―――どうか――――

―――もう一度――――

―――もう一度だけ――――

―――ロッテに―――

―――会いたい―――

―――――カラーン――――

―――――カランカラーン――――

街に響く教会の鐘の音

今日この日この時より。新しい『家族』が生まれた

『しぱーんっ』
「「「結婚おめでとーっ!!」」」
 賑やかで楽しげな声が、日暮れ時の真昼の月亭から聞こえる。

「うぅ、ありがとー…(ぐすん)」
「あは。皆さん、ホントに有難うございます」

 枯れる事の無い涙を流し続ける新婦を気遣いつつも、優しげに微笑む新郎。
 新婦と新婦で式を挙げるのかー?
 そう言われた事もある新郎は、今日はキッチリと新郎に見える姿をしており。
 見目麗しい夫婦の誕生に、ヤッカミ半分賞賛半分な声が教会内でも聞こえて居たらしい。

 
 新婦からのアタックを尽く回避し続けた彼も、この数年で随分色々な経験を積み、『男』として見違える様になって。
 今までの『柔らかい』印象の中に、懐の深さ――元々あった優しい感じに加え、時として見せる強さ。
 その外見から、異性からだけでは無く同性をも惹きつける様な、そんなオーラを出して。
 ――ようやく望みを叶える事となった新婦も、日々気が気でなかったらしい――とは後日談。 

「そりゃ、女の人からの視線もだけど!
 同性からも、時々秋波が送られて来てるんだよ!?
 果ては、魔族関連でしょー…もー、ほんっとに大変だったよー…聞いてる、ゼータ!?」

「いや、んな事俺に言われてもだな…」
「そう言えば! ゼータとも一時なんだかアヤシイ噂が流れてた時期がっ!」

「いや待て! それは果てしなく誤解って言うか…っちゅーか、飲みすぎじゃねー!? 
 旦那さーん! 奥さん、既に出来上がってませんかー!!」

「あはは。大丈夫ですよ?
 まぁ、なかなか会えないメンバーがこうして集ってくれたんですし…彼女――っと
 妻も嬉しいんですって。僕だって、皆さんに会うのは久し振りなんだし…
 諦めて、付き合ってあげてください♪」
 ちらち、一瞥をくれたかと思うとそのまま彼の周りを囲んでいる面子――昔からの常連客だ――
 との会話に戻って。

「で?」
「いや、で? って言われてもだな…何が 『で?』 なんだ?」
「う・わ・さ! 昔色々出てた噂は、何処までが噂で何処までが真実かっていう話をさっ!」
「んー? 俺が答えても良いんだが。
 ――今夜、旦那からベッドの中で教えて貰えば?」
 にやり。

「―――それもそうね?」
 いや、良いのかそれで…?

「で?」
「いやだから。で? じゃ解らんって! 今度は何の 『で?』 よ?」
「ロッテとはどーなってんの?」

 ぶー。
 飲んでた牛乳噴出しました。

「―――…」
「きこえませーん」
「―――………」
「全然聞こえませーん」
「っ! どーにもなってねーや! うわーん!!(TT)」

「あははー。押しが弱いのは変んないだねー。
 あ、ロッテー! ゼータのからのアプローチって、現在どんな感じー?」
「そんな話を、堂々と本人の前で聞くなっ」
「今日はおめでとー。で、お誘いありがとねん♪
 えー? ゼータからのー? しょんないなぁ…」
「ロッテも、あっさり答えようとすんなー!!」

拝啓 ゼータ様

益々ご健勝のこととお慶び申し上げます
このたび 私たちふたりは結婚式を挙げることになりました
つきましては 日頃大変お世話になっております皆様に
私たちの新しい人生の門出を見届けていただきたく
人前結婚式を行いたいと存じます
どうぞ 私たちの希望をご理解いただき
皆様には証人としてご列席下さいますようお願い申し上げます
なお 挙式の後 ささやかではございますが 披露宴を催したいと存じます
ご多忙のところ恐縮ではございますが
ぜひご出席下さいますようお願い申し上げます  敬具

