんとお湯につけると100倍の大きさに変身するんですよ!」
「あっという間に圧死します」
速攻でツッコミを入れるセイカ。
「あっ、でも冷たい水をかけると元に戻るんですよ!」
「どこの呪泉郷に入れられたんですか」
「セイカさん、年齢制限のあるネタは危険です。それにお湯と水が逆です」
懐かしいですね。
ノエマの商品説明は続く。
「こちらはなんと!エコな時代の波に乗った、太陽光発電の懐中電灯です!」
「やっとまともなものが来ましたか…」
「ただ、蓄電機能はありませんので、光のないところでは電気がつきません!」
「前言撤回します」
「そしてこちらが!今は亡き瀬田先生をリスペクトして作りました!ダンシングフラワーです!」
「勝手に殺さないで下さい」
「気まずい空気に反応して、それを解消してくれるすぐれものなんですよ!!」
「もっと気まずくなるような気がするんですが…」
「確かに瀬田先生はリスペクトしているようだな」
「そしてこちらが真っ赤な学ランです!かっこいいでしょ!」
「目が痛いですよ…」
「誰が着るんですか」
「そしてこちらが、暇を持て余した私がパッションに任せて描き綴ったみかんアートです!」
「……この、一箱分のミカン全部に顔を書いたのですか…?」
「この苦痛の表情とか絶妙ですね…」
「お次はこちら!スケルトン遮光器土偶です!」
「コメントのしづらい代物ですね…」
「ちなみに、遮光器土偶は目の部分が遮光器に似ているというだけであって、それ自体が遮光器の役割を持っているわけではないんですよ!」
「これ以上ないくらいどうでもいい豆知識ですね…」
「セイカさん、遮光器って何ですか?」
「エスキモーが雪中行動をするために装着するゴーグルのようなものだ」
「本当にどうでもいいですね…」
「そしてこちら!プレミア物ですよ!私が学生の頃から溜めている期限切れ定期券20枚セットです!」
「プレミアであればいいというものではないという典型ですね」
「こちらは画期的ですよ!魔法のペンです!!」
「魔法の……?」
「ほら、見てください!こうやって紙に書くと……ほら!書いてることとは全然関係ない詩的な文章が浮かび上がってくるんですよ!」
「構造を知りたいという意味ではすごいですがペンとしての存在価値はないですね」
「そして、こちらも新発明です!お箸をなくさないお茶碗!」
「……茶碗に箸が接着されているように見えますが……」
「ええ!私、しょっちゅうお箸無くしちゃって困ってるんですよー。こうすればもう無くさないですよね!」
「無くしはしませんが使えもしませんね」
やる気満々で商品説明をしていくノエマと、それを片っ端からばさばさと切り捨てていくセイカ。
一通り商品の説明が終わったところで、セイカは嘆息してアスの方を向いた。
「………アス」
「はい」
アスは苦笑して、ノエマのブースの前にしゃがみこんだ。
「申し訳ありません、辺留那先生。失礼しますね」
言って、アスは次々と問題のある商品を撤去していく。

結局残ったのは学ランと遮光器土偶だけになった。

「あははーあれーおかしいですねー」
陽気に笑いながら2つだけの商品が並べられたブースに座っているノエマを、両隣の生徒は生暖かく見守っていたという。

「こんにちはー、どうぞ見ていってくださいね!」
開場し、一般客もぞろぞろと足を踏み入れる中。
異様に髪の長い日本人形や犯人の名前にマーカーの入った推理小説など微妙な品物が並ぶファリナのブースは、案の定閑古鳥が鳴いていた。
会場の一番隅に割り当てられたのもあるし、ファリナ自身も積極的に呼び込みなどをしていないのだが、あまりの客の来なさにさすがにファリナもため息をついた。
「う~ん、お客さんあんまり来ないなぁ」
残念そうに自分の商品を眺めて。
「商品の並ばせ方がいけないかな、ちょっと整理してみよう!」
問題はそこにはないのだが、今ファリナにそれを指摘する者はいない。
ごそごそと商品を漁るファリナは、ふと見覚えのない箱を見つけた。
「……あれ?なんだろうこんな箱あったっけ?」
B5のノートほどのサイズのコンパクトな箱。

