泡沫の人魚姫
その手鏡を掴んだリリィは。
「だから、真実なんて、いりませんよね!」
鏡を床にたたき付けた。




かしゃーん、というガラスが砕ける音。
「な」
「私を、愛しているんですよね?じゃあ、これでいいですよね?」
にこり、と凄絶に微笑んでリリィは一歩踏み出す。
「な、何してるんですかっ!」
「閉じこめちゃおうと思ってv」
「何言ってるんですか!」
怒鳴られて、一瞬リリィは泣きそうに顔を歪める。
「あなたはやっぱり、ここにはいたくないって、この、わたくしよりも別のわたくしの方が」
「ガラス踏んでるでしょう!怪我したらどうするんですか!動かないで!」
「え」
「そっと移動して!で、ベッドの上に避難してください。ああ、もう、すぐ片付けますから」
「……ミケ」
「なんですか?」
魔法で浮いて、床のガラスを箒とちりとりで集めるミケを、ベッドの上で座りながら見ていたリリィはそっと声をかける。
「……怒りました?」
「やることが無茶すぎます」
「そうじゃなくて」
「?」
遠慮無くそれを、ゴミ箱に突っ込んだミケはリリィを振り返る。
「あなたは、全部、知ったのではないの?」
「そうですね、思い出しました」
「そう」
「1個だけ、確認させてください。……あなたは、僕の、僕だけの世界のあなたではないのでしょう?」
「そうですね。きっと……もっと冷たく笑う私が見る夢なのでしょうね」
だから、許せない。
ずっとずっと憎悪が溢れてくる。きっと、無理矢理彼の夢に侵入した自分の、心の一部が今の自分。
「そうですか、それならいいです」
「いい?」
「はい。いいです。じゃあ、明日も仕事がありますし、寝ましょうか、女王陛下」
「…………そう、ですね」
釈然としない顔で、部屋へ戻ろうとしたリリィの腕を掴む。
「ミケ?」
「あなたの愛情表現は、恐ろしく歪んでいる。でもね、僕も大概歪んでますから」
楽しそうに、ミケは笑った。
「だから、いいんです。気にしないで」
「どういうこと?」
腕を引かれて、押し倒されてリリィは無表情にミケを見上げた。
「だって、鏡を割ったのは、あなただから」
「?」
苦笑交じりにミケは少女を間近に見ながら、言った。
「これが僕の見ている夢ならば、僕が目覚めなければあなたがどこかへ行くこともない。僕を、閉じこめておきたいと言った。僕は、もうどこへも行けないけれど、あなたもここから出られない。それを望んだのは、あなただから。僕に捕らわれることを望んだのはあなただから。他の誰でもなく、あなたが僕を選んだんだから。だから、いい」
主人ではなく、自分を選んだのだから。彼女の一欠片とはいえ、自分に捕らわれることを、彼女が望んだのだという事実。
「どうやったら、奪い取れるか、考えていたけれど、こういう取り方があるとは」
「……卑怯ですねー」
「……あなたにだけは言われたくないセリフです。……ま、あなたが僕を嫌いになろうが、もう出られないんで、覚悟してください」
「……この世界は、続いていきますよ。あなたこそ、覚悟できていますか?」
「覚悟がなかったら、最初からあなたに手なんか伸ばさないんですよ」


くす、と笑って。

「逃がさない。僕の夢であなたの夢だから、ハードな毎日が待っていそうだし、予測も付かない事件が起きそうですけれど。……お付き合いくださいね。多分僕が死ぬまで。……死んでも逃がさない方法を、考えますが」
「勿論、付き合いましょう。誰にも渡さないつもりですよ、それが、本当のわたくしであっても。さ、楽しく……行きましょう」



月の照らすベッドの上で、青年と少女が眠っている。誰も来ないような、森の奥の小屋で。
魔法で眠り続ける彼らは、目覚めることはない。このままだと死んでしまうだろうに……それでも2人の口元には楽しそうな笑みが浮かんでいた。



ということで、相川さんの誕プレ2010、リリィエンディングです。
これはこれで…幸せなエンディング?(笑)何かこの2人でハッピーエンドを考えると必ずヤンデレ方向に突っ走るんですが(笑)
結局、リリの言ってることっていうのは「全てを捨てるくらいの愛じゃなきゃいらないよ」っていうことなんですよね。それって完全に、べったり依存の構図じゃないですか(笑)マジヤンデレですわね(笑)
それを叶えたなら、こういう終わり方もアリなのではないかな、と思うのです。相川さん、どうもありがとうございましたv