追記
ロッテさんにも、招待状はお送りしていますよv

「ん? どうした??」
 楽しげな気配が伝わったのか。
 この街で良く立ち寄る酒場で受け取った手紙に目を通していた俺に、アッシュが声を掛ける。

「知り合いがな。結婚を決めたそうだ」
「あぁ。ヴィーダに居た頃の――」
「懐かしいねぇ…何年前だ?」
「3年――いや、もう4年になるか。――行くんだろう?」
「どーすっかなぁ…まだまだ、志半ばなんだがなぁ…」
「ふ。心は既にヴィーダ迄行ってる感じだが、な?」
「あれ? そー見える?」
「今のゼータなら、誰が見てもそう思うさ。
 どれどれ…? あぁ、彼女も来るかも知れないのか」
「あ! 人の手紙横から覗くなよな!」
 手紙を抱えて、でーっと逃げ出すゼータ。

「俺達の様に、ある程度拠点を持って行動していれば、手紙も届くだろうが…
 彼女は難しいんじゃないか? ――とは言わないで置くか――」

 ロッテには、キルと言う――まぁ、俺よりちょっと相性の良い相手が居る。
 ホンのちょっと、俺より格好良くて。
 ホンのちょっと、俺より強くて。
 まぁ、家柄は随分と向こうのが上だが…

 大きな差なんて、ソレ位だっ!
 と、自分に言い聞かせていた訳だが…
 一度、酒場でゆっくり話せそうなチャンスがあって。
 まぁ、何を考えてるのか解らん相手ではあるが…恋敵を知る良い機会だと思って、思い切って話掛けてみた。

 ――ロッテが惚れるのも無理ないかな、これは――
 いや、もー降参? 俺の方が参りそうな良いヤツだった。

 尻尾を巻いて逃げ出しても良かったんだが…
 俺は、生憎とそんなに諦めの良い方じゃない。

 少なくとも、本人から拒絶されない限り――されたって諦めるもんか――
 手を引くツモリは毛頭ないんだが。

 この差は如何ともし難いな、とも思った訳だ。
 ロッテに与えれるモノが何か。
 そんなのを競う必要は無いと思う。
 そんな事は望んでない筈だと――解っているんだが――

 負けっぱなしで――それで満足してしまう訳には行かない。
 ロッテの前だけでは、負け犬で居る訳には行かない。
 俺だって、男だしな?
 
 俺がロッテに対して出来ること。
 ―――差別の無い世界。

 半魔だからと言って、誰も何も言わない――そんな事は普通で、誰も気にしない。
 そんな世界を作ってやれないかと――

 ――誇大妄想だと、思う。
 1人でなんとかなる問題では無いと――
 それでも。キルと言う相手と対等で――俺が、俺としてロッテに向き合う為に。
 何かしてやりたいと思った。
 俺のロッテに対する想いと――
 そして、キルと言う相手の大きさが。俺に色々と考えさせた――

 諦められたら。ホント、楽だったと思うなぁ…

「巻き込まれた方は、たまったモンじゃ無いがな?」
「んな事言ってもなぁ。俺は、ギルドを組織するって柄じゃ無ぇしなぁ…」
「俺が【元賞金首】だって事、覚えてるか?」
「手配は消されてるんだ、なんとかなるだろう。で、次の仕事はナンだっけか?」
「――お前は、色々考える割に底が浅い――」
 アッシュの溜息が聞こえる。
 ――聞きなれたケドな!(TT)

「単一民族主義――自分達以外は、皆奴隷だと。
 馬鹿な思想を掲げた一族さ。
 貴族と奴隷と言う言葉を見事に体現している、ここはそんな土地だ」
「――まだまだ、そんな場所は多いのかなー…」
「減らして行くさ。
 影で半獣人を虐げる村長は死んだ。
 種族が違うからと、当初結婚を許されなかった2人は結ばれた――
 話しが通じる相手なら、解って貰える。
 ――そう言ったのはお前だ、ゼータ。俺は、手を貸すだけ――」
「だ、な。やると決めた以上は張り切らにゃ!」