だが、その蓋にはでかでかと『時限爆弾』という文字が古印体で書かれている。

「じっ……?!え、こんなの持って来…るわけないよな……」
ぎょっとしてまじまじと箱を見るファリナ。
「時限爆弾、って……まっさかぁ…」
半笑いでとりあえず蓋を開けてみる。
と。

「やぁ、私の名前はミスター・ボンバー!この爆弾を解除しなければ、こいつと学校中に仕掛けてあるたくさんの爆弾が火を噴くぜ!!」

蓋を開けたところにさらに金属製の箱があり、その傍らのスピーカーからそんな言葉が聞こえてきた。
「…え、爆弾?!学校中?!というかなんで喋るんですか?!」
冷静に考えれば爆弾が喋っている訳はないのだが、ファンタジー発想が抜けていないファリナはまともに爆弾に向かって問いかけた。
「喋らねぇ爆弾はただの爆弾だ」
カッコつけてどこかで聞いたようなセリフを吐く爆弾。
「今時はこれくらいしないとな!」
「それは分かりましたけどどどどどうしようあわわ……」
ファリナが爆弾の蓋を持ったままオロオロしていると。
「おやー?どうしたのですか、ファリナくん?」
暇を持て余して他ブースをブラブラ見て回っていたノエマが声をかけてきた。
「の、ノエマ先生!先生もフリマに?」
地獄に仏とばかりに安堵の表情でノエマを見上げるファリナ。実際は地獄に破壊神くらいの勢いなのだが。
「はいっ、張り切って参加したんですけど生徒会の皆さんに売り物持ってかれちゃってー、残りの売り物でがんばってたんですけどなんだか皆さん私の周りのブースの方に興味があるみたいで何故か暇なんですよー」
「そ、それはノエマ先生のブースが遠巻きにされてるんじゃ…」
「で、ファリナくんはどうしたのですか?このノエマ先生になんでも任せておきなさい!」
「今急に任せたくない気分になってきましたが背に腹は代えられません!」
ファリナは再び泣きそうな顔でノエマにすがりついた。
「実は何故か喋る爆弾がボクの売り物の中に紛れ込んでいたんです~どうしましょう~」
ノエマは驚くそぶりも無く、爆弾を見下ろしてうんうんと頷いた。
「なるほどこの爆弾を再起不能にして東京湾に沈めればいいんですねわかります!!」
「いえあの、これ爆弾ですよ?くれぐれも取り扱いには注意してくださいね?」
早くもノエマに頼んだことを後悔し始めるファリナ。
ノエマは自信満々でぐっと親指を突き出した。
「おーけー待ってな相棒、今、この場で、ふるぼっこにしてやんよ!!」
某巨大掲示板のスラングを恥ずかしげも無く口に出しながら、いきなりシャドーボクシングを始める。
全く頼りになりそうにないどころか事態を悪化させる予感しかしないノエマに、ファリナはただ慌てた。
「え、ちょっと待ってくださいってば!」
「ワンツー!ストレート!」
「うわわ、ちょっ、止めてー!しまったこういう人だった!」
「お前らいい加減に解除しようとしやがれ!」
さすがに苛ついた様子で爆弾から声が響く。
「あとそうだ、こういうのはお決まりでな、『これ以上誰かにばらしたら遠隔操作で爆発させるぜ!』」
「「な、なんだってー?!」」
早くも染められてしまったファリナとノエマが声を揃えてそう叫び。

ここから最悪ハチャメチャコンビによる手に汗握る爆弾解体ショーが始まるのだ!

「まずは第一問!」
ノリノリで、爆弾は2人に告げた。
「4桁の数字のパスワードを解読して見やがれ!ヒントは『今を生きろ』!間違ったら罰が待ってるぜ!」
「えっと、ともかく数字を入れなきゃいけないみたいです!なんでも良いから入れていきましょう!」
「おいヒントを聞いていたのか?」
すっかりツッコミ側に回っている爆弾をよそに、ファリナとノエマはスピーカーの下についているナンバーボタンを手当たり次第に押していく。
「では、4649(よろしく)とか!」
「はい!よろしく!」
ノエマの指示に従ってファリナがボタンを押すと、その小さい箱のどこに収納されていたんですかというような赤いグローブがファリナの顔にぼすっと炸裂した。
「おきまりっ!」
「では、0840(おはよお)とか!」
「はい!おはよお!」
べん、とどこからか落ちてくるタライ。
「古典的っ!」
「では、0930(おくさま)とか!」
「はい!おくさま」
ぷしゅー、と顔面に白い粉が噴射。
「これもよくあるっ!」
「では、8931(はくさい)とか!」
「はい!はくさい!」
びびびびび、と電流が流れる。
「やめて!」
「では、6741(むなしい)とか!」
「はい!むなしい!」
ボタンの上にある時限カウンターが一気に減った。
「本当に止めてー?!」

