信じて下さいますか?
わたくし、すごいものを見てしまったのです!
とってもとってもすごい、素晴らしいものです。
見てしまったのです!
くまっ!
あなたは信じて下さいますか?!

それはクリスマスイブイブのことでした。
わたくし、身の回りのお世話をさせて頂いてるアイネおじーちゃんちに向かっていたのです。
僧院の僧士さまが、おはぎを作って近くの孤児院に持っていきました。
わたくしも、そのおはぎを分けて頂いたのです。
おじいちゃんと食べますと言ったら、僧士さまはおはぎを4つも下さいました。おじいちゃんとわたくしでいっこずつ食べても、えーっと、2つ余ります!だからおじいちゃんとわたくしであと1つずつ食べられるのです。
すごいです!

ほかほかの、おはぎ。
くんくんいい匂いがして、わたくしは幸せな気持ちになりました。
きっとおじいちゃんも喜んで下さるはずです!

わたくしはおはぎを包んで頂き、両手でしっかり持っておじいちゃんの家に急ぎました。

たったったっ。
きらきらきらきら。
ぴかぴかぴか。

街はランプや魔法の明かりで光りに溢れていました。
たくさんの人がざわざわがやがやそわそわしています。
そして一様にお顔をにこにこさせています。
きっとサンタさまがいらっしゃるのをわくわくと待っているのでしょう!

わたくしも今年サンタさまに何を頂けるのか、ホントに楽しみにしているのです!
去年は新しい枕カバーを頂きました。端にちいさなクマが2匹、寄り添うように刺繍されているやつです。
わたくし、それはわたくしとわたくしのお姉ちゃんなのだとすぐに分かりました!

とても嬉しくて、実家に持って帰っておねえちゃんに見てもらったんです。
お姉ちゃんはただ黙ってにっこり笑っただけでした。

・・・もしかして、お姉ちゃん・・・自分の分も欲しかったんでしょうか!?

わたくしとしたことが、うっかりしていました!
今年はサンタさまに、どうぞおねえちゃんの分も頂けますようにとお手紙を書かなければ。
そしてサンタさまがおねえちゃんの分も下さった時は、わたくし、おねえちゃんと仲良く

「うわっ!」
「くまっ」

考え事に夢中になっていたわたくしは、何かに顔から突っ込んで、ころんと後ろにひっくり返ってしまいました。

「おや、大丈夫ですか」
「うん、へーき。ちょっち驚いただけ」

ひっくり返った私のおしりの上から、女の人と男の人の声がしました。
男の人はとっても上品な、女の人は元気な声をしていました。

わたくしは頭をふりふり起き上がりました。
ぼんやりとした視界に、女の人の顔がうつりました。

「ケガない?だいじょーぶ?」
「あ、あ、だ、だいじょうぶなのです」

わたくしは目をぱちぱちと瞬かせました。

わたくしに声をかけてきたのは、前髪が赤で後ろ髪が金のハデハデした方でした。
街の明かりがほっぺに当たってつやつやと光りを放つようでした。
わたくしはまるで妖精のような方だと思いました。いたずらばかり働く妖精の絵本を思い出したのです。
わたくしがぼうっとその方の顔を眺めていると、後ろに立っていた男の人がたんたんとした口調で話し始めました。

「聞いているのですか。衝突してきてすいませんの一言で済むとでも?」
「えっ」

わたくしはびっくりして体が飛び跳ねてしまいました。
男の方は流れるような黒髪にうさぎさんのような赤い瞳、やはり浅黒い肌のとても美しい方でしたが、話す言葉は難しくて、何を言ってるのかちっとも分かりませんでした。

わたくしの頭の上に?マークがたくさん浮かびました。

「あの、あのあの」
「謝罪の言葉より出すものがあるんじゃないですか」
「えぇっ?」
「そうですね・・・金貨30枚といったところでしょうか」
「えええええっ!?」
「きゃはは!よしなよー。こんな小さい子にさっ」

至極真面目な顔の男の人の袖を引っ張って、女の人が笑いました。
男の人はぱっと身を引き、つまらなそうにわたくしから視線を外しました。
横顔が、僧院に置いてある彫刻の男の方のようにきれいでした。

何だか分かりませんでしたが、わたくしは危険が去ったと思いよろよろと身を起こしました。
その様子を女の方の方が覗き込みます。

「ホントに大丈夫?」
「はい、大丈夫です。こちらこそぶつかってしまって申し訳ありませんでした!」
「んーん、いいよ。気をつけてね!」
「はい!・・・ああ!おはぎが!」
「おはぎ?」

わたくしの言葉に女の人は首を傾げました。
わたくしは手の中におさまっていたはずのおはぎがないことに気付き、辺りをきょろきょろと見回しました。そしてやや離れたところに飛ばされて、道行く人に蹴飛ばされている包みに気付きました。

わたくしのおはぎ!