「今度の相手は今迄で一番手強いぞ。油断はするなよ?」
「この件が終ったら即ヴィーダに向かわないと、式に間に合わないからな。
 気合満点だぜっ? ――じゃ。館のホールで合流だ、アッシュ」
 

 やがて日も暮れて。
 名残を惜しみつつ、1人又1人と真昼の月亭を後にする。
 新郎新婦は、最後まで残った面子と心行くまで話しあって。

 が。やがて、宴も終りを迎える――

「皆、日常に戻る。か…」
「30近くなって、夜の夜中まで飲んでる人もココにいるけどねんv」
「良いんだ! 俺は現役冒険者なんだから!
 冒険者と書いてロクデナシと読む、って言われる位なんだぞ?」
「言い訳にもなってないと思うけど――まぁ、ゼータは冒険者って名乗ってたもんね。
 ゼータは、ね?

 ……キミ、誰さ?」
 周囲の温度が、一瞬にして下がって――

「いや、誰と言われても…ロッテ。もしもーし?
 俺が、ゼータ以外の誰に見えるっってんだ!? 酔った? もーフラフラですか!?
 これは、ひょっとして『このまま寝室まで連れてってv』とかいうモーション!?」

「………」
「―――ふむ。何時解った?」
「――その姿で、その声で話されるのはムカツクから。
 戻れるなら戻ってくんない?」

 ゼータが。
 ゼータの姿をした誰かが、指輪に触れる。
 その姿が、一瞬霞んで――

「――アッシュ君、だっけ…? やっぱりキミかぁ…」
「メタモルフリング――。値は張ったが、便利な物だろう? 尤も、バレたんでは意味も無いが…
 もう一度聞こうか。何時解った?」

「んー。最初っから?
 なんとなくそう言うのって解っちゃうんだよね、ボクって。
 で。何でキミが此処に?」

「ゼータが、来たがって居たからな。
 皆に心配も掛けたくないと…そうも言っていた。
 だから、俺が『ゼータ』として此処に来た」

「……そ、っか…」
「アイツは、笑ってたよ。
 命が尽きる、その瞬間に――会いたいと願う相手に出会えたのかも知れないな…
 だから来た。
 礼を言いに、な」

「………」
「皆がゼータに会えるのは、今夜が最後だ。
 そして何時かは、皆ゼータを忘れるだろう。
 

 アンタも、早く忘れてやってくれ。
 俺が、アイツの事を時々思い出してやるから…」
 そう言いながら立ち上がると、指輪を外し――踏み砕くアッシュ。
 その場から動かない――動こうとしないロッテを残し、真昼の月亭を後にする。

 本当は
 ロッテをそっちに送ってやろうかと思ったんだ
 だか、彼女は『俺』を見破った

 彼女は、俺達より長い寿命を持つ
 だが、そっちの時間は遥かに長いらしいしな
 暫くの間、待ってやってくれ

 そして、恋敵と2人
 彼女を奪い合うんだな

「彼女が来るまでの間、俺がお前の相手をしよう…」

てるさんからまた何かいただいちゃいました。
何か、キルとチャットしたらすっかり何か、闘争心なくなっちゃってつまんないんですけどー(笑)勝てなくね?っていうから、「その勝てなさ加減が良いんですよきっと、ゼータさんは」「むしろ悲恋。悲恋イイっすね!」とか言ったら本当にこんな悲しいのを送ってきてくれました…(笑)
つーか、なんですか?!アッシュさんは後追い自殺ですか?!それはそれで、せ、せつねええええ!キル×ロッテ←ゼータ←アッシュの構図なんですかそれは?!(笑)どんな四角関係だよ!(笑)
ということで、切なく胸にきゅんきゅん来るお話をどうもありがとうございました!またよろしくお願いします!(笑)

で、何か知りませんがお返しとか書いてみましたよ(笑) →  「Absolute