「へえ、ルッカってメガネ取ると結構可愛いんだ!」
時の最果て。
カエルとエイラを連れて行ってしまったクロノを待ってるのもヒマだから、メガネの掃除をしていたら、いつの間にか側に来てたマールがそんなことを言った。
っても、ぼやけて何も見えない。周りは真っ暗だしさ。光っていっても真ん中にあるあの小さな街灯くらいでしょ。あたしはなんとなくこっちかな、と思う方を向いて、言った。
「ふふん、まあそれほどでもないけどね」
「私はこっちよ、ルッカ」
苦笑したようなマールの声が、全く反対方向から響く。
「あ、あらそう?何しろメガネ無いと何も見えなくて…」
拭き終わったメガネをやっとかけて、あたしはマールの方を向いた。
「どうしてメガネ外さないの?」
マールは頬杖をついて、不思議そうにそう言った。
「どうしてって…外すと何も見えないし」
「コンタクトにすればいいじゃない!」
「そんな必要ないでしょ?…痛そうだし」
「大ありよ!『可愛らしい』ことは女の子の必須条件よ?そんなに可愛いのにメガネで隠したりしたら宝の持ち腐れだわ!痛いのは気力でカバーするのよ!」
んな無茶苦茶な…
あたしは苦笑した。
「そんなこと言われてもねぇ…」
このカッコで、この性格で、今さら可愛らしいもないだろうし。
あたしが返答に困っていると、光の柱の方からカエルがこっちに走ってくるのが見えた。
「おーい、マール!」
「カエルさん!」
マールが振り返って彼の名を呼ぶ。
「クロノが呼んでるぜ。ダブル色仕掛けやるんだと」
は?
「ダブル色仕掛けって…確かこれから行くの魔王城でしょ?」
あたしが問うと、カエルは呆れたように肩をすくめた。
「ああ。マヨネーにダブル色仕掛けが効くのかどうか試したいらしい」
「わざわざ魔王とカエル置き去りにしてまで…なにやってんだか、あのバカは」
あたしも呆れて言葉が出ない(でてるけど)。
「と、とにかく行ってくるね。じゃあね、ルッカ!」
マールはあたしに向かって微笑むと、足取りも軽く光の柱の方に行ってしまった。
あ~あ、クロノと一緒に行動できるのが嬉しくて仕方がないって顔ね、あれは…
「何だルッカ、浮かない顔だな。何か言われたのか?」
カエルがあたしの隣に座ってそんなことを言うので、あたしはまた苦笑した。
「大したことじゃないのよ。お姫様は時々突飛なこと言うから返答に困っちゃうわ」
そこまで言って、正面の街灯になんとなく目をやる。
「でも…うらやましいな。マールはいつも素直で。まっすぐに自分の気持ちをぶつけて恥じない」
「…そうだな。性格はまるで違うが…そういうところはリーネ様そっくりだ」
カエルも昔を懐かしむように、街灯を見つめた。
「あたしなんて…本心とは裏腹に二人を応援するようなこと言ったり…」
『ク…クロノ、あんたいつの間にこんな可愛い娘口説いたのよ』
『マールの前でしょ、少しはカッコつけなさい』
いつか言った台詞を思い出して、自嘲するように笑う。
「せっかくクロノが生き返った時だって…」
『この大馬鹿者…今度ヘマしたら…もう助けてやんないから…!』
「ホント、あたしって天邪鬼ね…マールとは正反対」
「ルッカ、お前…クロノのこと…」
カエルが少しだけ驚いたようにあたしを見た。
…ま、ここまで言えば誰でも気付くか。
改めて言われると、ちょっと照れるけど。
「…マールがお姫様なら、あたしはさしずめ魔法使いね」
「魔法使い?…して、そのこころは?」
あたしは少し苦笑して、カエルの方を見た。
「よくあるじゃない?少し前の冒険物語とかでさ。魔王にさらわれたお姫様がいて、それを助けよと王様に命じられた勇者様がいて。あたしは、そのお供の魔法使い」
この場合、魔王は魔王なのかな。カエルは何だろう、呪いをかけられた王子様?ふふ。
「見事、魔王も倒して、お姫様も助け出して。めでたしめでたしのハッピーエンド…」
わざとおどけた声を出してみる。
「…当然、王様の勧めで勇者はお姫様と結婚する」
下がっていく声のトーン。暗くなってく気持ち。
「相手はお姫さまだもの。どうがんばったって敵うはずないわ。そして…意地っ張りで臆病な魔法使いは、自分の気持ちも告げられずに勇者の元を去っていくの…」
わかってる。
あたしが勝てるわけないって事くらい。
どうせ敵わないってわかってるなら、いつまでも幼馴染のまま、側にいられたほうがずっといい。
「勇者のため…なんて、言い訳。ただ自分が傷つきたくないだけ」
…わかってる。
逃げてる、って事くらい。
「それは違うと思うぞ、ルッカ」
カエルはあたしのほうを見て、諭すように言った。
「考えてもみろ。ろくに会った事も話した事もない、いわば初対面の王女と。今まで苦楽を共にし、助け合い、支えあってきた魔法使いと。
勇者はどっちを選ぶと思う?」
「!………」
どきっ、とした。
「勇者を慰め、激励して、『前を向かせる』のは王女だが、勇者を叱咤し、たきつけて、『前に進ませる』のは魔法使いだ。そしてそれは、長い付き合いで彼の性格を知り尽くしている彼女にしか出来ん。…違うか?」
あたしにしか…出来ないこと。
「まあ、どちらを愛するかは勇者次第だがな」
カエルはそう言って、また街灯に目をやった。
「ありがと…カエル」
あたしは、今度はちゃんと笑って、カエルにお礼を言った。
…そうね、きっと。
「ルッカー!」
と。
光の柱から、またひとり姿を現した。
「おや、噂をすればだな」
カエルが可笑しそうに喉を鳴らして、呟く。
「どーしたの、クロノ。ビネガーたちは倒せたの?」
今しがたまであたしの頭を悩ませてたトンガリ頭は、あたしの問いに苦笑して頭を掻いた。
「いやー、やっぱマヨネーにはダブル色仕掛けは通じなかったよ。倒したけどな」
「効いたら拍手ものよ。で、何?エイラとマールは?」
「んにゃ、人員交代。俺と代わってくれよ」
「は?」
あたしは眉を顰めて問い返した。リーダーはあんたでしょうが。
「黒の夢で手に入れた、白の石、ってあっただろ」
「…ああ、合体魔法が使えるようになるアクセサリーね?」
「マールがそれ見つけてさ。どうしてもやりたいってきかなくて。悪いけど行ってくれよ」
「しょーがないわねー」
あたしはまた呆れて、側に置いておいたヘルメットをかぶった。
「あんたも今から尻に敷かれてたら先が思いやられるわよ」
「うるせーな、早く行けよ」
………。
…んーと…。
「クロノ」
あたしが呼ぶと、カエルの方を向きかけてたクロノは振り返った。
あたしは無言で、彼を手招きする。ひょこひょこ寄って来た彼の、あたしとおそろいのマフラーをくいっと引っ張って、こちらに引き寄せて。
耳元で、一言。

