※この作品は、シナリオ「Hide and Seek!!」第3話にて、ミケさんが「扉を開けると怖いものが待っている」という扉を開け、己の中のトラウマと対峙する、というプライベートアクションを前提としています。
「ミケさんが意を決して、怖いものが待っている扉を開けた後」という場面想定でお楽しみ下さい。
知らなくても楽しめますが、営業課>リアクションから「Hide and Seek!!」をお読みいただけますと幸せになれます(笑)

くら、と目眩を感じる。
「あ、れ……?」
「あ、ミケなのねー。ようこそなのー♪」
「あ、ああ……パフィさん。お久しぶりです。ええと……」
「進む道に悩んだのねー?だったら少しだけ、ミケの縁を見せてあげるのー」
水晶玉の前へどうぞ、と言われ素直にそれを覗き込む。

「くすくす、やっと傷がつけられるようになったんですね?」
「ええ。まだ、それだけですけれど」
どこかの草原。けれど、焼かれ、大地はえぐれたそこは、よほど激しい魔法が使われたのだろう。へたり込むミケの前で、桜色のローブに血が滲んだリリィが立っている。
「悔しいな……」
「っふふ、そんなに私を追いかけ回すほど、愛してくださっているなんて、光栄ですvきゃ」
「……言ってなさい」
「いい加減、認めませんか?」
くすくす笑いながら傷口を手で撫でれば、その白い肌を痛ましく見せていた傷が綺麗に消える。
「認める……?何を、です」
ミケも、傷に手を当てて呪文を唱え……それを癒す。そうして立ち上がってきっとまっすぐ見つめると……リリィは優しく笑った。
「どうして、私を追いかけるんですか?嫌いだったら避ければいいのに。追ったりしなければいいのに」
「それは」
「……ふふっ、あなたは、私が好きなんですよ。確かに私はからかいますけれど……憎たらしく振る舞ってるんでしょうけれど。だからってわざわざ追いかけて倒したいなんて、思いませんよ?」
本当に、嫌いなら。
そう含ませた言葉に、ミケは眉をしかめ、沈黙する。視線は、挑むようにリリィを見据えたまま。彼女も口を閉じて真っ向からそれを受け止める。

そして。
ふ、とミケは苦笑した。

「……認めましょう、負けを」
「負けって、ミケさん、表現違いません?」
「違いませんよ。惚れた方が負けだって、思いますよ、今は特にね」
彼女の前まで歩いていき……膝をつく。……女王に忠誠を誓う騎士のような仕草。
「……あなたが、好きです。あなたの事を考えるとおかしくなりそうなほど。……もう、おかしいんでしょうけれど、ね」
にこにこと差し出された手を、どこか苦々しい顔で取って……その甲に口づける。
「あなたを、ねじ伏せて僕の物にしたい。このまま引きずり倒して捕まえてしまいたい。あなたの一番になりたい。……あなたの愛が欲しい。……膝をついて愛を請うなんて……考えたことも、なかったけれど」
静かに見上げる顔は、迷うことも憎むこともなく。ただ、まっすぐに彼女を見つめて、彼女だけを望んでいる。
「うふふ、やぁっと、認めた……可愛い私の魔導師殿」
に、と笑って……そっと差し出したその手で、ミケの髪を梳く。
「じゃあ、私のペットのなりますか?可愛がってあげますよ?」
「……それは、チャカさんとあなたのような?」
「ええ」
「じゃあ、遠慮します」
きっぱりとそう言い切ったミケに、リリィは首を傾げる。
「私の愛が、欲しいのではないの?」
「欲しいですよ。でも、僕は僕の全てを捨てて、あなたが欲しい訳じゃない。……あなたのやることなすこと、気に入りませんよ。あなたが今までと同じ事をするなら、僕は間違いなくあなたに敵対する」
「…………そう」
しっかりとした意志の伴った言葉に、リリィは静かに笑う。
「せっかく、可愛い猫ちゃんが、私の物になったと思ったのに。違ったのかしら」
「その猫は、散々気に入らなかった自分の首につけられたリボンが、自分の物だと……自分の一部だと、理解しただけですよ。その猫は自分の主人が誰かなんて、考えていない」
この気持ちを、素直にあるがままに受け止めただけ。
信念や心全てが彼女の物ではない。チャカとリリィのようには、なっていない。
「あらあら……残念ね」
「そうなんですか?」
「ええ。それじゃ、他は変わらないんですね」
「そうですね。あなたを追いかけて、ねじ伏せて……僕を見て欲しいと……僕を思って欲しいと思いますし。あなたが遊んでいて、それが気に入らなかったら潰そうとするでしょう。戦闘にもなるでしょうしね」
そこまで言って、ふとミケはリリィの手を引く。されるがままに彼の前にしゃがみ込んだリリィの目を、見つめてミケは静かに笑みを浮かべた。
「……追いかけっこを、しませんか?」
「追いかけっこ、ですか?」
「ええ。僕があなたを追いかけて、捕まえたら。こうして、捕らえることができたら。僕の物になってください」
「まぁ!うふふ、いいですよ」
頷いたのを見て、ミケは手を離す。
「でも、そうですねー。ミケさんは、全てと引き替えでも私が欲しいと思うの?」
「命くらいなら、引き替えてあげますが?あなたのいう全てが、よく分からないのですが」
「家族とか、友達とか、地位とか名声とか」
「別に構いませんが……」
不可解そうに首を傾げる彼の手を、リリィが掴む。
「じゃあ、人間止めましょうv」
「はい?」
「そうでしょう?今のミケさんのペースじゃ、捕まえるも何も、50年経っても多分無理ですよ。ううん、死ぬまで追いかけても無理ですね」
目の前のミケが、思い切り返答に詰まり……怒りを湛えた瞳で見つめる。
「そ、そんなにかかりませんっ!」
「どうだか。それに、当然捕まえたとしても、あなたがずっと捕まえていられるとは思わないんですよね!私も逃げようとしますし。どう思います、その辺」
「う。そ、それは……」
「だから」
にこりと、リリィは笑う。
「……私と同じように、なりましょう。50年でも、100年でも。納得できるまで、追いかければいいわ。私が飽きるまで、ずっと追いかけっこをしてあげる。ずっと、ずっとずっと、ね」
追わせてあげる。
いつまででも。
「そうまでしても、私が欲しい……?例え、不自然にその命を歪めてもいいほど」
「っはは……そうですね、それがあなたのいう全てなら、引き替えで良いですよ。いりません」
揺らがない瞳。
それにリリィは満足する。
「くすくす……ひとの醜さに当てられて、こちら側に来る方が早いかしら……?それとも」
万が一にでもあなたに捕らえられて、あなたと共にいたいと望む日が来るのかしら。
そう囁いてやれば、後者を目指しますよ、と嬉しそうに言う声。
「いいわ。どこかで何かをやるときにはあなたに教えてあげます。止められると思うのなら来ると良いわ!」
「ええ、ありがとうございます」
「じゃあ、チャカ様に改造していただきましょうねvその前に」
立ち上がった2人は見つめ合う。……ミケはリリィの言葉の先を待っているのだろうが。
「追いかけっこは、もう始まっているの?」
「鬼は、逃げるための時間を数える物ですよ?」
これから改造するから、というのに、今から追いかけるのもおかしくないかと思ったのだが。
「……捕まえて、いいと?」
伸ばした手が、リリィの腕を掴む。それを避けもせずに受け止めて……リリィは微笑んだ。
「捕まっちゃったvチャカ様のところへは明日行きましょう?というわけで。今夜は、あなたの物にしてくださいな。いい加減、私のイイところもちゃんと分かってるんでしょうし♪楽しませてくださいねv」
「は……言われなくても」
「うふ……楽しみにしているわ。ところで」
抱きしめられた腕の中でリリィは楽しそうに笑った。
「もう一回。言って?私が好き?」
「好きですよ。……愛しています、リリィ」
「きゃははは!……好きよ、あなたが。私だけを見つめるその目が。闇色に染まらない心が。……ひとの一生、なんて短い物で解放してなんか、あげない。あなたは、私と一緒に……ずっとずっと、長い時間を生きましょう?愛しているわ、ミケ」
熱が籠もった瞳で。
視線が絡み合って。
そっとリリィが背伸びをして……。