転がるように飛びついてそれを拾い上げると、ほかほか感も大分失ったおはぎが、まるまる感まで失っていることに気付きました。

包みを開ける必要もありません。
おはぎは潰れてしまったのです。

「あーん!わたくしのおはぎがー!あーんあーん!」

急に大きな声で泣き出したわたくしに、男の人はびくりと体を震わし、女の人は目を丸くしました。

「あーんあーん!」
「・・・・・・」
「どーしたの!?そんなにこの『おはぎ』は大事なもんなの?」

女の方の言葉にわたくしはぐすぐす鼻を鳴らしました。

「せ、せっかく頂いて、おじいちゃんと一緒に食べようと思ってましたのに・・・あーん!」
「・・・食べ物?」

女の方はいぶかしげな表情で、わたくしの手の中の包みをほどきました。
包みの中を見て、女の方は眉を寄せました。肩越しに覗いた男の方が「おや」と呟いたのが聞こえて、わたくしはまた涙がにじんできました。
それを見て女の方がわたくしに笑いかけました。

「大丈夫だよ!しっかり包んであったから、なかみは汚くないって!見た目がいくら泥みたいでも」
「あーんあーんあーんあーん!!」
「余計泣いてますね」
「あり?じゃーこうやって丸めれば・・・あっ」

女の方がおむすびを握る要領でおはぎを固めようとしたところ、あんこがぽろぽろとこぼれおちました。
女の方がわたくしを見て「失敗しちゃった★」と言いました。
わ、わたくしは、わたくしは。

「あ、真っ白になってぶるぶるしてる」
「行きましょう」
「ええっ、置いてくのー?ひっどいなー。相変わらず」
「相変わらず?」
「なんかさー、なんとかなんないの?ステキな魔法でぴぴっと」
「・・・そんなものはありません」

わたくしはおはぎを見つめていました。
あんこがはがれて、つぶつぶのおもちが出てきてしまったおはぎ・・・
おじいちゃんはこれでも喜んでくれるでしょうか。
おはぎの中におじいちゃんのお顔が見えた気がしました。
笑っています。
わたくしはぽろぽろと涙を流しました。

「聞いているのですか」
「おーい、クマくん?」

突然、思考の中に男の方と女の方の声がして、わたくしは顔をあげました。
キレイなお二人の顔が、そろってわたくしを見ていました。
わたくしはちょっと、怯んでしまいました。
怯んで身を引いた分だけ、男の方が近づいてきました。
そしてわたくしの手の中のおはぎに手をかざしました。

「いいですか、一回しかやらないからちゃんと見ていて下さいね・・・」

男の方はわたくしに、というより傍らの女の方に話すようにして言いました。
そして何をするでもなく、すぐにおはぎから手を放したのです。

するとどうでしょう。
4つのぼろぼろのおはぎが4つのぴかぴかの苺ケーキに変わっていたのです!

「!」

わたくしはびっくりして手の上のおはぎを見つめました。
それからぱっと顔を上げ、男の方を見ました。
男の方はにこりともせず、「誰にも言ってはいけませんよ」と言いました。
わたくしはこくこく必死で頷きました。

いつの間にか涙はどこかに消えていました。
わたくしはケーキを大切にしまい、男の方にお礼を言いました。

「あ、ありがとうございました」

しかし男の方はわたくしの言葉など聞こえていないかのように、傍らの女の方の後ろで黙っているだけでした。
かわりに女の方が、「いいよーん」と笑いました。

きらきら輝く町の明かり、その光りが、お二人の宝石のような瞳に反射して。

不意にわたくしは、その中にさっと影が走ったのを見ました。
何かが通ったのです。
わたくしは反射的に振り向きました。
お二人も空を見上げたのが分かりました。

「あ・・・・・・」

暗くなった空から、白い、花びらのような雪が降り始めています。
ちらちら、ちらちらと、踊るように、柔らかく。
そして、そしてその中を。

わたくし、見てしまったのです。

しゃんしゃんと鳴り響くベルの音。
トナカイがひくソリに乗り、空を飛んでいくサンタさまの姿を!!

