運命という言葉は、あまり好きではありません。
何者かに自分の人生が仕組まれていると考えるのは、不愉快なものです。
たとえそれが、神と呼ばれる存在だったとしても。

「ね」

ですが、例えば。
そんな風に、貴女が上目遣いで、何かを企んでいるかのような笑みを向けてくると。

「コレって、運命だと思う?」

私はいつものように笑みを浮かべて、貴女に答えるでしょう。

「これ、とは?」
「ボクとキミが出会ったのが、さ」

いつもはそのようなことを気にするそぶりさえ見えない貴女が、
突然そんな、年頃の少女のようなことを口にする。
これだから、目が離せないのですが。

「…そうですね。貴女の御父上と、私の父との関係を思えば、出会うべくして会った、と言うのが妥当だと思いますが…」

少し、考えて。
そしてまた、貴女に笑みを投げます。

「…そうでなかったとしたら、貴女はどうするのです?」
「そうでなかったら、って?」
「貴女と私が出会う運命でなかったら、ということです」

貴女は一瞬、何を言われているのか分からないと言ったように表情を失くします。
それから、また同じように、何かを企むような笑みを広げて。

「…もちろん、どんなことしてでも会いに行くに決まってんじゃん」

…そんな言葉をさらりと吐いてしまうのですから。
柄にもなく、運命というものがあるのも悪くない、と思えてしまうのですよ。

もし、運命などというものを仕組んだ存在があるとするならば。
その存在に、感謝さえ捧げてもいいと思えるほど。

貴女との出会いは、私の生そのものを、変えてしまったのですから。

2006.6.23.KIRIKA