がしゃーん。

「ミケ、酷いの~~~~~っ!この水晶玉、パフィの大事なものなのに~~~~っ」
「だっ……誰が認めるもんですか……っ!こんな……」
「照れなくてもいいのねー。絆の関も蜜月もOK!後はこの未来を進むだけなのねー」
「なのねー、って……変えられるんでしょう、未来はっ!」
「パフィは究極の占い師なのー。絶対外さないのねー」
「う、嘘だ……」
「じゃあ、もう一回」
「その水晶玉はどこから出しました!?」
「こういうものは常にストックがあるのねー。ちゃんと見て、納得して未来を受け止めるのねー」

ふと、部屋に入った途端に術にかかったのだろうミケが……ぼそぼそと何か言い……吹っ切れたように顔を上げた、ように他のメンバーには見えた。

1, ナイフを取り出す
2, 喉に当てる。
3, …………そのまま刃を

ミケーーーーーっ!と事情が分からないなりに止める周囲を他所に、ミケはそのまま叫んだ。
「死なせて!この世界を滅ぼすのが自分なら!自分で創り上げた全てを壊すのがこの僕自身なら!今、ここで死んで……そんな未来、消してやるんですーーーーっ!離してーーーっ!」
その後、ミケは何を見たのかと聞かれても、曖昧に笑い首を振るだけだった。口に出して何かが現実になるのが、とてつもなく怖かった。
悲鳴を上げるミケがよほど怖いものを見たのだろうと……皆は思うのでした。

ちゃんちゃん☆
一番怖いのは未来と、変わりゆく自分(苦笑)

というわけで(笑)冒頭にもあるとおり、「Hide and Seek!!」内のお話です。
ミケさんがあのPAをやるにあたって、最初に草案を3つ出してくれたんですね。ひとつが採用した「魔道の師匠編」、もうひとつが「生き別れの(笑)姉編」、で、最後のひとつがこれです(笑)
リリミケにもしハッピーエンドがあるとしたら、最終的にこういう形になるのかなあ、とはあたしも思います(笑)結局追いつ追われつ、からかいつからかわれつつ、最終的にやられるとかそんな感じの(笑)ミケさんには大変申し訳ないのですが、この2人に甘々とか、ない…(笑)ミケさんもそういうのは望んでなさそうですしねー(笑)