などと、2人が漫才に近い解体ショーを展開させていると。
さすがに、騒ぎを聞きつけて人が集まってくる。
「ノエマ先生?どうされたんですか?」
声をかけてきたのはリーだった。後ろにエリーも控えている。
やば、という顔をして二人のほうを向き、箱を隠すようにあわあわと手を動かすファリナ。
「…い、いえなんでもないですよ!」
しかし却ってその動きが怪しく、リーはファリナの横から箱を覗き込んだ。
「なんですか?それ………時限爆弾?」
傍らに落ちていた箱の蓋の字を読み上げると、ノエマがあははと笑い声をあげる。
「そのとおりこれは爆d」
「これは時限爆弾みたいなおもちゃなんです、売り物の一つでして!」
いきなりぶっちゃけようとするノエマを遮って、ファリナが大声でフォローをした。
「色んな仕掛けがあるんで試していたんです!しかしちょっと危険なので売るのをやめようかと思っていて!」
「だから本当に爆弾むぐっ」
「本当に爆弾発言をしてしまって申し訳ありません、だそうです」
やはり漫才めいたやり取りに眉を顰めるリー。
意見を求めるようにエリーに視線をやると、彼は仕方なさそうに苦笑した。
「…あまり騒がしくしないで下さいね?そして、本当に危険なものならばこちらでお預かりしますから、早めに連絡をお願いします」
「はっ、はははいわかりました!」
動揺したままのファリナの様子に若干眉を顰めながら、それでもエリーはリーを連れてその場を去った。
リーが何でもありませんよ、と言いながらその場を離れたことで、集まりかけていた野次馬もまた散っていく。
「……危なかったぁ」
ファリナはほっと胸をなでおろして、ノエマに向き直った。
「ノエマ先生、ばれたら大変なことになるんですよ?!隠して行かないと!」
「はい、ばっちりおっけーです!!」
全く反省していない様子のノエマに、ファリナはようやく自分が2つも爆弾を抱え込んでしまったことを自覚して青ざめるのだった。

一方、ファリナのブースを離れたエリーは、僅かに眉を寄せてリーに囁いた。
「…まずいな」
「ええ……」
同じく危機感を表情に出して、リー。
「…避難の用意を。退路を確保してくれ」
「了解。あなたは皆崎会長の方に」
「ああ。頼んだぞ」
低くそう囁きあって、2人はさっと早足で別方向に去っていった。

