夏祭り
「わぁ…なに、今日はお祭り?」
広場に所狭しと並べられた出店に、リーが歓声を上げた。
陽も山の向こうに身を隠し、あたりは薄暗くなってきている。出店にかけられたランプや魔道の明かりがエキゾチックな様相を幻想的に照らし出していた。
「へー、変わってるね…でも、ナノクニってカンジ」
ロッテもわくわくした表情で辺りを見回している。
3人はナノクニで滞在したとある村で、夏祭りに行きあった。北方大陸とは一味違う独特な雰囲気が漂う。色とりどりの民族衣装に身を包み、手にお菓子や焼きイカ、とうもろこしなどを持ちながらどこともなく行きかう人の群れは、その光景に初めて出くわす三人の気持ちも浮き立たせた。
「ね、ね、ね、ボクたちもあれと同じの着よーよ!!」
「ええ?」
リーの手を取って嬉しそうに言うロッテに、リーは眉を顰めた。
エリーが呆れたようにため息をつく。
「おいおい、ここでしか着れないような服を買ってもしょうがないだろう」
「残念でしたー。レンタルしてたもんね!今日はお祭りだから、今日だけ派手な服着たいってコもたくさんいるわけさ。
レンタルならいいっしょ〜?ねー、ボクたちもお祭り楽しもうよぉ〜!!」
後方を指差して(おそらく貸し着屋があるところだ)駄々っ子モードに入るロッテに、リーは苦笑した。
「そうね、確かにあの服は可愛らしいし。悪くないわ」
「やったー!じゃ、早くいこいこ〜!」
リーの手を引っ張っていくロッテ。エリーはやれやれと肩をすくめてその後を追った。

「なんだか…ずいぶん心もとない服ね…改めて思うけど」
少し不安げな表情で、リーは自分に着せられた服をしげしげと見やった。
白い地に、金魚の模様が散りばめられた可愛らしい服である。とはいえ、体にほとんど1枚の布を巻きつけて腰をひもで止めただけのようなこの服の構成そのものがなんとも言えず心もとない。
「キモノ…っていうんだっけ?この服。この国の人は、毎日これを着ているんでしょう?不安じゃない?」
着るのを手伝ってくれた貸し着屋の女性は、にこりと笑みを作ってそれに答えた。
「生まれたときから着ていますからね。もう慣れちゃいましたよ。
それと、こういう夏の日に着るようなものは、ユカタというんです。普段着ているものよりも薄手の布で出来ているから、余計に異国の方には心もとないかもしれないですね。通気性も抜群で、快適ですよ。慣れれば」
「そんなものかしら…」
せっかくだから、と結い上げられた髪といい、なんだかいつもと違う、妙にこそばゆい感触がする。
「やー、いーじゃんいーじゃんリー、可愛いよ〜♪」
後ろから声がして振り向けば、そこにはすでに着替えを終えたロッテの姿が。
彼女のユカタは紫の地に金色の蝶の模様が点々と入ったもので、浅黒い彼女の肌によく映えた。髪はアップにされ派手に散らされている。いつものことだが、何気なく派手だ。
「見た目ほど動きにくくないもんだね、この服。機能的だし♪」
「機能的?」
眉を顰めるリーに、ロッテは屈託のない笑顔を向ける。
「なんつっても一枚の布、一本の紐で止めてるだけでしょ?脱がせやすさ抜群じゃん!ナノクニ文化万歳だね!」
「もう、ロッテ!」
顔を真っ赤にして、リーが声を上げる。
「まったく、お前の頭の中はそればっかりだな」
呆れたような声と共に、ロッテの後ろから姿を現したのは。
「…エリー…」
名前を呼んで、リーは言葉に詰まった。
深い緑色のユカタは女物と違い、胸元が派手に空けられて、腰の下のほうで止められている。いつもは後ろでまとめている髪をゆるめに横に流して、鎖骨や首筋が微妙に見え隠れしていて。
いつもの彼の服のほうがよっぽど露出度は高いのだが、こういうだし方をされるとこれはこれで妙に、なまめかしい。
エリーは多少不本意そうに鼻を鳴らした。
「俺は遠慮したかったんだがね。3人揃った方がいいですよと、店の奴に無理やり着せられたよ」
「そんな。…似合ってるわ、すごく」
「お前がそう言うんならいいけどな」
微妙に甘やかな空気が流れ、ロッテはムッとしたようにリーの腕を取った。
「さ、いこいこ!お祭り終わっちゃうよ!」
「あ、ちょ、ちょっと、ロッテ!」

「……ってぇ…はぐれちゃったよぅ…」
人ごみのど真ん中で呆然とロッテは呟いた。
出店などをおおはしゃぎで回っているうちに、すっかり連れの姿を見失ってしまった。
どうやらこの薄暗さと人の多さを甘く見ていたようである。
自分ほどははしゃいでいなかった残り2人は、無事はぐれずに今頃ランデブーを楽しんでいるはずだ。
「…ちぇーっ」
ロッテは肩をすくめて、仕方なく一人で歩き始めた。
「ま、たまにはこんなのもいいっしょ。一人でいるのも、ね〜」
雑貨屋の前でしゃがみこんで商品を眺めつつ、そんなことをひとりごちる。
と。
「…そうですか、お一人がいいようでしたらお邪魔かもしれませんね」
突如後ろから降ってきた声に一瞬身を硬くし、次の瞬間勢いよく立ち上がって振り返る。
ロッテは目を丸くして、声の主の名を呼んだ。
「…キル…!」


天使二人組を見る 魔族二人組を見る