それは、讃地祭の日。
去年のヴィーダはなんだか偉いことになったらしく、今年はおとなしいものだ。
「そういえば、子どもがカボチャのランタンを持って、お菓子をねだるんでしたっけ」
ミケはふと、そんなことを思い、微笑ましく思う。

子どもは大人にお菓子をねだる。
たくさんの友達との楽しい思い出になるんだろう。

「…………そーいえば、あんまりその記憶がないなぁ」
兄も姉もそんなことをしていた覚えはない。
まぁ、あの家だから、と納得させる。
先生の元に行ってからは、そんな怖いことは言えなかった。
お菓子という名の何かを喰わされるのは、ゴメンだった。
市場に行くには、こっちの道が近いかな……そう思って入った細い路地にも賑やかな声がした。
「とりーっく、おあ、とりーとっ!」
小さな子がローブの裾を引く。一瞬目を丸くしたが、そういえば、と思い出して持っていた鞄を探ると飴が出てきた。
「はい、ごめんなさいね、少ないんですけれど」
「わーい、飴だー!ありがとう!」
「ふふ、どういたしまして」
にこっと微笑んで手を振る。一生懸命手を振りながら走っていくその子を微笑ましく見送り……。
「Trick or Treat?」
「え、ああ、えっと、まだ何かあった……か……」
きゅ、とローブを握るのは。
「こんにちは、ミケさんv」
「あなたにくれてやる物など、何もないっ!」
即答だった。むしろ塩があったらまきたい、そんな気分。
「いやーん、イタズラ希望なんですかーv任せてくださいv」
「ちょ、ちょ……ここをどこだと思って!」
「人通りのない路上です。……やっだぁ、ミケさん、どんなイタズラを期待」
べしっ!
「ひ、秘蔵のチョコレートですが……食べなさい!」
「板チョコは叩き付けられたら痛いんですからぁ」
くすん、とおでこをさすりながらリリィはそのチョコを受け取る。
「一番安い、何の変哲もないチョコじゃないですかー」
「文句言うなー!欲しかったら先にリクエストでもしておきなさい!」
「ミケさんが食べた……」
「チョコを食べろと言っているでしょう!」
ああ、最後のチョコレート。
たまに甘いものが食べたくなったときのものなのに。
……安いって、そんなに安くなんかない。
非常食と言っても過言では。
「……ま、まぁいいや……。新しいの買ってこよう……。あなたも早く帰りなさいね」
「ええー、ミケさん、遊んでくれないんですかぁ?最近付き合いが悪いですー」
「……付き合いが悪いって、そもそも最近会ってなかった気も」
「むー」
無視して歩き出せば、ローブを握ったままで着いてくる。
チョコを口に運びながらついてくる姿は見た目のように少し幼い少女だが、いかんせん中身は100歳を超える。
「……むしろ、あなたからお菓子をもらうべきなんじゃないですか、年齢的に」
「……え、返しましょうか、コレ?」
「半分ほど囓ってあるのに!?」
「はい」
甘い香り。
誰のチョコだと思って。
いらっとしたが、この反応も彼女の楽しみに入っていると思うと、余計に腹が立って。
「ふふ、おねだりしたら新しいの買ってあげますよー?」
にやにや、とその苛立ちを煽るように背伸びして顔をわざわざ寄せて囁く。
言いたいことは山のように思い浮かんだが…………ふと。
甘い香りを放つそれが、欲しくなって。
「……別に買っていただかなくても結構です」
「まぁ、意地っ張り」
「ですから」

「Trick or Treat ……or taste?」
「はい?」
違う単語が一つ混ざって、きょとんとしたリリィを一つ引き寄せて。
「……ご馳走様でした!」
「ふっ……きゃはははは!うふふ、予想外で楽しい反応でしたよv」
「そりゃどーも」
「ふふ、じゃあ、遊んでもらったし、おとなしく今日は引き上げてあげます。それじゃあまた」
「2度と来るな」
あっさりと目の前から消えたその場所を睨みながら、口元をこする。
甘いチョコレートの味が広がって。

あの瞬間、本当に欲しかったのは。

考えそうになって止める。
違う、こんな感情、絶対に違う。
甘い甘いチョコの香りに、くらっとして。

今日は買うのを止めようと決めた。

欲しかったのは、どの香り?

『Trick or Treat or ……T?』

拾ったネタでGO!
ささくれだった心が少しでも穏やかになりますように。

ハッピーハロウィン。

去年のハロウィンの時に頂いていました。なんか心がささくれだってたかしら、と思い起こし、ああそういえば、この頃HNY2の締め切りだったなーと(笑)
色々ありましたな…懐かしい(笑)まだ1年しか経ってないのに(笑)
ミクシのメッセの方に、『パソコン』という謎のタイトルで到着したメールに、10月30日なのに『ギリギリ間に合った!』という謎のメッセージを添えてお迎えしたいわくつきのSSです(笑)タイトルがなかったので、適当につけました…こ、これでよかったかしら。
相川さんにはいつも励まされています、ありがとうございますv