「キミってさ」
ぴったりと身体を寄せてきた彼女は、袖に包まれた彼の手を取った。
もそ、と、袖を彩る長い布をたくし上げると、その先の手に到達する。
「…こーんな長い袖なのに、なんでさらに手袋なんかしてんの?」
そう。彼の手は、袖に覆われているのになお、二の腕ほどまでもある手袋をきっちりと嵌めていた。
改めて問われた言葉に一瞬きょとんとして、それからいつものように薄く微笑む。
「前にもご説明差し上げたと思いましたが。肌を晒すのは、あまり好きではないのですよ」
自分の手にふれられた彼女の手を、指先で弄ぶようにしながら。
「触れられるのは勿論のこと、他人の視線に晒されていると思うだけでも我慢ならないのです」
「ボクの時は脱いでるじゃん?」
「貴女が脱がしているのでしょう」
「あり?」
苦笑して言われ、彼女は首をひねって思い起こした。
「…そーかもしんない。なに、キミ脱がないでスルの?」
「貴女以外の時は、概ねそうですが」
「まじでー」
彼女は本当に驚いたようだった。
「ボクは全部脱いだ方が気持ちイイけどなー」
「必要な部分だけ晒していれば充分です」
「うあ即物的。着衣はそれはそれで萌えるけどー。邪魔じゃん?」
理解できない、という風に眉をひそめて、彼女。
「んじゃ、ボクも脱がない方がいい?」
首をかしげて問うてくる。彼は笑みを崩さずに、彼女の指に指を絡めた。
「貴女と肌を触れ合わせるのは、嫌いではありませんよ」
その答えに、むぅと頬を膨らませる。
「スキでもないんだ?」
「さあ、どうでしょうか」
にこりと笑む。
彼女はむぅ、と睨むと、やおら絡ませていた手を無造作に袖の中に突っ込んだ。
驚いて目を開く彼を意に介すこともなく、ごそごそと袖をあさり…そして、ずるりと引き出された手には、彼の長い手袋が握られていた。
意外にあっけなく、外されて放り出された手袋。
彼女は露になった褐色の手を引き寄せた。

まるで神聖なものでも扱うかのように、両手を添えて、目を閉じて。
ゆっくりと、その指先に唇を触れさせる。

「………」
彼は静かに、しかし確かな驚きを表情に表した。
彼女はゆっくり唇を離すと、に、と嬉しそうに笑みを作る。
「誰にも触らせないなら。ココは、ボクだけのものだよね」
彼も、やわらかく笑みを作った。
「…そう、なりますね」
「ココだけじゃないけどね。キミは、ぜーんぶボクのものだから」
「はいはい。お手柔らかにお願いします」
言って、恋人たちは今度はお互いの唇を触れ合わせる。

指先へのキス。
それは、普通なら何でもないことなのかもしれないけれど。

彼と彼女を確かに繋ぐ、お互いへの所有の証。

2006.6.7.KIRIKA