「……はあ」
「どうかしました?」
大きなため息をついたミケを、まだ楽しそうに覗き込むリリィ。
ミケはそれを恨めしそうに横目で睨んで、またため息。
「…認識した現状にたそがれてるんです。ほっといてください」
実力行使で拒否しても無視しても、何をしても勝てる気がしない現状。
それなのに、引き止めて、あまつさえ美しいと思ってしまう自分。
どれだけあがいても、手が届かない。届く気がしない。
こんな思いを胸に抱き続けるくらいなら、いっそ何もかも壊してしまいたいのに、それすらも叶わない。
せめて。

「せめて、ここまで堕ちてくれればいいのに」

最後の呟きは、言葉について出た。
きょとんとするリリィ。
それには構わずに、再びため息をつく。
無駄に頭が回る彼女は、それだけで全てを察したらしかった。
にこ、と微笑むと。
「甘いですよ、ミケさん」
するり。
ミケの正面に立って、その首に腕を回す。
「私に堕ちてきてほしいだなんて。私が、そんなことすると思うんですか?」
「……思いませんけど。でも、そうなったらいいなあと思うくらいはいいじゃないですか」
「思うだけじゃあ現実には出来ませんよ?」
「判ってます、そんなこと」
近づいてくる楽しそうな顔に、思い切り不機嫌な視線を返す。
回される腕も、もはや振り払うのは諦めた。
に。
リリィの笑みが深まる。
いつもの、優しそうに見えて鋭い笑みに。

「私に堕ちろと願うんじゃなくて。あなたが、堕として下さい?」

ミケの瞳が、少しだけ見開かれた。
まっすぐに、視線がぶつかり合う。
どのくらいそうしていたのか。
ふ、と、ミケの表情が崩れた。

「……望むところですよ」
「ふふ、楽しみにしてますね」

にっこり。
そうやって微笑む彼女は、素直に綺麗で。

たまには、素直に流されてみるのも悪くないか、と思った。

堕ちていっているミケさん(笑)
対するリリィの結論は、まあいつでもこんな風ですよね。
泣き言言ってる暇があったら自分で何でもやってみれと。
彼女はいつも、そのスタンスで生きてると思います。