「なかなか当たりませんねー」
「いい加減に当たらないと爆発しなくてもボクは死ぬんじゃないかな…?」
生徒会という危機が去った(か?)ところで、さらにパスワードを試すこと十数回。
間違うたびに強烈なツッコミをくらうファリナはすでにボロボロだ。
「まさか今日の日付なんて簡単ではないですよねー」
「えぇ…でも一応入れました」
ぴぽ。
今日の日付を入力すると、呆れたような爆弾の声。
「いや、それだよどう考えても…当たったから次の段階進むけどさぁ…」
沈黙する2人。
やがてファリナが、抑えた声で呟いた。
「……なんでしょうこの憤りは……」
「俺 の セ リ フ だ」
憤りのこもった爆弾の声がスピーカーから聞こえる。
「はー……俺、何でこんなスットコドッコイのところに来たんだろうな…」
「えっとそれ僕怒るところですよね?」
「まあいい。次はちょっとしたお遊び、なぞなぞだ!これに正解すればヒントをやろう!」
「えーっ、なぞなぞですかぁ?」
ファリナはあからさまに眉を顰めた。
「ボクはこういうの苦手なんですよねー、ノエマ先生は?」
「ふふん、この私に任せておきなさい!こんなの一発です!」
根拠のない自信満々で胸を張るノエマ。
爆弾は早速問題を出した。
「では第1問。パンはパンでも食べられないパンは?」
「ノエマ先生のパンは食べられないと聞いたことがあります!」
「購買のパンって人気高いのはすぐ売り切れて買えないんですよねー」
「ある意味あってるけど不正解、フライパンだよ!次!」
苛々した様子で、爆弾はさらに問題を出す。
「第2問。新聞に載っている鳥は?」
「新聞は…ごめんなさい読まないんです…」
「新聞に載っていると言えばテレビ欄!」
「違います」
「じゃあ4コマ漫画ですね!」
「違います」
「他は読まないのでわかりませんねー」
「なんだそのどや顔。お前ひとっつも正解でもなければ上手いことも言ってねえぞ?!」
どこから見ているのか、ノエマの表情につっこむ爆弾。
「ええい、お前らなぞなぞをなんだと思ってる、答えは記事、キジだ!次!
第3問!氷を一瞬で水にしちゃう方法は?」
「炎でやっちゃいましょう!汚物は消毒です!」
「実力行使は違うぞ?」
「時は加速するッ!!!とか?」
「ジャ○プネタで押す気なのか?!答えは『点』を取るだ!」
「え゛、テストで点を取るのは苦手です…」
「その点じゃない、だがもっと勉強頑張れよ!」
「ありがとうございます、ちょっとやる気出ました!」
「まずはなぞなぞに正答するやる気を出せ!」
ファリナとノエマのボケ倒し乱れ打ちに息つく間もない爆弾。がんばれ爆弾。
「ええい、次!さて、これは第何問?」
「確かにさっきから大難問ですね…」
「誰がうまい事言えと?!」

そんなボケツッコミが乱れ飛んでいれば、当然また人が集まってくる。
今度はセイカとアスがファリナのブースにやってきた。
「…なにやら騒がしいようですが、本当に何をやっているのですか…?」
セイカが声をかけると、びくうと肩を震わせて振り返るファリナ。
「ナニモヤッテオリマセンヨ?ネェノエマセンセイ!」
「そうです、何故か紛れ込んでいた時限爆弾を解体しているなんてことはありませんから!」
ノエマの絶望的なフォローに滝のように汗を流すファリナ。
セイカは困ったような無表情でアスを振り返り、アスは苦笑して身を屈めた。
「……その箱、少し見せていただけますか?」
「は、はいいぃぃぃっ?!」
ファリナは素っ頓狂な声を上げてきょろきょろと辺りを見回した。
「そ、それよりノエマ先生の商品はどうですか?」
「そうですね、せっかくだから私のお店の商品を買うべきですよ!あと2つしかありませんけど!」
「それは知っています」
「いえいえ、まだまだ!他にも私の家庭科力を結集させた商品が108個くらいありますよ!!まだ家庭科室に用意してありますから、今から取ってきましょうか?!」
脅しではなく素で言っている様子のノエマに、セイカは僅かに眉を顰めた。
「…それは勘弁して頂きたいですね……では、私達は退散しますが、くれぐれも騒ぎにならないようお願いいたしますよ」
「はいっ!このノエマにお任せください!」
「任せられないから来たんですが……」
セイカは嘆息して、それでも家庭科室の108つの方が気になったのか、アスに指示をしながらその場を去った。
再び安堵の息をつくファリナ。
「ふぅ、今度こそばれるかと思った……」
「商品が売れませんねー残念ですー」
「それに関しては爆弾解体手伝っていただいてるボクにも責任があるのでコメントしづらいです!」
ノエマの商品が売れないことに関してファリナに責任はないのは明らかだが。

