両思いになってから、初めてのバレンタイン。
今度は、私から譲くんに手作りのチョコをあげるんだって張り切った。

なんせ、相手はあの譲くん。
私よりも料理も裁縫も悔しいくらい上手な譲くん。
生半可なチョコじゃ、譲くんを喜ばせられないじゃない?

お菓子の本に載ってた、一番美味しそうなトリュフにした。
材料も器具も何時間もかけて選んで、
1ヶ月前から何度も何度も練習した。
やっと昨日、満足の行くものが出来て。
よっし、これなら完璧!って、これまた何度も練習したラッピングをして。
今日は絶対、譲くんに喜んでもらうはず、だったのに。

「なんで私のより美味しいの~?!」

譲くんからもらったチョコを食べながら、私は机につっぷした。
…悔しい。けど美味しい。美味しすぎるっ!
「…先輩のチョコレートの方が美味しいですよ?」
私と向かい合わせに座った譲くんが、トリュフを食べながら不思議そうに首をかしげる。
私はがばっと顔を上げた。
「気休めはいいわ…譲くんは優しいから…その優しさが私には辛いわ!」
ふるふる、と拳を震わせて。
ふぅ、と息をつくと、私は背もたれに寄りかかった。
「あーん、がんばって作ったのになぁ。譲くんにはかなわないかぁ」
「チョコレートを作るなら、俺に相談してくれればよかったのに」
「贈る本人にチョコの作り方教わってどうするのよ。
譲くんより美味しいチョコ作って、びっくりさせてやろうと思ったのになぁ」
「びっくりしましたよ。先輩からこんなに美味しい手作りのチョコをもらえるとは思いませんでしたから」
嬉しそうに笑って、譲くん。
「そうだね、去年はみんな買ったのだったからなぁ。
でも、今年は絶対手作りで、譲くんだけにあげようと思ったの」
私が言うと、譲くんはちょっと赤くなって、それからまた微笑んだ。
「…ありがとうございます」
私も何だかつられて顔が熱くなってきちゃって、慌てて手を振った。
「で、でも、譲くんより美味しいチョコは作れなかったから、目的は半分達成、かなぁ」
そこでまたそこはかとなく悔しくなって、譲くんに訊いてみる。
「ねえ、何でこんなに美味しいチョコ作れるの?
私、これでも結構自信あったのになあ」
「そんな…」
譲くんは困ったように苦笑して。
そして、ふと何かを思いついたような表情をすると、にこりと笑った。
「俺のチョコが、先輩のチョコより美味しい理由、ですか?
簡単ですよ」
「え?」
きょとんとする私に、譲くんは顔を近づけて、低く囁いた。

「俺のほうが、先輩のことを好きだから、です」

ぐわ。
顔の温度が一気に上がった。
「ゆ、ゆず……」
にっこり。
得意そうな笑顔。
私は何とか、譲くんを睨んでみた。
「……そんなことないもん。私の方が譲くんのこと好きだよ」
「そうですか?俺は自信がありますよ?」
「私だって!ホワイトデーは絶対譲くんより美味しいクッキー作るからね、見てなさい!」
「じゃあ、俺はそれより美味しいクッキーを作りますよ」
「む~!!」
にこにこ笑う譲くんを、ひとしきり睨んで。
ぷっ。
私達はどちらからともなく、吹き出した。
「あはは、変なの。譲くんのクッキー、楽しみにしてるね」
「俺も楽しみにしてますよ」
お互いにそう言って、お互いが渡したチョコレートをもう一つまみ。
「うーん、やっぱり悔しいほど美味しいなぁ」
「先輩のもとても美味しいですよ。でも…」
譲くんが言葉を止めたので、私は顔を上げて譲くんを見た。
譲くんは私の髪をひと房掬い上げると、それに口付ける。
「…俺は、こっちのチョコも、欲しいですね」
……ああああ、また顔が熱くなってきた。
…きょ、今日の譲くんは何だか変だよ?ば、バレンタインだからかな…
「先輩」
ゆっくりと、譲くんの顔が近づいてくる。

目を閉じると、私の作ったチョコの味が、口いっぱいに広がった。

“The reason of Delicious”2005.2.10.KIRIKA

「遥かなる時空の中で3」譲×望美イベントサイトさんに寄稿した三部作の2作目です。異世界からの帰還後、恋人同士になっている二人のバレンタイン話。譲くんは今までめちゃくちゃ我慢してきた反動で、恋人同士になったらめちゃくちゃ激甘溺愛彼氏になりそうな気がする…!そんな彼氏に勝てないなあと思っている望美ちゃんですが、譲くんは譲くんで望美ちゃんに勝てないなあと思っているそんな関係がまた良い。