「すき、よ」

「ルッ…!」
「じゃあねー♪」
あたしはマフラーから手を離すと、そのままぱたぱたと手を振って光の柱の方に走っていった。
「…お前ってホント幸せ者だよな」
「………ありがと」
後ろからカエルとクロノの声がする。
あたしはくすっと笑って、中世へ通じる光の柱に飛び込んだ。

大好きよ、勇者様。
あんたが振り向いてくれなくても、
あたしはずっとあんたの魔法使いでいてあげるわ。

“Princess or Magician” 2001.9.28.Nagi Kirikawa

いやー、懐かしいです。昔出したコピーのクロトリ本の中のストマンを小説にしてみました。結構気に入ってたのでモト版も取ってあったみたいです(笑)トーンとかはがれまくって見る影もないですが(苦笑)今日付見たら1995年8月25日だって(笑)うわー(笑)
いやもールッカが好きで好きで好きで好きで(×無限大)。可愛いですね。素直じゃないところが。ゲーム中でもクロノが好きなんてそらもうひとっことも言わないんですよ。でも態度に現れてて。そういうのがツボですね。メガネも(笑)ああもうルッカ大好きだー!!こういうさらっとした告白とか、「いてあげるわ」っていうような言い回しとか、ルッカらしくて自分でも気に入っています。
で、ここではクロノはルッカの告白に関しては何もコメントしてませんが、うちのクロノはルッカにメタ惚れです。ちゅーか、狙ってます。窓から夜這いに入るくらい狙ってます(笑)機会があったらまた書いてみたいですね、今度はらぶらぶな二人を(笑)
ちなみに、マヨネーにもアイテムが設定されているところを見ると色仕掛けが効くこともあるんでしょうね(笑)欲しかったなぁ、マヨネーのブラ(笑)