「あ!」

わたくしは驚き、大きな声を上げて、手の中のケーキをまた落としそうになり、慌てて抱え直しました。

わたくしの声に気付いたのか、サンタさまが、ちらりとわたくしを見下ろしました。
目が合うと、サンタさまは白いおひげがたっぷりとたくわえられたお顔で、優しく微笑みかけて下さいました。
そしてぱちりとウィンクなさったのです。

わたくしはぽかんと口を上げて、ただそのお姿を目で追うのが精一杯でした。
サンタさまは鈴の音とともにお空の向こうに消えていきました。

「・・・・・・」

なんだか夢を見ているようでした。
わたくしはほうっと息を吐き、一緒に空を見上げていたお二人を振り向きました。

「み、見ましたか?今、サンタさまが・・・」

しかし、言葉とともに見た先には、先ほどのお二人の姿はありませんでした。

「えっ!?」

わたくしは三度驚いて辺りをきょろきょろと見回しました。
道行く人々、雑踏の中にも、あの美しいお二人の姿は影も形もありませんでした。

まるで魔法のように、お二人は消えてしまったのです。

これは、もしかして。
もしかして、お二人は。

「ネイト?ナハトムジークさんの家に行ったんじゃなかったですか?」
「僧士さま!」

わたくしが手の中のおはぎ・・・じゃなくてケーキをぎゅっと握って立ち尽くしていると、聞き覚えのある声に名前を呼ばれました。
ぱっと振り向くと、僧院の僧士さまが紙袋を胸に抱き、わたくしを見ていました。
孤児院に行かれた帰りでしょうか。
わたくしはとてとてと僧士さまに走りよりました。

「僧士さま!わたくし、すごいものを見てしまったのです」
「すごいもの?なんですか?」
「はい!あのですね!」

先ずはとても綺麗なお二人を、それからおはぎがケーキにかわる瞬間、それからそれからサンタさま!
そして何より・・・

「天使さまを見たのです!」
「まあ、そうなんですか。きっとネイトの行いがいいから、ガルダス様が遣わして下さったのでしょうね」
「はい!」

僧士さまがにこりとなさったので、わたくしはとても嬉しくて笑いました。
とてもとても幸せでいっぱいだったのです。

「そうだ、ネイト。少し早いですが私からのクリスマスプレゼントがあるんです」
「えっ」
「どうぞ」

僧士さまがわたくしに向かってオレンジ色の包みを差し出しました。
わたくしはお礼を申し上げてそれを受け取り、ぴりぴりと開けてみました。

中には、一対の天使の人形が入っていました。
浅黒い肌、片方は紫の装束、片方はハデハデな服を着た、異国の天使さま。

「お姉さんとあなたと、分けて持って下さいね」

僧士さまが藍色の髪をふわりと揺らし、首を傾げました。
わたくしは呆然とし、感動し、そして笑いました。

「ありがとうございます!」

信じて下さいますか?
わたくし、すごいものを見てしまったのです!
とってもとってもすごい、素晴らしいものです。
見てしまったのです!
でも・・・

誰にも言わないと天使様と約束したのです!
だからわたくし、誰にも言いません!

ね!天使さま!

おしまい
2007/07/07

ヨネさんから頂きましたーv「おばあちゃんの手のひら」のネイトさんと、キルロテっぽい天使様のお話です(笑)
ヨネさんが何かを下さると言って下さったので、図々しくも「キルロテがいいです」と言ったところ、なんだか素敵なものが来ました(笑)しかもネイトさんです!中の人などいない!(笑)しかも「くまっ!」って言うんだ!(笑)ちょっとそこにウケました(笑)いつもわが道を行く魔族カップル2人組がなんだかいいことをしてますが、聖夜が見せた魔法だったのでしょうv(笑)不思議で素敵な2人をどうもありがとうございましたーv