「とりっくおあ、とりーと?」
「んじゃ、トリックで」
「ミケさん、意外に……チャレンジャーですね?何が良いですか?あ、故郷がいき なり無くなってるとか、吃驚しませんか?」
「それは、驚きますけど!」
久々に来たリリィの言葉に、流石に眉をしかめる。
「そうですねー、何が良いですかね。イタズラがいいなら、もう、真剣にやらせ ていただきますけど」
「……こういうときのイタズラって、軽いものじゃないですか、普通」
「せっかくのミケさんからのリクエストですもの!頑張りますvところで」
少し、リリィは首を傾げる。
「今年はどういう風の吹き回しですか?」
「……別に」
そう、どうということがあるわけではないのだ。
「ミケさん、その後ろの物体は?」
「炭ですが」
「元は、なんだったんですか?」
「タンパク質と糖質?」
「そうじゃありませんよ」
にやにや、と笑いながら机の上を指さす。
「お菓子でも、作ってたんですか?」
「まぁ、讃地祭ですから」
「で、それは、なんですか?」
「…………うるさいな、失敗したんですよ!突っ込まないでください!」
こっそり片付けようと思っていた矢先に、タイミング良く現れるから、もう様子 を伺っていたんじゃないかと疑いたくなる。
「まぁ、失敗したんですかー。まぁー」
「っく、そりゃ、しますよ」
材料混ぜて、オーブンに入れて。ちょっとうっかり……そのまま火力を間違えたと いうか、考え事をしていて焼きすぎたというか。色々な要因で、焦がした。それ をそっと後ろへやって、ミケはリリィを真っ直ぐ見る。
「もう、いいでしょう?で、イタズラしたいなら、どうぞ」
「あらあら、うふふ。甘いものをいただければ、イタズラしませんけど?」
「甘いものなど、ありません」
「そんなこと、ないですよv」
唱えられた攻撃魔法で床に弾き飛ばしたミケをよけて、その、押しやった焦がし たものを、手に取る。
「焦がされて、後は捨てられちゃうんですかー。可哀想にねー。うふふ、いただ きますよ。せっかくミケさんが作った物ですしv」
「焦げてるって言ってるでしょう!それに、あなたのために作った物じゃないで すし!けほけほ」
「……まぁ、そういうことにしてあげましょうかー?」
「そ、その言い方、まるで僕が」
「本当は、違う甘いものを食べて帰るつもりでしたけど。ふふ」
床で身体を起こしたミケの目の前で、頬杖をついてしゃがみ込むリリィは、にっ こりと彼を見下ろして。
「何を考えていて、焦がしたんですか?」
「何でも良いでしょう、悩みの多い年頃なんです!」
自分でもちょっと言い訳がおかしい気がしたけれど、間違っていないはずだと思 い直す。
「お菓子なら、ない。だから」
「いいえ、もらいますから。これを」
「だから、それは失敗作だと。返しなさい」
「……せっかく、あなたが、私のことを思って作って、そのせいで焦がしたお菓子 じゃないですかv」
「…………今までの会話の流れで、どうしてその結論になるんですか!」
「違うんですか?」
「当たり前じゃないですか!」
「んもー、素直じゃないんだからvそういうミケさんが好きですよv」
「人の話を欠片も聞かないあなたが大嫌いですよ、僕は」
ぶつけた背中が痛い。それ以上に、頭が痛かった。
「トリック オア トリート。その甘いもの、僕に返してください」
「…………あ、そう言われた時用にちゃんと考えてきましたから。せっかく強奪した のに取り返そうなんて思われたらいやですしv」
「うわ、酷い」
「でも、私も鬼じゃありません。お返ししますよ、しょうがないですねー」
子どもの我が儘に対応するように言われ、流石にかちんとした。したが……飲み込 んでおく。
「じゃあ、ほら。返し……」
もく、とリリィはその焦がした菓子をかじって。
「甘くて美味しいですよ?ね?」
「…………」
口に入れられて、飲み込んでしまってから、ぱくぱくと声にならない声を出そう と、口を動かす。
「ふふ、フォンダンショコラ、好きなんですよ。んー、もうあんまりとろっとし ないですけど……うん、美味しいですよ」
「っ、な、な……」
もぐもぐ、と食べ進めつつリリィはにっこり笑う。
「もっと、お返ししましょうか?」
ぶんぶん、と首を振って拒否を示すが、既に背中には家具があり、至近距離に…… リリィはいる。
「最初は、こっちを満足行くまで食べていくつもりだったんですけどね?うふふ」
綺麗な微笑みで、口元についたチョコを嘗め取って。
「美味しそうだったから、こっちの焦がしたお菓子だけでいいかなーと思ったの に。ミケさんたら、サービス精神旺盛ですねv両方いただけるなんて」
「両方って……!ちょ、ま……っ!」
「いやーん、私なりのトリートですよーv喜んでくださいねーv」

トリックでも、トリートでも、変わらない。
搾取する側とされる側。

お前らのやってることは、まるっとお見通しだ!…ではなく(笑)
相川さんからハロウィンものを頂いてしまいました。しまった、今年何もやってない(笑)
フォンダンショコラは火加減が命っぽいですよね。ビアードパパのフォンダンショコラが好きです。関係ないですか。リリは一応、女の子らしい甘いものとか紅茶とかが好きなんですよ(笑)リリのためでないと言い訳をするのなら一体何のためにフォンダンショコラを作ったのか、小一時間問い詰めたいですね(笑)ハロウィンの子供に上げるお菓子としては、ちょっと高級じゃないですか?(笑)
相川さん、今年も美味しいものをありがとうございましたv