「んっ……ふふ」
始めのキスの後、ロッテは唇を離して微笑んだ。
いつものように、何かを企んでいるような、妖しげな笑みを。
「今日はキミのリクエストに応えちゃおっかな」
「リクエスト…ですか?」
いつもの微笑を崩さずに、キル。
ロッテは楽しそうに笑った。
「そ。いつもボクばっか楽しんじゃって申し訳ないからさぁ?」
言っている内容とは裏腹な口調でからかうように言って。
「だから、言ってみてよ。
…どこにキスして欲しい?」
挑戦的な瞳で、キルのそれを覗き込む。
視線を正面から受け止めて、彼は微笑んだままわずかに首をかしげた。
「さて…難しい質問ですね」
「そぉ?」
「貴女のお好きなように…というのは却下ですか?」
「えー、キミいつもそればっか」
ロッテは不満げに口を尖らせる。
「そうでしたか?」
「うん。キミいっつも、ボクの『仰せのままに』って言うじゃん。
そーじゃなくて、キミ自身の希望はないわけ?」
「そう仰いましても…」
キルは不思議そうな表情で、また首を傾げる。

「貴女の望む通りに、というのが、私の希望ですから」

ロッテは目を見開いて沈黙し…ややあって、半眼で眉を寄せた。
「…なんだー、それー」
褐色の頬を少しだけ朱に染めて。
キルは嬉しそうに微笑む。
「ですから、貴女のお好きな場所にして頂くのが、私の希望ですと」
「いやーだからそうじゃなくてさー」
キルの言葉を遮るように声を上げて。
…しばしの沈黙の後、うなだれるように肩を落とした。
「…むー。反則だよソレ」
「そうでしょうか?」
キルは相変わらず嬉しそうに微笑んでいる。
ロッテは少しだけ顔を上げて、恨めしそうにキルを睨んだ。
「…ホントに、ソレでいーんだね?」
「ええ、それで」
「んじゃ、ボクのスキなよーにやっちゃうから」
「はい、そうして下さい」
「…………」
「何か?」
何もかもを判っている顔で問われ、ロッテは口を尖らせる。
「…何でもないっ」
短く言って、キルの長い髪の毛をぐい、と引っ張って。
噛み付くように、その唇を奪う。
相手の全てを奪うような長いキス。
やがて、名残惜しそうに唇を離してから、やはり睨みつけるようにして問う。
「…コレで、いいわけ?」
「ええ、それで」
にこりと微笑むキルに、釈然としない表情のロッテ。
「では、今度は私からお伺いしましょうか」
「ん?」

「…何処にキスをしましょうか?」

ロッテはきょとんと表情を失くして。
やがて、顔中に笑みを広げた。

「………んじゃ、キミのしたいところに」

2006.6.28.KIRIKA