それからも何問かなぞなぞは続いたが、一向に答えの出せない2人。
「あああどどどどうしましょう、あと1分ですよ?!」
「大丈夫ですよ、信じるものは必ず救われます!」
慌てた様子のファリナに、もはや神に頼る気満々のノエマ。
爆弾は苛々した声で喚いた。
「もういいよ!お前らにこんな問題出したのが間違いだったよ!仕方が無いから次に進むよ!」
ぱぁっと表情を輝かせるファリナ。
「え、いいんですか?!ありがとうございます~!!」
「犯人相手に感謝すんじゃねえええええ!!」
ぱきょ。
爆弾の声と共に、爆弾の中蓋が音を立てて開く。
「さぁ、俺はここにある赤か青の配線を切れば止まる!もちろん失敗すれば爆発だ!さぁ究極の二択に苦しむがいい!ふはは!」
爆弾の言葉通り、中蓋を開けると、中には色とりどりの配線が複雑に絡まりあっていた。
先ほどとは別の意味で表情を輝かせるファリナ。
「う~む、やはり最後はこの展開ですね!燃えてきます!爆弾さんもこれをやりたかったんですね!」
「う、うるさい!ともかく早くしないと時間が無いぞ!」
微妙にツンデレな爆弾。
ファリナはうーんと眉を寄せた。
「ボ、ボクは運が無いしなぁ…ノエマ先生、ここはバシッと選んじゃってください!」
「わかりました!」
ノエマは例のごとく自信満々に頷いた。

「私今日のラッキーカラーオレンジなんですよ。だからオレンジ切りましょう!!」
「「話聞いてたんですか?!」のか?!」

斜め45度上からきりもみ落下で飛んできたノエマの結論に、思わずシンクロでつっこむファリナと爆弾。
「とりゃあー!」
あまりのことに呆然としているファリナをよそに、ノエマはどこから取り出したのか大きな裁ちバサミをすでにオレンジの配線に引っ掛けていた。
「ぎゃーもう終わりだー!!」

ぶつ。

「…ってあれ?」
思わず目を閉じて頭をかばったが、一向に爆発の衝撃がない。
恐る恐る目を開けると、やはり爆弾はノエマのすぐそばで先ほどの状態のまま鎮座していて、ノエマは裁ちバサミを上に掲げたまま勝ち誇った顔をしている。
「え……爆発……しない……?」
ひたすらきょとんとするファリナ。
すると、爆弾から抑え気味の笑い声が響いた。
「ふふふ、なかなかやるな!想定外の線を切って無理やり爆弾を止めるとはさすが私が見込んだ男。今回はお前の勝ちということにしておいてやろう!」
「私男じゃないですよー?」
「ツッコミそこ?!」
ノエマとファリナの天然砲をスルーして、爆弾はぷしゅーと下から煙をあげて浮き上がった。
「ではまた会おう、さらばだ!!」
しゅわわわわ、どーん。
爆弾はそのまま空高く浮き上がり、そこで花火となって美しく散った。
同時に、どういう仕組みか、学校中から花火が打ちあがる。
あまりの大騒ぎ+生徒会がそれとなく避難誘導をしていたのですっかりファリナのブースの周りから人がいなくなっていたのだが、それでもフリーマーケット会場をはじめ校庭にいた人々は歓声と共にそれを見上げた。
「はぁ…どうなることかと思いましたけど…まぁ良かったです、ありがとうございました~」
安堵のあまりへたり込むファリナ。
ノエマはうんうんと頷いた。
「正義は必ず勝つ!ですよ!さあ、一難去ったところで私も残りの商品をがんばって売りにかからなければですね!」
よっこいしょ、と大きな荷物を背負うノエマ。
うん?と首をかしげ、ファリナはノエマに訊いた。
「ノエマ先生、商品はブースに置いてきたんじゃなかったんですか?」
というかいつ持ってきたのかこんな荷物、という質問は飲み込んで。
ノエマは満面の笑顔で答えた。
「いえ、これは商品ではないですよ!ちょっとした小荷物です」
「小荷物って……ごめんなさいこの時点ですでに嫌な予感しかしないんですが、その中には何が入ってるのですか?」
恐る恐る問うてみるファリナ。
再び満面の笑みで答えるノエマ。
「ええっとですね、今朝ここに来る途中に道端に箱がいくつも捨ててあったので、『せっかくのお祭りなのにこれは景観を損ねる』と思って私、全部拾って来ました!」
「そっ、それもしかして爆」

かぱ。

ノエマが荷物を開くとそこには元気いっぱいに飛び回る爆弾たちの姿が!

「よぉ兄弟(ブラザー)」

ずどーん。

生徒会の暗躍の甲斐あって怪我人はファリナとノエマ以外は一人もいなかったが、2人が別室でこってり絞られたのは言うまでもない。

「あははははーどうしてこうなっちゃったんでしょうねー」
「もう……好きにしてください……」