「話は終わったの?エリー」
話し相手が辞したドアから、銀髪の少女が入れ違いに入ってくる。
それには答えず、彼は口に手を当てたまま真剣な眼差しで虚空を睨んでいた。
「……エリー?何かあったの?」
エリーと呼ばれ、彼はそのまま視線を少女に移した。
「……リー。すまないが、しばらく別行動をとらせてくれ」
「…どうしたの?」
訝しむ少女に、複雑そうな表情でため息をつく。
「…俺の師匠が、現世界に来ているらしい」
「師匠……って、天界の?」
「ああ。俺の幻術の師匠だ。正確には軍官学校の教授だな。
それが、天界を抜け出して現世界に来ているらしい」
「…天界と現世界の行き来って、確か厳重に管理されてて、それを破ったり転移の術を使ったりするのは違法じゃなかった?」
「無論だ。師匠は幻術で現世界の調査団に成りすまして門番の目をかいくぐり、あとで成りすまされた本人が現れて大騒ぎになったそうだ」
「………それって、結構大事じゃない?」
「結構どころじゃない。大変なことだ」
彼は肩をすくめて、嘆息した。
「師匠はなんというか、幻術に関しては天界髄一の使い手で、それなりに信頼され地位もあるんだが、困ったことにこういう悪ふざけが大好きな人なんだよ。賢人議会も師匠のこの性格には手を焼いているようでな。……まったく、困ったもんだ」
「それで、教え子で現世界にいるあなたに白羽の矢が立ったって訳?」
「ま、そういうことだな。ちょっと手間取りそうだ」
彼は嘆息して、少女に告げた。
「人でも雇って手っ取り早く探すことにするさ」
>「…が、まあいい。嫌な予感がするし、俺一人で探すことにしよう」
「…が、まあいい。嫌な予感がするし、俺一人で探すことにしよう」
少女は彼の言葉に、心配そうに眉を寄せた。
「あなた一人で?大丈夫なの?あたしにできることなら…」
「いや……強烈に嫌な予感がするんだ。一人で行かせてくれ」
未だかつてない彼の迫力に気おされた様子で、少女はきょとんとした。
「そ……そう?じゃあ、無事に見つかるのを祈ってるわ」
彼女の応援も半ば上の空で、虚空を見つめるエリー。
彼の果敢な挑戦が、始まろうとしていた。
「さてと…思ったより厄介なことになったな」
テーブルに広げられた地図を見下ろして、エリーは嘆息した。
彼の師匠である、ぺ…………ジョン・ウィンソナーを探すにあたり、魔道士を探すなら誰もが最初に行うこと…魔力感知を試みた。
魔力は人によって異なり、同じ波長の魔力は二つとしてない。指紋のようなもので、これが固体識別にも役立つのだ。
が、ウィンソナー師の魔力を感知したところ……
「……3つ、か」
そう。なんと、同じ波長は二つとして存在しないはずの魔力が、同時に3箇所から感知されたのだ。
「どれか一つは本人だろうが……マジックアイテム、だろうな。面倒なことをする…」
感知された場所に、赤く印をつけていくエリー。
NS通り一番街、ベーハム・ベーカリーの裏手に位置する、古びた教会。
大通り二番街、中央公園裏の墓地のすぐ側にある、喫茶『厚化粧』跡。
サザミ・ストリート三番街、ゼラン魔道塾隣の空き家。
あまりに脈絡のないラインナップに、ため息すら出る。
「…しらみつぶしにあたっていくしかないか。まずは、ここからだ」
ぴっ。
一番街の教会に大きくチェックを入れ、エリーは表情を引き締めた。