「こんばんはー♪」
「……ああ、こんばんは?」
珍しく顔を見ても逃げないし引かない魔導師に、どこかつまらなそうに娘は膨れた。
「もっと何かリアクションください。つまんないです」
「そういう気分じゃないので」
くつくつ笑う彼は、満開の桜の下に座り、これまた珍しくナノクニの酒を飲んでいて。
ひらり、と舞った花びらが、その杯に滑り込む。
「いかがです?」
「あら、それじゃいただきます♪肴は何かあるんですか?甘いもの希望ですv」
「サカナなら、目の前に」
「えっとー、剥き身になりましょうか?」
「…………えー」
「超不満げですね」
むぅ、と言いつつも、彼の横に侍るようにして座る。一瞬驚いたように目を見張るから、調子に乗って腕を絡めて……彼の杯を奪って、飲み干す。
「ナノクニのお酒は、あんまり美味しくないですね。もっと甘口のお酒の方が好きです」
「半分同感ですよ」
「じゃあ、なんでわざわざ」
「肴が甘いから、いいかなと思って」
手酌しようとするのを留めて、娘は彼の杯を満たしてやる。短く礼を言って……彼は木の根本から桜と月を見上げて、笑う。
「凄く、綺麗。月のある夜の桜は」
伸ばした指先を掠めるように、逃げるように花びらが逃げていくのを、楽しそうに見つめる姿に、娘は気分を害したように……彼の腕を思い切り引き寄せる。手にした杯から酒が零れた。
「……」
ふ、とどこか彼女自身を見ていない目で、彼が微笑む。もう少し引き寄せれば、また唇が触れそうな位置なのに、彼が見ているのは何か別のものなのだと、娘は知る。
……この苛立ちは、彼が自分を見ないことにあるのだと、唐突に悟って……笑みを消す。……彼は自分だけを見ていればいい。その心を占めるのは自分だけでいい。彼は、彼の心は自分のものなのだから。……逆はないけれど。
「えい」
彼を思いきり突き飛ばして、苦情が来るより早く。
彼女は太い桜の幹に手を当てて、笑った。いつもの、優しげな、残酷な笑みで。
「私、今、この桜、だいっきらいですv」
ゴ、と触れた部分から吹き出した炎の音に、彼は呆然としてから、叫んだ。
「ちょ、ちょっと!なんてことをするんですかっ!」
「だって、あなたが私を見てくださらないから。あーあ、ここまで大きくなるのに何十年何百年ってかかったんでしょうに。可哀相」
「だったら、今すぐ火を消しなさい!」
「イヤです」
怒られて、彼女は嬉しそうに楽しそうに笑った。彼はもう、桜を見ていない。今見ているのは目の前にいる自分だから。
「私も、桜は好きなんですよー?でも、今、この木は嫌いなんです。きゃ、乙女ゴコロですねv」
「……訳分からないこと、言わないでください」
「分かってないのは、あなたの方です」
んべっと舌を出して、少女はふわりと宙に舞う。翻る衣が月の光に白く輝く。
「つまんないから、帰ります。今度はもっと、遊んでくださいね」
「火は消して行きなさい!こらっ」
「知りませーん。魔法使えるんですから、自分で消してくださーい」
ふわ、と一度光を放って消えた娘に、一度舌打ちしてから、彼は風の魔法で……火を消した。
「……あーあ、本当にもう。なんてことを」
熱に煽られて舞う桜吹雪の中、ため息を吐いた彼はもう一度手を伸ばす。するりと花びらは指先から逃げていく。
「本当に……綺麗。月と一緒だから、余計に綺麗で……手を伸ばせば逃げるくせに、気まぐれに杯には落ちてくる。それでも見つめずにはいられない。憎たらしくて、それでも……好き、って思うんだから、不思議なものですが」
そんなことを考えながら、杯を傾けていたら……桜を纏った当の本人が現れて。
酔いも手伝った幻かと、思っていたが。
「すみません、勝手に重ねて見ていたせいで、半分くらい燃やしてしまって」
木に一言謝って、酒と杯を拾い上げて視線を上げる。何の気なしに目の前を過ぎった花びらに手を伸ばしたら、あっさりと花びらは掌に収まった。
「……本気で手を伸ばしたら、こうやって収まるかな。……ふふ、絶対収まらないでしょうね」
決して手には入らないと認めているのに……けれど、楽しそうに彼は笑う。
「それでも、いいと思えるから、また不思議ですね」
手の中の花びらに一つ口づけて、風に乗せる。
「たまには、桜花精との逢瀬も悪くないものですね。……燃やしたりしなかったらなお良かったんですけども」
一度木に回復魔法をかけて、彼は背を向けた。
歩いていく彼の髪に、一片の花びら。それは、彼女が向けたほんの小さな関心のように、彼には見えないところで、彼だけのものとして存在していた。


桜とは生の象徴、死の象徴、エロスの象徴だそうです(笑)
リリィちゃんは桜色の服を着てるし、見た目儚げで綺麗なので、桜姫って感じがすると、勝手に思っています(笑)
月(チャカ)と一緒が一番綺麗だと、思ってます(笑)ま、時々見上げるくらいでいいかななんて。……被害がないうちは(笑)

はー、やっと書けましたー。リア終わったしー。途中で「リアクションなら月末だけで充分です!」とか言ったらギャグになってしまうと、慌てて消したり(笑)

とりあえず、リリミケ企画完結おめでとうございます(笑)
楽しかったです、いやっほぅ(笑)

相川和泉さんからいただきましたv
いやぁもぉ、リリミケの、ミケさんのリリィに対する嫉妬+対抗意識+愛情の複雑な感情描写は、相川さんに書かせると天下一品ですよねーvうっとりと拝見させていただきましたvうちの人魚姫もここまで愛されたらなびいちゃいそうですよ本気で(笑)
…というか、完結?!完結なんですか?!(笑)あたしまだ書く気満々なんですけど!(笑)
そんなこと言って、リリミケ一番描いてるのは相川さんなんですからっvもぉっ、また期待してますよっv(笑)
どうもありがとうございましたーvほくほくv